〜魔界の序列“ソロモン“〜
聖都の街が夕焼けに染まるころ、
リートとクリウスの稽古は終わりを告げた。
「今日はここまでだ。よく頑張ったな!」
リートが這いつくばったクリウスに笑いかける。
「……」
クリウスはまだ反応しなかった。
「弟子は元気よく返事しろ!」
リートはクリウスの背中を叩いた――。
「こりゃ完全に気絶してんな。」
リートはクリウスを背中に担ぎ、門へ続く道を進む。
♦︎
クリウスは街灯の並ぶ道で揺られながら目を覚ました。
(あれ、ここは……確かさっきまでリートにボコボコにされて……)
「起きたか、クリウス君。」
リートがニヤリと笑う。
慌てて背中から降りたクリウス。
「す、すまん……完全に意識が飛んでたようだ。」
「気にすんな。それより、そこの店で飯でも食っていこうぜ。」
リートが指差す先には、灯りの揺れる店があった。
「……俺の奢りか?」
「弟子なんだから、稽古代だと思え。」
リートは笑いながら店へ入る。
クリウスもため息をつきつつ後を追った。
二人が席につき、リートが注文を叫び終えると、クリウスが口を開いた。
「なあ、前に悪魔が言ってた“ソロモン”って、何なんだ?」
リートは目を丸くした。
「まじかよ、それすら歴史から消えてんのか。」
「あぁ、初めて聞く名だな。悪魔の軍団か何かか?」
リートは少し考え込む。
「いや、違う……少し長くなるが……」
リートの説明によれば、“ソロモン”とは正式には“ソロモン72柱”と呼ばれ、魔界における悪魔の強さの序列を示すものだという。
この前出会った悪魔、アンドラスは序列63番。つまり魔界で63番目の実力者ということになる。
「だが、本当に恐ろしいのは“ソロモン”の上位六名だ。」
リートは運ばれてきた酒を一気に飲み干す。
「上位六名の強さは、格が違う。この六名を俺らは“六大魔王”と呼ぶ。」
その言葉を聞いて、クリウスは冷や汗を垂らした。
「その“六大魔王”って、どのくらい強いんだ?」
リートは再び考え込む。
「例えばだ、お前から見たら俺は最強かもしれない。だが、今の状態の俺が10人いても勝てないだろうな。」
クリウスは驚愕した顔を浮かべる。
「じゃ、じゃあ、《パンドラ》は今5人しかいないんだろ? 対抗できないんじゃ……」
リートはあっけらかんと答えた。
「無理かもな。」
クリウスは机を叩き立ち上がる。
「始めから勝てない勝負をするってのか!」
リートは静かに説明する。
「千年の間に魔界との扉は閉じた。悪魔たちは一斉にはこちらに来れない。だから少しずつ、顕現する悪魔を魔王が来る前に叩く。」
リートは運ばれた料理にフォークを突き立てながら続ける。
「そして、魔王が来たら残りの五人で一斉に叩く。それが最善だ。」
クリウスは椅子に座り直す。
「まー心配すんな。俺が本気になったら魔王なんて恐るるに足らん!」
リートは豪快に笑った。
クリウスは大きなため息をつく。
「その言葉が冗談じゃないことを祈るぜ。」
その時、リートの視線が何かに釘付けになる。
クリウスが目を向けると、鳥のようなマスクを被った紳士風の男が静かに座ってこちらを見つめていた。
男は夢の中のように朧げな声でリートに告げる。
「「煉獄の王、闇の王はまだ朽ちていませんよ。」」
言葉が終わると、男は忽然と姿を消した。
「こい、クリウス!」
リートは席を飛び出し、扉へ全力疾走する。
「お、おつりはいりません!」
クリウスは店員に声をかけ、急いでリートを追いかける。
「リート! 何急いでんだ!」
リートは何も答えず、街を駆け抜ける。
二人は拠点の酒場へ戻ると、勢いよく扉を開けた。
マリザは雲の上に座り、本を読んでいる。
「あら、リート、そんなに慌てちゃって……食い逃げでもしてきたの?」
リートは深刻な顔でマリザを見る。
「ベルゼブブが顕現していた。」
マリザも顔色を変え、口を開く。
「急いでパンのところに行きましょう。それと帝国騎士団にも連絡して、聖都全体で厳重体制を取るよう要請しましょう。」
クリウスは話についていけず、怪訝な表情を浮かべる。
「ま、待ってくれ……リート、“ベルゼブブ”って何だ?」
リートは真剣な眼差しでクリウスを見つめる。
「さっき話した六大魔王の一人だ。」
クリウスは全身から得体の知れない恐怖が湧き上がるのを感じていた――。
22〜23時以外にも、暇があれば投稿していこうとおもいます。




