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Pandora  作者: アカイヒト
帝国堕天篇
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第二十七話 〜千年前の影〜

酒場の地下に戻った瞬間、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。

焦げた匂いと血の気配を残したまま、誰もすぐには口を開かなかった。


その沈黙を破るように、リートが椅子に倒れ込む。


「さすがに痛かったなー」


そう言いながらも、リートの腹部の傷はすでに完治していた。


クリウスがマリザに治療を受けていると、背後から聞き慣れた声が響く。


「借りを作ってしまったな、クリウス。」


振り返ると、そこには全身傷だらけになりながらも、堂々と立つロロイの姿があった。

その姿を見た瞬間、クリウスの目に涙が浮かぶ。


「団長……よかったで――いててて!」


勢いよく立ち上がろうとした瞬間、腹部に激痛が走る。


「傷が深いんだから! じっとしてなさい!」


マリザはクリウスの頭を軽く叩き、無理やり椅子に座らせた。


ロロイは深く頭を下げる。


「本当にありがとうございます。何とお礼を言っていいのやら……」


だが、その言葉をリートが遮った。


「いい。気にするな。それより、知ってることを教えてくれ。」


ロロイは視線を落とし、しばし沈黙する。


その時、ギヨームが肩にオウムを乗せ、湯気の立つ容器を載せたトレイを持って厨房から現れた。


「さあさあ、まずは温まりましょう。」


「アタタマレ〜」


肩のオウムも、それに合わせて甲高く鳴く。


ギヨームが全員にコップを配り終えた頃、ロロイはぽつりぽつりと語り始めた。


「リート殿たちが旅立った直後のことでした。

パトランと、それに組みする者たちが謁見の場でカルライ陛下を襲撃し――

それを止めようとした私は、彼女に敗れ、地下に幽閉されたのです。」


苦々しい表情のまま、ロロイは続ける。


「陛下は今……」


「そこまでだ。」


リートが低い声で制した。


「どうしたんだよ?」


怪訝そうにクリウスが尋ねるが、マリザとパンはすでに警戒した様子で周囲を見回していた。


「クリウス。俺たちが出て行った直後に、この事態だ。

敵が俺たちの動きを監視していたと考える方が自然だろ?」


リートは一拍置いて続ける。


「ここで皇帝の居場所を口にして、外に漏れない保証はない。」


(……確かに)


クリウスは納得したように、小さく息を吐いた。


――敵は《パンドラ》を警戒し、今になって動き出したということなのだろうか。


「ロロイ。皇帝のことは後だ。

無事だというなら、今はそれでいい。」


「……わかりました。」


ロロイはリートを見つめ、静かに頷いた。


リートは次にパンへと視線を向ける。


「パン。ここから、どう動くべきだと思う?」


先ほどから考え込んでいたパンは、顔を上げて全員を見渡した。


「民衆の鎮圧は難しいでしょう。

聖都中の人間が半催眠状態です。何を言っても無駄になる可能性が高い。

だからといって、《パンドラ》を集めるためにここを放棄すれば、アストリアが危険に晒されます。」


クリウスが口を開く。


「《黒い羽根》を、皆さんの力で倒すことはできないんですか?

ロロイ団長もいますし、戦力は十分なんじゃ……」


リートが応じる。


「五分五分だな。だろ? マリザ。」


マリザは治療の手を止め、静かに頷いた。


「当たりよ。《黒い羽根》の戦力は、元帝国騎士が三千人ほど。

教団員も同程度。でも問題は、そこじゃない……」


リートが重々しく言葉を継ぐ。


「ああ……何人いるかは分からねぇが、“契約”してる奴が多い。」


「契約って……悪魔とか!?」


クリウスが息を呑む。


「そうだ。悪魔と契約した連中は、桁違いに強い。」


その言葉に、クリウスの背筋を冷たいものが走った。


「じゃあ……ニコロも悪魔と……」


門兵の姿が脳裏をよぎる。

同じ年で入団し、共に剣を磨いた仲間だった。

クリウスの沈んだ表情を見て、リートが口を開く。


「ほんじゃ、《黒い羽根》を潰すとするか。」


リートが立ち上がる。


「え、五分五分なんじゃ……」


だがリートは、いつもの明るい笑顔で振り返った。


「だから、戦力増強だな。 全員いなくなる訳にはいかないパン、マリザ、ロロイ――アストリアは任せる。」


マリザとパンは顔を見合わせ、微笑み返す。


「任せて。連中の企みを洗い出して、徹底的に潰してやるわ。」


マリザは小さく拳を握る。


「私も、ロロイさんと共に、被害を最小限に抑えるよう動きましょう。」


パンの言葉に、ロロイは苦笑しながら頷いた。


リートは、ふと思い出したようにギヨームを振り返る。


「あ、マスターもな。」


「が、頑張ります……」


ギヨームは引きつった笑みを浮かべる。


「リート、俺は何をするんだよ」


落ち着かない様子で、クリウスが尋ねた。


リートは眉をつり上げ、口元に不敵な笑みを浮かべる。


「決まってるだろ。俺と一緒に探しに行くんだよ、四人目の《パンドラ》――“機神ダイロス”をな。」


「“機神ダイロス”……」


興奮を隠せないクリウスの横で、マリザが静かにリートへ歩み寄る。


「リート……」


だが、その言葉を待たず、リートは呟いた。


「ああ……千年前と、同じだな……」


リート、マリザ、パン――

三人の表情に、重い影が落ちていた。

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