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Pandora  作者: アカイヒト
伝説再来篇
12/22

〜南の大国〜

雲の馬車に揺られ、上空を飛んでいると

なぜか気持ちが軽くなったーー

クリウスはそう思いながら、橙色に染まる空を見上げていた。


「ここから“精霊の大樹林”までは、どのくらいかかるのでしょうか?」

前に座るマリザに問いかける。


「まずラージン公国を抜けなきゃいけないの」


ラージン公国ーー

聖アストリア帝国の南に位置し、

常夏の気候と豊かな資源で知られる、

ディアナ四大国のひとつだ。


「では、国境の関所を通るということですね?」


だがマリザは神器アテナの水晶を覗き込んだまま、

「いいえ。通行許可なんて待ってられないわ。勝手に入る」

と、さらりと言い放った。


「えっ……密入国ってことですか……?」


マリザは微笑んで顔を上げる。

「だって私もリートも人間じゃないもの。

人間の法律に縛られる必要はないわ」


雲の馬車の屋根から声が飛ぶ。

「そういうことだ!」


「……俺だけ密入国者なんだが……」

クリウスは座席に沈み込んだ。


「そろそろ見えるわ」

マリザが指をさす。


遥か下方に広がるのは、

陽光に照らされたラージンの豊かな大地。

風に揺れる大草原の向こうには、

エメラルドグリーンの海が輝き、

その手前に首都ダーナが広がっていた。


「……綺麗ですね」

「この大陸で一番美しい場所よ」

マリザが柔らかく笑う。


「さ、見つからないように降りましょう」


雲の馬車はふわりと下降を始め、

首都の外れへと音もなく降りていった。


 クリウス達を乗せた雲の馬車は、首都から少し離れたのどかな村へと降り立った。


「ここからは歩きね」


 クリウスは疑問に思った。


「なぜあのまま空を飛んでいかなかったのですか?」


 マリザはそれを聞いて意外そうな顔をした。


「私達は密国者よ?ここまでバレなかっただけでも奇跡よ」


 マリザは笑った。


「ま、なんにせよ。このまま精霊の大樹林に急いでいかないとなー」


 リートは呑気な顔で言った。


 と、その時。建物の影から鎧を着た軍団が三人を取り囲んだ。リーダーらしき男が口を開く。


「リート=ジン! この地を収めるブレナン家への多額の借金。今こそ返してもらうぞ!」


 クリウスが慌ててリートへと問いただす。


「借金してんのかよ!」


 リートはあっけらかんと答える。


「少しだけな......。」

クリウスはリートへと再び問いただす。


「いくらなんだ!?」

リートは渋々と金額を口走る。


「ディアナ金貨百枚......。」


クリウスは目を見開きリートを見つめた。

ディアナ金貨百枚もあれば、家が二軒は立つほどの大金だった。


「お、お前ってやつは......。」


 リートはリーダー格の男へと向き直った。


「金はない! ブレナン侯爵のところに連行するんだろ? 急いでるんだ。早くしろ」


 リーダー格の男は呆れたように口を開いた。


「開き直りやがって……連れて行け!」


 リートは両腕を掴まれ、馬車へと押し込まれた。


 「……」


 マリザとクリウスの間に沈黙が走る。


「……あいつのことはほっといて、行きましょうか!」


「置いていくんですか!?」


 クリウスが声を上げる。


「まあ死にはしないでしょう。私達は急がないといけないの! 行くわよ!」


 マリザは雲へと飛び乗り、道を進んでいった。


 クリウスは遠ざかる馬車を名残惜しそうに振り返りながら、マリザへと続いた。


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