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Pandora  作者: アカイヒト
帝国堕天篇
24/33

第二十二話 〜闇に沈む聖都〜

雲の馬車が消えてから数分後――。


クリウスたちは固く閉ざされた城門の前で足を止めていた。

いつもなら朝早くから人や騎士が行き交うはずの門前には、妙な静寂だけが漂っている。


嫌な予感だけが、じわりと胸に広がっていく。


――帝国で、何かが起きている。


クリウスは無意識に拳を握りしめた。


「マリザ、空から入れないか?」

リートが振り返りながら尋ねる。


「無理ね。“精霊の大樹林”並みの強力な結界が張られているわ。」


リートは腕を組み、唸るように言う。


「入れないことには、何が起きてるのかも分からないな……」


その時だった。城門の右側から声が飛んできた。


「おーい! 皆さん、こちらです!」


クリウスは声の方へ視線を向ける。


「ギヨームさん!」


急いで駆け寄ると、ギヨームは城門の脇にある小さな穴から顔を覗かせていた。


「マスター! でかしたぞ!」

リートがはしゃぐ一方、マリザは怪訝な表情を浮かべる。


「マスター、あなた……どうやって結界に穴を開けたの?」


確かに――一般人のギヨームが、こんな強力な結界に抜け穴など作れるはずがない。


「私がやったわけないじゃないですか。『協力者』の一人に魔法使いがいまして、その方に開けてもらったんです。」


ギヨームは笑って答えた。


「さあ、急ぎましょう!」


一行はギヨームに続いて城壁の穴へと潜り込んだ。


「狭いですね……」

背の高いパンは窮屈そうに身を折りながら進む。


「この方はどなたです?」

パンが尋ねると、リートが答える。


「ああ、俺らが拠点に使ってる酒場のマスターだ。仲良くしてやれ。」


薄暗い穴の中で、リートが指先に灯した小さな火だけが頼りだった。


その時、ふと先ほどの疑問が頭をよぎる。


「あ、ギヨームさん! どうして城門が閉じてるんです? アストリアに何かあったんですか?」


しかしギヨームはすぐには答えない。しばらく進んだところで立ち止まり、重い表情で振り返った。


「……話は、拠点に戻ってからにしましょう。」


その言葉に一同は黙り込む。


――何か、とんでもない事が起きている。


三十分ほど暗い通路を進むと、ギヨームが立ち止まった。頭上の蓋のようなものを外し、地上へと這い出ていく。


「皆さん、着きましたよ!」


次々と地上に出ると、そこは見慣れた酒場の地下――酒蔵だった。


「こんなところに繋がってたのか……」

クリウスが感心していると、リートは樽に腰を下ろし、低い声で言った。


「話せ。何があった?」


ギヨームは顔を曇らせ、ゆっくりと語り始めた。


「……リートさん達が聖都を出発して二日後、内乱が起きたのです。」


パンが眉をひそめる。


「おかしいですね。アストリアの皇帝は民衆に慕われていると聞いていましたが……」


「確かにそうなんですが、《黒い羽根》という悪魔信仰の組織が、民衆を煽り、皇帝に関する根も葉もない噂を流して……」


リートの表情がわずかに険しくなる。


「《黒い羽根》か……」


クリウスが尋ねる。


「知ってるのか?」


「ああ。何十年も前からある宗教団体だ。悪魔信仰ではあるが、こんなことをするような連中じゃなかったはずだが……」


ギヨームはさらに言いづらそうに口を開いた。


「陛下は行方をくらましてます。それと……ロロイ団長は、投獄されてしまわれたと。」


「……ロロイ団長が?」


クリウスの胸に熱い怒りが込み上げる。


「なんでだ! ロロイ団長が何をしたって言うんだよ!」


「落ち着きなさい。クリウス君。」


パンが慌てて制止する。


ギヨームは続けた。


「《黒い羽根》が民衆に発表した話だと、彼は国家転覆を働きかけたと。そして三日後には……」


深く息を吸い込むと、重い声で告げた。


「――公開処刑だそうです。」


クリウスの頭が真っ白になる。


ロロイ団長が……処刑?


崩れ落ちる膝。震える拳。


その瞬間、リートが立ち上がった。


「よし。助けに行くか。」


クリウスが顔を上げる。リートはいつもの笑顔を浮かべているが――その目は燃えていた。


「殺させやしないさ。そうだろ? クリウス君よ。」


「……ああ。絶対に殺させない!」


マリザは優しく微笑む。


「私が“アテナ”で情報を集めておく。その間に準備して。すぐに助けに行くわよ!」


クリウスの胸に再び希望の灯りがともる。


(団長が国家転覆なんてするわけがない。処刑なんて絶対にさせない)


一行は決意を固め、それぞれ準備に取りかかった。

その重い足音が、クリウスに勇気を与えていた。

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