〜第二魔王“イフリート“〜
リートが連行され約1時間ほど経ち、クリウスとマリザは首都ダーナへとたどり着いた。
豊かな海を目前にひかえる街並みは海の光が白い建物に反射し、とても美しかった。
「マリザ様、気になってることがあるのですが……」
クリウスはリートがいたのでずっと聞けなかったことをマリザに聞こうとした。
「なに?」
マリザはここへ来る道中、水晶から一度も目を離さず、クリウスの歩く速度ほどのゆっくり進む雲の上に座っていた。
「煉獄の王――リートは悪魔にそう呼ばれていました」
マリザは水晶から目を離さなかったものの、何かを察したような顔つきになった。
「……リートからは何も聞いていないの?」
「はい、本人にはなかなか聞けずに……」
マリザは視線をクリウスへと移した。
「本人が話したがらないのは当然ね。いいわ、教えてあげる」
何かを決心した顔になるマリザを見て、クリウスは息を飲んだ。
「クリウスちゃん、リートが悪魔と同化したのは知ってるのよね?」
「はい、リートに聞きました」
マリザは雲に一体の悪魔を映し出した。
筋骨隆々のその悪魔は背中から炎を吹き出し、恐ろしい表情でこちらを睨んでいた。
「これがリートと同化した悪魔よ」
「これが……! 何という名前の悪魔ですか?」
マリザは少しの沈黙を貫いた。
「千年前、顕現して“英雄デラク”に倒されるまでの四日間に、《パンドラ》に壊滅的被害を出した悪魔――」
クリウスは息を呑む。
「名を、“第二魔王イフリート”」
クリウスは立ち止まり、思わず叫んだ。
「イフリート!? あのイフリートですか? それに魔王!?」
そう、クリウスはその悪魔を知っていた。
というより、この“ディアナ大陸”で知らぬ者はいないほどの名前だったのだ。
「“火の四日間”。人類にとってこの期間は地獄だったと伝説には記されています。イフリートに近づいたものはすべて焼き尽くされたと……」
クリウスは記憶にある、酒とキセルを愛し、行き当たりばったりなリートと、伝説のイフリートを思い比べた。
(あれがイフリート……)
が、どう頑張っても結びつかなかった。
「じゃあ、リートがイフリートを完全に制御してるってことですか?」
マリザは不思議そうな表情をした。
「同化したのよ? 彼はリートであってイフリート自身でもあるのよ」
「じゃ、じゃあなぜ千年前に悪魔側にいた魔王が人間の味方をして戦っているのです?」
マリザは考え込んだ。
「さあね、彼気まぐれでしょ?」
マリザは優しく微笑んだ。
海の光が反射したマリザの顔はまさに“聖女”だった。
クリウスは少しの間の沈黙をへて、自分の中での答えを出した。
「それでも、リートは俺の師匠であって……なにより友達です」
クリウスは真っ直ぐにマリザを見つめた。
「そうよね、リートはリート」
マリザはどこか嬉しそうに微笑んだ。
「さあ、目的地に急ぐわよ! と言いたいところなんだけど」
マリザは雲から飛び降り、お手上げのポーズを取った。
「“精霊の大樹林”の結界が強すぎるわ。解析して穴を開けるのに一週間はかかるわね」
「結界? そんなものがあるんですか?」
マリザは淡々と説明した。
「あの森は人間や魔物が入ってこないよう強力な結界を張っているの。まあ入れないわけではないんだけど、何もしないで入ったら一生出られないわね」
クリウスは森の中で朽ちていく自分を想像してゾッとした。
「ま、待つしかないですね!」
クリウスは続けた。
「とりあえず泊まる場所は必要ですね。宿屋借りてきます!」
走り出したクリウスの背後へとマリザが声をかける。
「一部屋でもいいわよ♡」
クリウスは声を荒げて振り返った。
「ちゃんと二部屋借りますから!」
再び走り出すが、頭の中にはリートのことが残った。
(六大魔王のイフリート……)
だが――リートは金や酒にはだらしないが、いい奴だ。
過去が何だろうと関係ない。
クリウスは自分にそう言い聞かせた。
今日は早めの投稿になります。




