表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Pandora  作者: アカイヒト
伝説再来篇
10/22

〜帝国最強の男〜

 「走らなくてもいいだろ!」

 クリウスは息を切らしながらリートへ叫んだ。


 「体力つけてんだよ。弟子は黙ってついてこい!」

 リートがさらにペースを上げる。


 酒場から二人が飛び出して、聖都の中心部にある騎士団宿舎へ向かっていた。騎士団宿舎とは、帝国騎士団の本拠地であり、訓練場と団員の居住区域が併設された帝都最大の軍施設である。


 「まじで勘弁してくれよぉぉ!!」

 クリウスの嘆きは空へと響いた。


 「弟子よ、着いたぞ」

 リートがニヤリと笑い、地面に這いつくばっているクリウスを見下ろした。


 「お前……どんだけ体力あるんだよ……」

 しばらくして息が整ったクリウスが立ち上がる。


 「ここで稽古してくれるのか?」


 「あぁ、街中で振り回すわけにはいかねぇだろ」

 リートが門番に例のペンダントを見せると、二人は中へ入った。


 すると近くにいた男が手を上げる。

 「おや、リート殿。どうされたのですか?」


 偶然遭遇した男――ロロイが声をかけた。


 「あー……ロロイ、だっけか?」

 リートが適当な口調で返すと、ロロイは苦笑して自己紹介した。


 「はい、騎士団長を務めています。ロロイ=カルベルトと申します」


 「団長さん、ちょうどいい。訓練場借りていいか?」

 リートがにっこり笑う。


 「いいですが、何に使うのです?」


 リートはクリウスの背中をポンポンと叩いた。

 「こいつが俺の弟子になったからよ。鍛えてやんだ」


 ロロイはクリウスへ視線を移す。

 「ほう、《パンドラ》の団員に直接稽古をつけてもらえるなど、滅多にないぞ。期待している」


 クリウスは頭をかきながら苦笑した。

 「ええ、”見習い”卒業できるよう頑張ります」


       ***


 リートがクリウスへ木刀を放り投げる。

 「まずは構えからだ。よく見ろ」


 リートはクリウスが見慣れた無駄のない姿勢で剣を構えた。

 「真似しろ」


 クリウスは姿勢を低くし、同じ構えを取る。

 「こうか?」


 リートはニヤリと笑った。

 「いい構えだ。あとは実践あるのみ。かかってこい!」


 (やっぱこうなるよな……)

 どうやらリートは“教える”という行為に慣れていないらしい。


 ――だが。


 「やるなら勝つ気でいくからな!」

 クリウスは地を蹴った。


 「そうでなくちゃな!」

 リートは右へ左へと攻撃を交わした。


 「おりゃあ!」

 クリウスは必死に振り続けるが、木刀は掠りもしない。


 「踏み込みが甘い。そのままじゃ一生当たらねぇ!」

 リートがふっと姿勢を崩したかと思うと、木刀を下から突き上げる。


 刃先がクリウスの顎を捉え、クリウスは空へと跳ね上がった。


 「そこまで!」


 訓練場に響き渡る声。

 ロロイが現れた。


 「クリウス。まだまだ剣の扱いが甘い」

 「す、すみません……」


 ロロイはリートへ振り返る。

 「リート殿。私も試してみたい。《パンドラ》にどこまで通じるのか」


 挑むような笑み。


 「いいぜ、団長さんよ」

 リートも不敵に笑った。


       ***

 リートとロロイはお互いに向き合い、構えを取る。ロロイは落ちていた木刀を拾い、無駄のない構えを取っていた。


 ――瞬間。

 クリウスの目から、二人の姿が“消えた”。


 カンッ!


 木がぶつかる音が訓練場に響く。

 リートとロロイは鍔迫り合いをしていた。


 だが、押していたのはリートだった。


 「すまんね、団長さんよ」


 リートの姿が消え、ロロイの死角へ出現。

 刃が届く――。


 「あれ?」


 リートの攻撃はあたらず、木刀は空を切った。


 「完全な死角のはずなんだがな。……固有魔法を使ったな」


 リートが視線を向けると、ロロイは少し離れた場所に立っていた。


 「許してください。こちらも必死なんですよ」


 ヒュンッ――。


 リートは言葉が終わるより速く、鋭い突きを繰り出す。

 だが、ロロイは難なく回避する。


 リートの背後から声が響いた。


 「私の固有魔法、《フォーシー(予見)》。発動中、私には“これから起こる動き”が数秒先まで見えます。」


 ロロイが木刀を振りかぶる。

 刃先がリートの腹に直撃し、リートは吹き飛んだ。


 「私は帝国最強の騎士、と言われていますので」


 だがリートは何事もなかったかのように起き上がった。


 「なるほど、強い魔法だな」


 「全力で振りましたが……さすがです」

 ロロイは冷や汗を流し、ニヤリと笑った。


 「ですが、私にあなたの一撃は届きません。どうしますか?」


 リートも笑った。

 「団長さん、固有魔法使っていいんだよな?」


 掌に炎が灯る。


 次の瞬間、未来を見たロロイが目を見開く。


 「くそっ!」


 ロロイが後方へ跳ぶ。


 「もう遅い……」


 リートが炎を突き出す。


 「《マース(火の星)》」


 ゴォォォォォォ!!


 訓練場いっぱいに火球が膨れあがり、“それ“はまるで炎でできた星のようだった。

 その熱気は凄まじく、遠く離れたクリウスにも届いた。


 「団長を殺す気かよ!」

 クリウスが叫ぶ。


 その瞬間、火炎は一瞬で消えた。


 呆然と立つロロイ。


 「中の熱は抑えた。安心しろ」

 リートが親指を立てる。


 「伝説には敵いませんね」

 ロロイが歩み寄り、深く頭を下げた。


 「お手合わせ、ありがとうございました。リート殿」


 二人はガッチリ握手を交わす。


 「いつでも挑戦してこい!」

 リートが笑う。


 「もう懲り懲りですよ……」

 ロロイは苦笑した。


 「さあ、クリウス。稽古の続きだ」


 リートが振り返る。

 クリウスはそっと一歩下がった。


 (マジで……俺、死ぬんじゃないか……)


 クリウスは青ざめたーー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ