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Pandora  作者: アカイヒト
帝国堕天篇
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第三十一話 〜解き放たれる絶望〜

蝋燭の光が机の上でゆらめく。

その光を、マリザは一人見つめていた。


――コンコン。


ノックの音が聞こえ、マリザは顔を上げる。


「入りなさい」


扉の向こうには、ナイラーが立っていた。


「あら、眠れないの? そんなことじゃ、明日私に勝てないわよ?」


マリザはクスッと笑い、ナイラーを見つめる。

ナイラーはしばらく沈黙した後、意を決したように口を開いた。


「先生……やはり貴方の魔法は凄いですね。この家も、先生の雲の中に収納されている。

あんな小さなものの中に、家を創造するなんて……」


マリザは蝋燭の炎を見つめ、静かに呟いた。


「ナイラー……何が言いたいの?」


ナイラーは声に力を込める。


「この魔法、俺たちは教わっていません。

先生が扱う魔法の一割も、俺たちは使えていない。

それなのに、もう教えることがないなんて……おかしいじゃないですか!」


マリザはゆっくりとナイラーの方へ向き直った。


「あなた達が、私と同じレベルの魔法を学ぶことはできません。

人間と私とでは、“生きられる時間”が違いすぎるのです……」


一拍置き、優しく続ける。


「もう寝なさい。明日に備えなきゃいけないわよ」


ナイラーは下を向き、何か言いたげな表情のまま、

やがて小さく頭を下げ、部屋を後にした。


マリザは再び蝋燭を見つめていたが、

ふと背後に気配を感じ、振り返る。


「……なんだ、あなたね」


壁際にもたれかかるように、一人の男が立っていた。


「久しぶりだの、マリザよ」


「ダイロス……よくこの家に入れたわね」


“機神ダイロス”は、にこりと笑う。


「なに、最近は結界を通り抜けられるよう、

魔力を探知させぬ神器を作ってな」


マリザは呆れたように視線を落とし、ため息をつく。


「神殿の結界が緩む時期を覚えていたのね。

来たのはあなただけ?

他の《パンドラ》の団員達は、何をしているのかしら……」


ダイロスは楽しそうに笑った。


「あやつらが、そんなことを覚えておるわけなかろうて。

それよりじゃ、マリザ。

お前の弟子の二人は、“テュポン”の再封印には

貴重な戦力になると思うが……

なぜ、ここから遠ざけようとするんじゃ?」


マリザは俯いて答える。


「……いいえ。彼らはまだ若いわ。

きっと、この場にいれば死ぬ。

そんな光景を、私は見たくないのよ……」


ダイロスは顎を撫で、静かに言った。


「ふむ……近くで見ておったお主がそう言うのなら、そうなのじゃろうな。

ワシは結界の核を調整しに来ただけじゃ。

今回“出てくる部分”は腕。

お主一人でも、やれるな?」


マリザは勢いよく椅子から立ち上がった。


「ええ。問題ないわ」


     ***


「先生! コテンパンにしてやるぜ!」


「こら、口が悪いぞオズ」


二人の弟子を前に、マリザは微笑みながら見つめる。

同時に、胸の奥で考えていた。


(私があと十年も教えれば、この子達はもっと高みへ……)


その考えを振り払うように、マリザは首を振る。


(いいえ。この子達を、ここに居させるわけにはいかない。

封印が解けると知れば、必ず一緒に戦おうとする……

それだけは……)


「先生、どうしたんだ?」


マリザはオズを見つめ、にっこりと笑って構えた。


「さあ! いつでも来なさい!」


「「おっす!」」


二人は同時にマリザへと向かった。


正面に立ち塞がるオズが、人差し指を突き出す。


「《ニュクス(夜の帷)》」


視界が闇に染まる。


(最初から固有魔法……やるじゃない)


「笑ってる場合じゃないですよ。

《キメラ(創造獣)》!」


ナイラーの体が変貌し、巨大なドラゴンとなる。


前足が振り下ろされ、マリザは横へ跳んでかわした。


「二人とも成長したわね。

でも……この程度じゃないでしょう?」


「まだまだ!《スター・フォール(降り注ぐ星屑)》」


空からは無数の星屑がマリザへと降り注ぐ

たが、マリザは星屑を難なく避け、素早く空へ舞い上がり、呪文を唱える。


「《マジック・キャンセル(強制魔法解除)》」


闇が晴れ、視界が戻る。


(やはり、ドラゴン化ね)


――その時、違和感が走る。


(オズがいない)


頭上から声が降ってきた。


「勿論、これだけじゃないぜ!

《グレイプニル(絶対的拘束)》!」


無数の鎖が地面から現れ、マリザを縛り上げる。


「これで詰みです、先生!」


ナイラーの口が大きく開く。


「《竜炎》!」


真紅の炎が、マリザを包み込んだ。

その炎は絶え間なく放たれていく。


「ばか! やりすぎだぞ、ナイラー……!」


だが――


「……本当に、成長したわね」


炎の中から、眩い光が溢れる。

天使の翼を広げたマリザが、そこに立っていた。


「……マジかよ」


オズは、その場に座り込む。


ナイラーも人の姿に戻り、苦笑して両手を上げた。


「やはり先生は……

俺たちの想像を、遥かに超えた魔法使いです」


マリザは静かに着地し、微笑んだ。


「降参。あなた達の勝ちよ」


「え!? でも先生――」


「天使の力を使った時点で、

人間の魔法使いとして私は負け。

だから……あなた達の勝ち」


一息置き、告げる。


「今日をもって、あなた達の修行は終わりです。

これからは二人が、《パンドラ》を霞ませるほどの名を

歴史に刻むことを期待しています」


二人の目に涙が浮かぶ。


「先生……」


「任せてくれ、先生……!」


笑顔を浮かべる二人に、

マリザは慈愛の眼差しを向けた。


だが、その瞬間――


大地が激しく揺れ、亀裂が走る。


「……まさか」


「二人とも! 早く逃げなさい!」


神殿の地面が大きく裂け、

そこから巨大な“光る目”が覗いた。


(腕じゃない……顔?

それに……早すぎる……)


マリザはその存在を睨み、呟く。


「――テュポン」

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