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Pandora  作者: アカイヒト
伝説再来篇
15/21

〜風の魔王襲来〜

朝日がのぼり始め、ラージン公国全土に光が差すころ、マリザとクリウスは“精霊の大樹林”の目前に立っていた。

マリザが結界解析を開始して六日。寝る間も惜しんで水晶玉と向き合い続け、予定より一日早く解析を終えることができた。

二人は神妙な表情で大樹林を見据える。


クリウスが息を呑む。

マリザはスッと手を突き出した。


「《ヤヌス》」


その瞬間、クリウスには見えていなかった“結界”が姿を現した。半透明の緑の蔦が壁のように果てしなく続いている。


クリウスが圧倒されながら見渡していると、二人の前の壁が波打つように歪み、ゆっくりと開いた。


「長くは持たないわ。早く入りましょう。」


額に汗を浮かべながらマリザが微笑む。

強力な魔法使いである彼女ですら負担がある結界。相当なものだとクリウスは悟った。


「はい!」


二人は滑り込むように結界内へ入る。


「な、なんだこれ……」


クリウスは呆気に取られた。

外からは普通の森に見えたが、中は別世界だった。巨大な樹木が天を突き、見たこともない生物が宙を漂っている。


美しいのに、どこか恐ろしい。

それが第一印象だった。


宙を舞う羽の生えたエビのような生物に手を伸ばすと——


「毒あるわよ。触らない方がいいわ。」


マリザが笑って注意した。


「うわ!」


クリウスはとっさに手を引く。


「マリザ様はここに来たことがあるんですか?」


マリザは懐かしむように遠くを見た。


「《パンドラ》を結成するときにね。父様がどうしてもパンを誘いたいって言うから、今と同じ方法で侵入したの。」


(父様……? パンドラの団員だったのか?)

“聖女マリザ“に関する伝説は数多く存在する。だが、誰が彼女の父親なのかは伝説には記載されていなかったのだ。


クリウスは興味心から疑問を口にした。


「マリザ様のお父様もパンドラだったんですか?」


マリザはきょとんとした顔で振り返る。


「当たり前じゃない。私の父様が作った騎士団だもの。」


パンドラの創設者、それは誰もが知っている人物だった——。


「創設者って...... “英雄デラク”のことですか!?」


クリウスは叫んだ。


「そうよ? 知られてないのね。」


マリザは興味がないと言うように、あっさり答えた。


「初めて知りましたよ! なんで教えてくれなかったんですか!」


「聞かれてないもの。ほら、急ぎましょ。」


まだ開きっぱなしの口を塞げぬまま、クリウスは慌ててついていく。


(知らないことばかりだ……)


二人は淡い光が差し込む苔むした森を進んでいった。


*****


歩き出してしばらく経った頃、マリザが口を開く。


「なかなか中心に辿り着かないわね。」


「この森に……中心なんてあるんですか……?」


クリウスは落ちていた枝を杖代わりに、慣れていない自然の道を疲れ切った足で歩く。

一方マリザは雲の上に寝そべり、汗ひとつかかない。


(俺も乗せて欲しい……)


そう思いながら雲を見ていると——森が開けた。


「デカすぎるだろ……」


クリウスは絶句した。

街を囲めるほどの太さを持つ巨木が、雲を突き抜けるようにそびえ立っている。


「これが《世界樹ユングラシル》よ。いつ見ても大きいわね〜」


マリザは大きく息を吸い込む。


「パァァァン!!! 出てきてぇぇぇ!!!」


聖女の絶叫にクリウスがビクッとした瞬間、草木が揺れ——周囲に半透明の人影が浮かび上がる。


「亡霊!?」


クリウスが焦ると、マリザは穏やかに笑う。


「精霊よ。危険じゃないわ。」


精霊たちは宙を漂い、二人を見つめている。


「あの、どの方がパン様ですか?」


マリザは目を走らせる。


「居ないわね……どうしてかしら?」


すると、一人の精霊が近づいてくる。

その精霊は緑の衣を纏い、美しい女性の姿をしていた。クリウスが見惚れていると、精霊は口を開いた。


「パン様はここにはおりません。悪魔の脅威が森を脅かしておりますので、各地へ出向かれております。」


マリザは悔しげに眉をひそめ、雲を叩いた。


「急いでるっていうのに!」

その時——突風が巻き起こり、二人の背後に強烈な気配を感じた。

クリウスは本能で悟った。これは良くないものだと。


精霊たちが一瞬で姿をくらます。

青空は曇り、先ほどまでうるさく鳴いていた鳥の囀りが消える。


マリザとクリウスが一斉に振り返ると——


「お久しぶりです、聖女。それに、あの時の若い騎士もご一緒ですか。」


そこには、酒場にいたあの男が立っていた。

黒いハット、鳥の仮面、そして古めかしい杖。

まさに“突然”そこに現れた。


マリザは鋭い視線で睨みつけ、言葉を発する。


「第五魔王——“風の王ベルゼブブ“。」


ベルゼブブは深く礼をした。


「すみませんが、闇の王の命令ですので……」


顔を上げると、仮面の奥の瞳に不気味な光が宿った。


「ここで死んでいただきますよ。」


忙しいので投稿時間バラバラなります。

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