第二十五話 〜煉獄の使徒〜
「お前、それ……」
クリウスが問いかけると、リートは楽しそうに口角を上げた。
「花火だ! 二十……いや三十本くらいあるな。派手にいくぞ!」
そう言い残し、リートは宿舎中央の広場へと駆け出した。
「クリウス! 騎士どもは全部俺が相手してやる! あとは任せた!」
振り返りざまに叫ぶリートに、クリウスは苦笑する。
このくらいの“奇行”は、もう慣れっこだった。
(さて……こっちはこっちで終わらせるか)
クリウスは団長室へ向かって走り出す。
同時に、広場ではまばゆい火花が弾け、ドンッ!と爆発が響いた。
「何事だ!?」
堕ちた騎士たちは一斉に広場へ向かって駆けていく。
逆方向に走るクリウスには、もはや誰も目を向けなかった。
走りながら、クリウスはマリザの言葉を思い返す。
——いい? 団長室には結界の核となるものがあるはずよ。
それを壊してもすぐには崩れないけれど、私が外から解析して一気に破壊するわ。
頼んだわよ、二人とも。
曲がり角を滑るように曲がると、団長室の扉が見えた。
見張りはすべて広場へ向かったらしく、不在だ。
「しめた!」
バンッ!
扉を開いた瞬間、クリウスの顔から血の気が引いた。
そこには、団長の椅子に深く腰かけ、ニヤリと笑う女がいた。
「遅かったですね、見習い騎士――クリウス=ヘール」
「……パトラン副団長。なぜここに?」
パトラン=ペロン。
帝国騎士団で初の女性副団長となった実力者。
強さと知性を兼ね備えた“鉄の女”。
クリウスにとっては、正直……怖い相手だった。
パトランは楽しげに笑う。
「ふふ、今は“副団長”なんて呼び名じゃないわ。《黒い羽根》に入ってからはこう呼ばれているの」
その瞳に、不気味な光が宿る。
「“六翼の使徒“の一人――《煉獄の使徒》ってね」
クリウスは即座に戦闘態勢に入った。
「なに考えてるんですか! あなたが“堕ちてる”なんて……ロロイ団長への忠誠はどこへいったんです!」
パトランの表情が一瞬で険しくなる。
「……あいつは、いつまでも私を下に見やがって。
処刑されて清々したよ」
その言葉で、クリウスの中で何かがプツンと切れた。
「お前が……団長をはめたのかッ!!」
クリウスは一直線に飛び込む。
カキンッ!
パトランが抜いた剣とクリウスの刃がぶつかった。
「見習いが私に勝てると思うな!」
力で押し返され、クリウスは本棚へ叩きつけられる。
それでもクリウスはすぐに立ち上がり、再び切りかかった。
(戦えてる……!)
自分が強くなっているのを、確かに実感できた。
伝説クラスの戦いを経験し、リートとの修行を積んだ成果は確かだ。
だが――
「早めに終わらせましょ」
パトランは迫る剣を素手で掴む。
「《シバァ(崩壊)》」
掴まれた刃は、みるみる“砂”のように崩れ落ちた。
「くっ!」
クリウスは拳で殴りかかるが、軽くかわされ、逆に腹を深く斬られた。
「ぐっ……!」
膝をつくクリウスを、パトランが冷たい目で見下ろす。
「見習いにしてはよくやったわ。さて……広場の阿呆を止めに行かなきゃ」
壁に手を触れると、その部分が崩れ落ち、広場へ通じる風穴が開く。
その頃――
広場では炎がくすぶり、リートの周囲には何十人もの騎士が倒れ伏していた。
「“炎の魔神”よ! どうやら目的は達成できそうにないな!」
パトランの声に、リートが顔を上げ、鋭く睨みつけた。
「降りてこいよ。地面に叩き伏せてやる」
パトランはニヤリと笑い、ゆっくりと地面へ着地する。
「お前に面白いものを見せてやろう」
その瞳が怪しく光る。
パトランは剣に手をかざした。
その構えに、リートの姿が重なる。
——ボワァ
赤黒い炎が剣を包み上げる。
「《ヘル・ソード(業火の剣)》」
剣が燃え立つ。
「さあ.....どちらが“煉獄の王”か、決めようではないか」
二重に響くその声は、不気味に広場を震わせた――。




