第三十六話 〜命を削る力〜
リートの言葉を聞き、クリウスは眉をひそめた。
「とんでもないやつって……どういう意味だ?」
だが、リートはすぐには答えなかった。
足元に散らばる黒い灰を見下ろしながら、キセルに火をつける。
「一旦移動するぞ——。」
そう言うと、リートはくるりと背を向けて歩き出した。
クリウスは慌ててその背中を追う。
***
「よし、ここら辺でいいだろ」
襲撃から半刻ほど経った頃。
二人は、巨大な山がそびえ立つ場所へと辿り着いていた。
そこでようやく、リートが口を開く。
「クリウス、稽古つけてやるよ」
突然の提案に、クリウスは目を瞬かせた。
「急だな。なんでまた急に?」
もっともな質問だった。
リートは少しだけ笑うと、前方の山脈を指差す。
「まあその質問に答える前に、この山脈が何か分かるか?」
クリウスは数秒ほど考え込む。
「……さぁ?」
その答えを聞いて、リートはニヤリと笑った。
「ここはな、西の大国“ロゼッタ王国”と東の大国“聖アストリア帝国”を隔てる国境の山脈だ」
リートは続ける。
「名前は“レア山脈”」
それを聞いて、クリウスは思い出したように手を叩いた。
「あぁ、下の方は山脈が途切れていて、関門があるから今からそこに行くんだな!」
だがリートは、腕をクロスしてばつ印を作る。
「残念」
そして山を見上げながら言った。
「この山を越えて、俺たちはロゼッタ王国に入る」
クリウスは声を荒げた。
「また不法入国かよ!」
だがすぐに、腕を組んで考え込む。
(いや……そもそも俺たちは今、反逆者なわけで……)
(まともに国境なんて越えられるわけないか……)
その考えを読み取ったかのように、リートが口を開く。
「そ。お前の思ってる通りだ」
リートは煙を吐きながら続ける。
「《黒い羽根》は、俺たちを国外に出してくれるほど甘くねぇ」
「そしてこのルートは、誰も通らない」
「つまり——」
リートは肩をすくめた。
「俺たち専用の道ってわけだ」
だがここで、クリウスに疑問が浮かぶ。
「いや、そもそもなんで誰も通らないんだ?」
リートはニヤリと笑った。
「問題はそこだ」
そして山を指さす。
「この山には“魔獣”が出る」
「今のお前の実力で入れば、まず死ぬ」
リートは指を一本立てた。
「だから今から最低限の力をつけてもらう、だがアストリアも心配だ。時間がない、一週間でお前を強くする。いいな?」
クリウスは黙って頷いた。
それを確認すると、リートは剣を抜く。
「そして今から教えるこの技は——」
剣を構えた瞬間、リートの呼吸が変わった。
空気が張り詰める。
クリウスは、その気配を見て思い出す。
(さっきの騎士たちの時と同じだ……)
リートは静かに言った。
「この技は、生命力を削る代わりに超人的な力をもたらす」
深く息を吐き、言葉を続ける。
「——《ノア》」
「俺が古巣で教わった技だ」




