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Pandora  作者: アカイヒト
帝国堕天篇
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第三十五話 〜方舟の残影〜

「流石に歩きで行くのは厳しいんじゃないのか」


クリウスは、隣で空を見上げながら呑気に歩くリートへ声を投げた。


「しょうがないだろ。マリザは聖都にいなきゃならねぇし、馬車なんて乗って出て行ったら一発で《黒い羽根》の連中に見つかっちまう」


リートはぼやきながら、キセルの煙を吐き出した。


聖都を出てから、すでに一日が経っている。

二人は歩き通しで目的地へと向かっており、クリウスはすっかり疲れ果てていた。


それに対してリートは、まるで散歩でもしているかのように呑気な様子だ。


クリウスはそんなリートへ視線を向け、問いかける。


「なぁ。“冥工ダイロス”はどこにいるんだ? というか、俺たちどこに向かってるんだよ」


クリウスは流されるままついて来たが、肝心の目的地を聞かされていなかった。


その言葉を聞いた瞬間、リートは道端の石へどかりと座り込む。


「西の大国“ロゼッタ王国”だな。あいつはあそこにいる」


そう言って大きく伸びをすると、思い出したようにクリウスを見た。


「あ、カルライ陛下もロゼッタにいるらしいぞ」


その瞬間、クリウスは立ち上がる。


「お前、陛下の居場所をついでみたいに言うなよ!」


リートは腹を抱えて笑い、そのまま寝転がった。


「わりぃ!」


——まったくこの男は。


クリウスは大きくため息をつき、諦めたように腰を下ろした。


夏の日差しが照り付ける中、時おり涼しい風が吹き抜ける。


(聖都はとんでもないことになってるのに……呑気なものだよな)


寝転がるリートを見ながら、クリウスは心の中で呟いた。


(そういえば……なんで酒場では陛下の居場所言わなかったんだ?)


クリウスはリートの隣に寝転び、空を見上げながら口を開く。


「なあ、リート……」


だが、その言葉が終わる前だった。


リートが突然跳ね起き、腰の小刀へ手を伸ばした。


「クリウス、馬車使えばよかったかもな」


クリウスも飛び起き、周囲を見回す。


「《黒い羽根》の連中か!?」


リートは周囲を見渡しながら、小刀をゆっくりと抜いた。


「あぁ。囲まれたな」


——ガサッ


その瞬間、周囲の空間が揺らぎ始めた。


数秒後、空間から次々と人影が現れる。


「凄いな。魔法で気配を完全に消してたか」


リートはニヤリと笑った。


視線を走らせたクリウスは驚愕する。


現れた十人ほどの人影——

その全てが“帝国騎士団”の団員だった。


「リート……帝国騎士団のやつらだ。見知った顔もいる……」


騎士たちはクリウスには目もくれず、リートへ視線を向けていた。


(俺は脅威じゃないってのかよ……)


クリウスは舌打ちする。


すると、騎士たちの中から一人の男が前に出た。


「“炎の魔神”リート=ジン。無駄な抵抗はやめろ。お前を国家反逆罪で捕らえる」


だが、それを聞いてもリートの笑みは崩れない。


「抵抗はさせてもらう。捕まえたかったら力尽くでやってみろ」


数秒の睨み合い。


先に動いたのは——騎士の一人だった。


「ドリャァァ!」


刃がリートへ振り下ろされる。


だが、その刃は届かなかった。


「《ヘル・ウォール(業火の壁)》」


詠唱と同時に、凄まじい炎が爆発する。


騎士は火だるまとなって吹き飛び、宙を舞った。


「馬鹿野郎が! 相手は“炎の魔神”だぞ!」


リーダー格の騎士が怒鳴り、手話で合図を送る。


騎士たちは一斉に間合いを詰めた。


(こいつら何をする気だ……)


クリウスが様子を見ていると、突然リートに背中を掴まれた。


次の瞬間、後方へと投げ飛ばされる。


「見取り稽古つけてやる。しっかり見ておけよ」


リートはニヤリと笑った。


騎士たちはそれを気にする様子もない。


「お前達。“アレ”を使うぞ」


騎士たちは互いに頷く。


すると——


彼らの体がみるみる変化し、悪魔のような姿へ変貌した。


「こいつらも“契約”してやがったか」


リートの目が一瞬だけ曇る。


だがすぐに、いつもの笑みに戻った。


「そんだけで炎の魔神様に勝てると思ってんのか!」


騎士たちの呼吸の音が変わる。

それを見たリートの顔が一瞬曇った。


「そんだけだと思ったか?」


そして——


騎士達はリートめがけて一斉に襲いかかった。


(速い——)


クリウスは目で追うのがやっとだった。


カキンッ カキンッ


リートは小刀で攻撃を捌く。


だが、九人がかりの攻撃に少しずつ後退していく。


(俺も戦わないと——)


クリウスが踏み出そうとした瞬間だった。


一瞬だけリートの顔が怒りの表情で歪む。


初めて見るリートの怒りの表情に、クリウスの足は止まった。


「こんなもんなのかよ!」


騎士たちは張り付き、攻撃を浴びせ続ける。


その瞬間——


リートが突然立ち止まった。


次の瞬間、再び炎が爆発する。


騎士たちは距離を取り、陣形を整える。


炎の中から、一人の人影が歩み出た。


「お前達……その呼吸法はどこで覚えた?」


炎が割れ、リートの見開いた目が騎士たちへ向く。


その瞬間、騎士たちの背筋に冷たいものが走った。


(これが……“炎の魔神”か)


リーダー格の騎士は心の中で呟く。


「さぁな!」


騎士たちは再び襲いかかった。


だが——


今度は違った。


リートは手をかざす。


「《マース(火の星)》」


刹那。


巨大な火球が出現し、騎士たちを飲み込む。


ゴォォォォォ!!!


騎士たちの悲鳴が火球の中で消えていく。


やがて、声は一つ残らず消えた。


火球が消えた頃。


そこには黒い灰だけが残っていた。


「やっぱ規格外だな……」


クリウスは呟く。


そしてリートへ駆け寄る。


「大丈夫だったか?」


だがリートは答えず、腕を組んだまま苦々しい顔をしていた。


「おい、どうしたんだよ?」


リートはゆっくり振り返る。


そして静かに言った。


「とんでもないやつが……《黒い羽根》に肩入れしてるようだ——」

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