第二十四話 〜作戦開始〜
「本当にこの作戦でいけるんだろうな……」
クリウスは、隣で黒いローブを深く被っているリートに声をかけた。
「だーいじょうぶだって。」
ニヤリと笑うリートを横目に、クリウスは大きくため息をついた。
――十分前。
クリウスたちは騎士団長ロロイの救出作戦を立てるため、拠点の酒場で会議を行っていた。
「彼がいるのは、騎士団宿舎の地下にある牢獄ね。」
マリザは真剣な表情で水晶を覗き込む。
「見張りは……“堕ちた騎士”が100名、教団員が50名ほど。それと宿舎にも強力な結界、ずいぶん厳重ね。」
「“《黒い羽根》には帝国一の男でも敵わなかった”ってことにしたいんでしょう。」
パンが口を挟む。
リートは腕を組み、考えるような顔で口を開いた。
「ロロイはだいぶ強かったんだけどな。そう簡単にやられるとは思えないんだが……」
「お前、団長に余裕で勝ってただろ。」
クリウスが尋ねる。
「いや、悪魔の力を使わなかったら、下手したら負けてたぞ。」
その言葉にマリザとパンは驚いた顔をした。
「千年前と比べて人類は弱くなってきてるのに、ロロイちゃんって子、やるじゃない。」
——クリウスはその言葉を聞いて、ほくそ笑む。
《パンドラ》の面々に団長を褒められて、クリウスはなぜか自分のことのように嬉しくなった。
「まあ、強行突破で行けるだろ。」
リートはニヤリと笑う。
「だめよ! 騙されてたり、催眠状態の者もいるかもしれないのよ!」
“聖女”のもっともな意見に、リートは再び考え込む。
「殺したらダメとなると……」
するとリートは勢いよく立ち上がり、ニヤリと笑った。
「いーこと思いついたぞ。」
一行はゾッとする。
「まともな案なのですか……?」
パンが苦笑しながら尋ねる。
リートはみんなに視線を向け、作戦を語り始めた。
――現在。
「こんなんで潜り込めるのかよ……」
クリウスとリートは、黒いローブで目元を隠しながら騎士団宿舎へと到達した。
「おう! どっからどう見ても仲間の教団員だろ!」
――リートの作戦とは、黒いローブで全身を隠し、悪魔信仰者になりすまして宿舎に潜入する、というものだった。
「まさか、パン様が許可するなんて……」
クリウスは心のどこかで、賢者であるパンならこの無謀な案に反対してくれると思っていた。だが――
「やってみますか。」
パンはあっさりとゴーサインを出した。
「マリザが俺たちが騒ぎを起こしている間に結界の解析。解析終了と同時に、パンが地下から潜入、完璧だな。」
リートは得意げに呟く。
その時――。
「お前たち! ここから先は重罪人ロロイ=カルベルトを収容している。近づくでない!」
“堕ちた騎士”の門兵が声を荒げた。
その顔を見て、クリウスは驚いた。
「ニコロ! 俺だよ、クリウスだよ!」
ニコロと呼ばれた男は警戒を解き、クリウスに声をかけた。
「クリウス! お前も“こちら側”に目覚めたか!」
それを見たリートが小声で尋ねる。
「お前、知り合いなのか?」
クリウスはニコロとリートを交互に見て、紹介する。
「俺の同期の男だ。年が近いからよく一緒に稽古してたんだよ。」
ニコロは懐かしそうに笑う。
「あの時は大変だったな。ロロイによくしごかれてたっけ。まあ、そのロロイも今じゃ……」
ニコロは歯を食いしばり、低い声を漏らす。
「国家転覆の重罪人だ。ついていく相手を間違ったようだ。」
クリウスが反論しようとした瞬間、リートが先に口を開いた。
「あぁ! あいつはダメだな。俺は新しく見習いになった……ジルだ! よろしくな!」
リートは手をかざす。
「そうか、よろしくなジル。」
ニコロは安心したように微笑む。
クリウスは怒りを抑えながら、話を合わせた。
「ニコロ、俺たち、ちょっと用事があってさ。通してくれないか?」
「その“用事”ってなんだ?」
疑いの目が向けられる。
「あぁ、俺たちまだ“契約”してないんだよ。」
リートが横からさらりと答えた。
(契約?)
クリウスの疑問をよそに、リートはにこり。
「そういうことか! さあ、早く行ってこい!」
ニコロは笑顔で道を開けた。
「お、おぉ! ありがとな!」
クリウスは意味もわからぬまま門をくぐる。
「なあ、“契約”ってなんだ?」
振り返ると、リートは真剣な表情で宙を睨んでいた。
「まさかな……」
リートが呟く。
「な、なあ。ここからどうするんだ?」
クリウスの問いに、リートはいつもの笑顔で振り返った。
「騒ぎを起こす。これしかないだろ。」
その手には――無数の長い筒が握られていた。




