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Pandora  作者: アカイヒト
伝説再来篇
16/21

〜大樹林のパン〜

“精霊の大樹林”へと足を踏み入れたクリウスとマリザは、かつてない脅威と相対していた。


六大魔王の一角――ベルゼブブ。

ソロモン72柱の最上位悪魔のひとりにして、“聖女”であるマリザすら恐れる相手。


当然、クリウスの胸中は穏やかではなかった。


――ザッ


無意識に足が一歩、後ろへ下がる。


(……死ぬ。ここで。)


本能が告げる。

だが、マリザの瞳にはまだ希望の光が宿っていた。


「久しぶりね、ベルゼブブ。戦いを好まないあなたらしくないわ。」


額に汗を滲ませながらも、声は震えない。


「ええ、私も不本意なのですが……“闇の王”直々の命令ですので。」


闇の王――誰を指すのかクリウスには分からない。

だがマリザの表情を見るに、あまり嬉しくはない相手らしい。


沈黙が落ちる。


「クリウス!後ろに!」


マリザの叫びと同時に、クリウスは反射的に跳び退いた。


「《アポカリウス・サウンド(終末の音)》!」


掲げた手の先で、ベルゼブブの周りに光の幕が生まれる。


「――《第六サウンド・ミカエル》!」


振り下ろされた手から、凄まじい光柱がベルゼブブを飲み込んだ。


「なんちゅう魔法だよ……」


クリウスは凄まじい光の魔法をただ見ているしかてきなかった。


(さすがの魔王でも……今のは効いたんじゃ......)


十秒ほどして光が薄れていく――

そこに立っていたのは。


「相変わらず素晴らしい攻撃魔法です。咄嗟に防御しなければ危なかったかもしれません。」


ベルゼブブは無傷で立っていた。

まるで彼の頭上に不可視の壁があるかのように、光は彼を避けていた。


マリザは肩をすくめた。


「……やっぱり、これじゃ無理よね。」


次の瞬間、ベルゼブブが消えた。


――ザシュッ


「……っ!」


マリザの首元から血が散る。

クリウスは駆け寄ろうと踏み出すが――


「大丈夫! それより離れてて!」


手から光を溢れさせ、マリザは傷を一瞬で塞いだ。


「さすが、天使の血を引くだけあります。」


ベルゼブブはそう言い、空へ舞い上がる。


掌から透明な雫がゆっくりと落ちた。


「《グラトニー・ゲイル(暴食の強風)》。」


――ドガァァァン!!


雫が触れた地面から、破壊的な風が爆散した。

大地を削り、森を裂き、クリウスとマリザの肉を削りながら吹き飛ばしていく。



意識を取り戻すと、クリウスは木の枝にぶら下がっていた。


「っ……マリザ様!」


すぐに彼女を探す。

遠くには誰かの影。


「無事ですか!」


安堵して駆け寄った――だが。


そこに広がっていたのは、信じがたい光景だった。


悠然と立つベルゼブブ。

その足元には、ぴくりとも動かない“聖女”マリザの姿があった――。


クリウスは一瞬で思考が止まる。

——だが、ここで救えるのは自分だけなのだ。

そう言い聞かせながら震える足を鼓舞した。


その時、クリウスの背後で声が響いた。


「マリザ、よく頑張りましたね。」


振り返るとそこには、緑のローブを被る長身の男が立っていた。男の周りだけは削れたはずの大地が緑色の草や花に彩られている。


クリウスは悟る。この人が“大樹林のパン“なのだと。

パンは穏やかに口を開いた。


「この森に足を踏み入れたのは間違いでしたね。“風の王ベルゼブブ“」


クリウスはすがるしかなかった。現れてくれた一筋の希望へと——。




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