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Pandora  作者: アカイヒト
伝説再来篇
14/21

〜終末の音〜

クリウスとマリザが首都ダーナの外れにある宿屋へ滞在して四日。

クリウスは、マリザによる精霊の大樹林を覆う結界解析が終わるのを待ち続けていた。


しかしその日――


バンッ!


「マリザ様!」


クリウスが勢いよく扉を開くと、部屋の中ではマリザが雲に寝転んだまま、水晶玉とにらめっこしていた。


「ん? なにかあったの?」


疲れた顔で伸びをしながら起き上がるマリザ。

どうやら数日ほぼ眠らず解析を続けていたらしい。


「南西で悪魔が出現した模様です。ダーナ王国兵が三十名ほど出撃して、悪魔は消滅したとの報告ですが……」


そこまで聞くとマリザはきょとんとした。


「じゃあ問題ないんじゃない?」


だが、クリウスは言いづらそうに口を開く。


「その……ソロモンに遭遇した場合、俺はまだ弱いですし。マリザ様も、戦闘面ではリートほどは……申し訳ありません」


マリザは声を上げて笑った。


「ふふ、あなたの中ではリートが最強なのね」


そのとき――

神器アテナの水晶が一瞬だけ部屋全体を照らした。


「ちょうどいいわ。見せてあげる」


そう言った瞬間、床・壁・天井に魔法陣が展開する。


景色が一瞬で揺らいだ。


気づいた時には、クリウスはダーナ近郊の砂浜に立っていた。


「ここは……?」


周囲を見渡すと、小さな子供がこちらへ笑顔で走ってくる。

まだ走り慣れていない様子で、何度も足をもつれさせながら、それでも笑って近づいてきた。


(なぜこんな場所に子供が……?)


「迷子か?」


しゃがんで声をかけても、子供は笑顔を崩さない。


「クリウス、それ悪魔よ」


マリザが隣に現れた。


その瞬間――


子供の口が真横に裂け、背中が破れ、無数の触手が生えた。


クリウスは尻もちをつく。


「なぜ気づいた……?」


白濁した目で悪魔がマリザを睨む。


触手が一斉に伸び、マリザを襲う。

しかしマリザは雲に乗ったまま、軽やかにすり抜ける。


「この悪魔は“クラーケン”。ソロモン序列は51位。前に戦った悪魔より上よ」


マリザはクリウスへ淡々と説明する。


「なぜ貴様が知っている!」


クラーケンはさらに触手を増やし、束ね、一撃で仕留めようと振り下ろす。


だが――


命中したはずの場所にマリザはいない。


「クリウス、よく見なさい。これが私の“固有魔法”」


マリザは空高く舞い上がっていた。

天に手を掲げる。


曇り空が裂け、光が差し、彼女の背中には白い翼が顕現した。


「《アポカリプス・サウンド(終末の音)》」


囁くと、光がクラーケンを中心に降り注ぐ。

クラーケンは身構えたが、何も起こらない。

だが、天使の翼をもつ彼女を見て、クラーケンはようやく気付いた。


「お、お前は!まだ生きていたのか!“聖女“!」

クラーケンは慌てながら光の外へと走り出す。

だが、全てが遅かった。

マリザはゆっくりと手を下げる。


「《第三サウンド・ウリエル》」


空が鳴り裂けた。

鼓膜に直接突き刺さる“音”が降り注ぐ。


ー▽◇○⬜︎♦︎◎!!!


言葉では表せないような、クリウスが生きてきた中で最も恐ろしい音だった。

咄嗟に耳を手で覆い、目を瞑る。


やがて全てが止んだ。


恐る恐る前を見ると――

クラーケンが立っていた大地は白い炎に焼かれ、跡形もなかった。


マリザが降り立ち、微笑む。


「私ね、リートより強いわよ」


クリウスは“聖女”に初めて恐怖を覚えた。

同時に、心に希望も灯る。


(この人がいれば……魔王でも)


マリザは振り返り、首都の方へ歩き出した。


「ま、待ってください!」


クリウスは淡い希望を抱き、慌ててその背を追った。


昨日、投稿し損ねた分です。

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