〜新たなる伝説へ〜
柔らかな光が窓から差し込む。
クリウスたちは精霊界の城の中で、ようやく緊張を解いたところだった。
だが――。
「……で、なんでお前がここにいるんだよ!?」
クリウスの叫びに、リートはふてぶてしく椅子にもたれながら答えた。
「いやー、鉱山で爆発起こしたんだけどさ。その後で牢屋に連れてかれてよ。」
クリウスは、リートが鉱山を爆破する光景を鮮明に想像してしまい、思わず眉をひそめる。
(……簡単に想像できてしまうな。)
「爆発って……それでどうやって“ここにいる”に繋がるんだよ。」
リートは肩をすくめた。
「いや、牢屋で寝てたら地面から植物が生えてきてよ。そいつに飲み込まれて、気づいたらここってわけよ!」
パンが下を向いてため息を吐く。
「あなたは本当に変わりませんね。私が助けなかったら、あと二百年は労働でしたよ」
どうやらパンの仕業らしい。
“精霊王エデン”はリートの頭をペシっと叩く。
「本当に変わらないなお主は!」
「まぁな」
リートはにっこりと笑い、ゆっくりと起き上がると、真剣な表情へと変わった。
「それと、ベルゼブブと話した。」
皆の視線が一斉にリートへと注がれる。
「いつ、なにを話したの?」
マリザが問い詰める。
「あぁ、順番に話す。」
ーー5時間前
リートは牢屋にいた。
彼は血を地面へと垂らし、魔法陣を出現させる。
「話がしたい。出てこい“風の王ベルゼブブ”。」
魔法陣が眩い光を放ち、闇が溢れ出す。
それは少しずつ人の形を成し……ベルゼブブが現れた。
「“煉獄の王”よ、そんなに早く死にたいのですか?」
ベルゼブブはリートを睨む。
「まあまあ、座れって。」
「なんですか、この汚いところは……。」
文句を言いながら、しかしベルゼブブはリートの対面へと座った。
「私を呼んだのです。大事な話なのでしょう?」
「取引をしよう。」
「取引、ですか?」
牢屋の空気が一変する。
「あぁ。お前は本来、戦うのを嫌う。だがサタンの手前、人類への侵攻はやめられない。そうだろう?」
ベルゼブブはくつくつと笑い出す。
「だから味方になれと? そんな都合のいい話はありませんよ。」
その瞬間、牢の部屋中に亀裂が走る。
「争いは嫌いです。ですが、あなたのような裏切り者も私は大嫌いなのですよ!」
リートは真剣な目でベルゼブブを見る。
「知っているさ、長い付き合いだからな。」
ベルゼブブは深い溜息を吐く。
「イフリート、何を企んでいるんですか?」
リートはニヤリと笑い、口を近づけて囁いた。
ベルゼブブの目が大きく見開かれる。
「……なぜそこまでして人間を助けるのですか。」
リートは立ち上がり、つぶやく。
「果たせないといけない“約束”があんだよ。」
ベルゼブブもまた立ち上がり、リートを見つめた。
「……いいでしょう。一年、侵攻を遅らせましょう。ただし誤解しないように。味方になったわけではありません。」
リートはベルゼブブへと尋ねる。
「あいつらのところに行くのか?」
「えぇ、あなた方がどこまでやれるのか、見極めてくるとしましょう。」
ベルゼブブの姿は蜃気楼のように薄れていく。
リートはハッとしたようにベルゼブブへと叫ぶ。
「それと!今は“イフリート”じゃなくて“リート=ジン”って名前なんで。そこんとこよろしくな。」
消える寸前、仮面の下でベルゼブブは微笑んだ。
ーー
「てなことがあって、一年猶予ができた。」
リートは得意げにVサインをする。
マリザとパンがまっすぐ見つめる。
「リート、何を言ってベルゼブブを説得したのです?」
パンが尋ねる。
「んー、忘れた。」
いつものように笑うリート。しかしクリウスには、その横顔が覚悟を決めた者に見えた。
「ま、とりあえずこの一年で《パンドラ》の残りを拾って、他にも協力者を募るとするか。」
リートの言葉に、皆は気持ちを切り替える。
エデンが口を開く。
「パン様が協力されるのなら、我々“精霊”も力を貸しましょう。」
マリザは柔らかく微笑む。
「ありがと、エデンちゃん。」
そしてマリザがリートを見る。
「とりあえずアストリアに戻るわよ。被害も気になるし。」
クリウス、パン、リートが同時に立ち上がる。
「あぁ、帰るとするか。」
リートは楽しそうに笑う。
「もちろん来るんだろ? パン。」
パンは穏やかに頷く。
「えぇ、力になりましょうとも。」
——クリウスがリートと出会ってから、怒涛のような日々が過ぎた。
悪魔との戦い、皇帝との衝突、そして“ソロモン“に“六大魔王“。
気づけば、千年前に名を馳せた《パンドラ》の団員が三名も揃っていた。
精霊界の大窓から差し込む柔らかな光が、三人の姿を照らす。
マリザは水晶玉をそっと抱え、パンは静かに息を整え、そしてリートはクリウスを見てニヤリと笑った。
千年前、世界を支えた最強の騎士団が――
時代を越え、再び歩み始めようとしている。
クリウスは胸の奥で、言葉にできない高揚を覚えた。
恐怖ではない。期待でもない。
もっと大きく、もっと深い……世界が動き出すその瞬間に立ち会ってしまったという確信だった。
「よし、行くか。」
リートが軽く肩を回し、精霊界の門へ向かって歩き出す。
その背中は、いつもの軽さとは裏腹に、何かを背負う者のゆるぎない決意が宿っていた。
パンが笑みを浮かべる。
「あなたが暴走しないように、側で見護るとしましょう。」
マリザが続く。
「急ぎましょう。アストリアがどうなっているか……早く確かめたいわ。」
エデンが三人に向かって深く頭を下げる。
「旅路に光がありますように。“パンドラ”の者たちよ。」
リートが親指を立てる。
「全部を守ってみせるさ。」
光と風が渦を巻き、精霊界へのゲートが開く。
三人はそこへ踏み出していく。
クリウスも一歩遅れて走り出し、その背を追った。
次の瞬間、光が弾け、彼らの姿は精霊界から消えた。
残されたのは、静けさと、どこか懐かしい希望の気配だけ。
千年前、世界を救った《パンドラ》は伝説となり、なくなった。
だがその魂は、今また集まり始めている。
ここから始まる。
再び紡がれていく、“伝説”が——。
世界を揺るがす、第二の《パンドラ》の物語が。
ここまで読んでくれた皆様、ありがとうございます!
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