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Pandora  作者: アカイヒト
帝国堕天篇
27/33

第二十五話 〜煉獄の使徒〜

「お前、それ……」


クリウスが問いかけると、リートは楽しそうに口角を上げた。


「花火だ! 二十……いや三十本くらいあるな。派手にいくぞ!」


そう言い残し、リートは宿舎中央の広場へと駆け出した。


「クリウス! 騎士どもは全部俺が相手してやる! あとは任せた!」


振り返りざまに叫ぶリートに、クリウスは苦笑する。

このくらいの“奇行”は、もう慣れっこだった。


(さて……こっちはこっちで終わらせるか)


クリウスは団長室へ向かって走り出す。


同時に、広場ではまばゆい火花が弾け、ドンッ!と爆発が響いた。


「何事だ!?」


堕ちた騎士たちは一斉に広場へ向かって駆けていく。

逆方向に走るクリウスには、もはや誰も目を向けなかった。


走りながら、クリウスはマリザの言葉を思い返す。


——いい? 団長室には結界の核となるものがあるはずよ。

それを壊してもすぐには崩れないけれど、私が外から解析して一気に破壊するわ。

頼んだわよ、二人とも。


曲がり角を滑るように曲がると、団長室の扉が見えた。

見張りはすべて広場へ向かったらしく、不在だ。


「しめた!」


バンッ!


扉を開いた瞬間、クリウスの顔から血の気が引いた。


そこには、団長の椅子に深く腰かけ、ニヤリと笑う女がいた。


「遅かったですね、見習い騎士――クリウス=ヘール」


「……パトラン副団長。なぜここに?」


パトラン=ペロン。

帝国騎士団で初の女性副団長となった実力者。

強さと知性を兼ね備えた“鉄の女”。

クリウスにとっては、正直……怖い相手だった。


パトランは楽しげに笑う。


「ふふ、今は“副団長”なんて呼び名じゃないわ。《黒い羽根》に入ってからはこう呼ばれているの」


その瞳に、不気味な光が宿る。


「“六翼の使徒“の一人――《煉獄の使徒》ってね」


クリウスは即座に戦闘態勢に入った。


「なに考えてるんですか! あなたが“堕ちてる”なんて……ロロイ団長への忠誠はどこへいったんです!」


パトランの表情が一瞬で険しくなる。


「……あいつは、いつまでも私を下に見やがって。

処刑されて清々したよ」


その言葉で、クリウスの中で何かがプツンと切れた。


「お前が……団長をはめたのかッ!!」


クリウスは一直線に飛び込む。


カキンッ!


パトランが抜いた剣とクリウスの刃がぶつかった。


「見習いが私に勝てると思うな!」


力で押し返され、クリウスは本棚へ叩きつけられる。


それでもクリウスはすぐに立ち上がり、再び切りかかった。


(戦えてる……!)


自分が強くなっているのを、確かに実感できた。

伝説クラスの戦いを経験し、リートとの修行を積んだ成果は確かだ。


だが――


「早めに終わらせましょ」


パトランは迫る剣を素手で掴む。


「《シバァ(崩壊)》」


掴まれた刃は、みるみる“砂”のように崩れ落ちた。


「くっ!」


クリウスは拳で殴りかかるが、軽くかわされ、逆に腹を深く斬られた。


「ぐっ……!」


膝をつくクリウスを、パトランが冷たい目で見下ろす。


「見習いにしてはよくやったわ。さて……広場の阿呆を止めに行かなきゃ」


壁に手を触れると、その部分が崩れ落ち、広場へ通じる風穴が開く。


その頃――


広場では炎がくすぶり、リートの周囲には何十人もの騎士が倒れ伏していた。


「“炎の魔神”よ! どうやら目的は達成できそうにないな!」


パトランの声に、リートが顔を上げ、鋭く睨みつけた。


「降りてこいよ。地面に叩き伏せてやる」


パトランはニヤリと笑い、ゆっくりと地面へ着地する。


「お前に面白いものを見せてやろう」


その瞳が怪しく光る。

パトランは剣に手をかざした。

その構えに、リートの姿が重なる。


——ボワァ


赤黒い炎が剣を包み上げる。


「《ヘル・ソード(業火の剣)》」


剣が燃え立つ。


「さあ.....どちらが“煉獄の王”か、決めようではないか」


二重に響くその声は、不気味に広場を震わせた――。

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