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Pandora  作者: アカイヒト
伝説再来篇
17/21

『番外編』〜鉱山の問題児〜

借金で捕まった後のリートのお話です。

ーー今日も労働が始まる……。


憂鬱な気持ちで、レーバンは硬いベッドから体を起こした。


ここはラージン公国とロゼッタ王国の国境に広がるプルト山脈。

鉱石こそ豊富だが、二国の争いに巻き込まれることもしばしばで、自ら好んで採掘に来る者などいない。


ここへ来る連中は決まっている。借金返済のために送られてきた者、あるいは訳ありの逃亡者。

レーバンも例外ではなかった。


朝日が昇り切る前、いつものように点呼が始まる。


「今日から新人が入る!」


現場監督ダントの野太い声が響く。


「リート・ジン君だ! みんな仲良くな!」


ニヤリと笑うダント。

その笑みに、労働者たちはうんざりした顔をした。

この採掘場では新入りは徹底的にいびられる。レーバンもここに来た時に地獄を見た。


ダントの横に、小柄で華奢な男が立っていた。


(……すぐ逃げ出すだろうな)

レーバンはそう思った。

ーーもっとも、この採掘場から逃げる方法などないのだが。


男は周囲を見渡し、爽やかに言った。


「紹介に預かった! リート・ジンだ。虐めたりしないから安心しろ!」


その言葉で、労働者たちの目に殺気が走る。


(ああ……こいつ死んだな)

レーバンは心の中でそっと手を合わせた。


「威勢がいいな、新人! さあ今日も労働だ、動け!」


ダントの号令で作業が始まるが、全員の視線はリートに集中したままだ。


レーバンも仕事に向かおうとした時、リートが近づいてきた。


「あんたも入って浅いらしいな! 仲良くしようぜ」


ニヤリと笑うリート。


「あ、ああ……」


レーバンは心の中で絶叫した。


(近づくな! 俺まで標的にされる!)


炭鉱の中で黙々と作業していると、やがて休憩の時間となる。


「休憩だぁ! さっさと休め!」


どこからともなくダントの怒鳴り声が響く。

労働者たちは思い思いの場所に腰を下ろし、まずい配給飯に手をつけ始めていた。


「一緒に食べようぜ!」


気づけば隣にリートが座っていた。


「おいあんた、あんな挑発みたいなこと言って……俺に近づかないでくれよ」


レーバンが言うと、リートは腕を組んで少し考え込む。


「いやぁ、あれはジョークだって。それより、ここを早く出る方法、ないか?」


レーバンはため息をついた。


「さあな……だが俺はまだ、一人も解放された奴を見たことがない」


リートは再び腕を組んで考え込む。


ーーその時。


「おい、新人!」


ダントと取り巻きの大男五人がやってきた。


「ん、なんだ?」


リートは視線も合わせず返事をした。


その態度に、ダントの額に青筋が浮かぶ。


「お前、俺たちを虐めないって言ってたよな?」


リートは遠くを見たまま動かない。


「ああ。仲良くしたいからな」


その言葉に、ダントは腹を抱えて笑った。


「だははは! “いじめない”じゃなくて、“いじめれない”の間違いだろ!」


そう叫ぶと、ダントはツルハシを振りかざしてリートに叩きつけた。


(おいおい! 本当に死ぬぞ!)


レーバンは思わず目を塞ぐ。

だが、次に目にした光景に息を呑んだ。


ダントと取り巻きが地面に這いつくばり、リートはツルハシの鉄部分を片手で握り潰していた。


「お、お前……何者だ……?」


レーバンがつぶやくと、リートはニヤリと笑った。


「そう……俺こそが“炎の魔神”! リート様だ!」


リートの掌に炎が灯る。


その瞬間、レーバンは鉱山に入る前に聞いた忠告を思い出した。


ーーこの鉱山には引火性ガスがある。絶対に火を使うな。


ドカァァァァァン!!


その日、プルト山脈の側面から黒煙が一日中立ち上ったのだった。

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