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Pandora  作者: アカイヒト
伝説再来篇
19/21

〜六魔集うは虚の間〜

先程の激闘が終わり、

ベルゼブブは荒地となった精霊の大樹林を見下ろし、深いため息をついた。


「やれやれ、とんだ災難でしたよ。」


ベルゼブブは無くなった腕を交互に見る。

だが、腕の断面からは黒い闇が生え、腕の形となり、一瞬で完治した。


(これだけやられたのです。言い訳にはなるでしょう。)


ベルゼブブは先程の戦闘を思い出し、マスクの下で笑みを浮かべる。


「おや、会議に遅れてしまう。」


闇を展開すると、ベルゼブブの体は現世から姿を消した――。


  ♦︎


闇に沈んだ視界が反転し、静寂が訪れる。


“魔界”――

六層からなる、悪魔たちの根城であり現世とは別の次元。


「遅くなりました。」


ベルゼブブが椅子に座ると声が返る。


「本当に遅かったな、ベルゼブブ。」


第三層《深海層》の支配者、

“大海の王”フォルネウス。

彼の椅子から滴る黒い水は、大地を腐食していた。


「まあまあ、フォルネウス。魔王がこうして集うこと自体が異例ですから。」


そこへ、翼の生えた女が不機嫌に口を開く。


「で、ベルゼブブ。やっぱり生きてたわけ?」


第五層《幻夢層》の支配者、

“幻惑の女王”リリス。


ベルゼブブは愉快そうに応じた。


「ええ、生きていましたとも。“煉獄の王”イフリートは健在ですよ。」


ドガッ!!


「何が“煉獄の王”だ!!今は俺が《煉獄層》の王だぞ!!」


椅子を蹴り上げて怒号を上げた悪魔、アモン。

魔王たちは冷ややかな目を向ける。


ーーイフリートのおこぼれで魔王になれただけの“偽物“が......


ベルゼブブは心の声を押し殺し、穏やかに言葉をだした。


「落ち着きなさい、アモン。もっと大事な話があるでしょう」


ベルゼブブが促すと、アモンは渋々座った。


その奥で巨椅子が軋み、声が響く。


「干渉せぬはずの魔王が集っている。無駄話は不要だ。」


第六層《重落層》の支配者、

“不落の王”ベヒモス。


ベルゼブブは姿勢を正し、口を開いた。


「……“闇の王”からの伝言です。」


ベヒモスの視線を受け、冷汗が流れる。


「“魔界が満月に照らされる刻、再び現世へ”――とのこと。」


リリスが脚を組み直し、笑う。


「じゃあ、現世の時間で一年後ってとこかしら。」


フォルネウスが腕を組む。


「なぜそんなにも要する?」


ベヒモスが低く問う。


「偽りではなかろうな?」


「……はい。」


ベルゼブブの返答で場の空気が変わる。

魔王たちの表情に“警戒”が浮かび始めた。


リリスが探るように言う。


「本当に“闇の王“が言ったの?

ねぇベルゼブブ……何か隠してない?」


「隠すことなど。

ただ……“我らの王“が戻るのなら、準備が必要でしょう。」


フォルネウスが瞳を細めた。


「“我らの王“か、サタン様は滅んだ。残るのは“代行者”か……“器”だな?」


ベルゼブブは沈黙した。それが答えだった。


アモンが吠える。


「ふざけんな!器は千年前に全部壊されたんだろ!今さら――」


ズ……


魔界が震える。


ベヒモスが立ち上がっただけだった。


「黙れ、小僧。千年前の“記録”と“真実”を混同するな。」


アモンは悔しげに黙った。


ベヒモスは全体へ告げる。


「もう話すことはない。各々、準備を進めろ。」


魔王たちは次々と姿を消していく。


最後に残ったベルゼブブは、小さく呟いた。


「これでいいのですね、イフリート」

ベルゼブブは椅子に深く座り直す。

「いえ、“リート=ジン“でしたっけ?」


魔界に突風が駆け抜け、音を鳴らす。

まるでこれから起こる悲惨な運命への悲鳴のように——。

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