〜希望の灯火〜
新作です。中世ダークファンタジーで、悪魔と人類の戦いや千年前の騎士団の真相を描いていきます。
初投稿なので、読みやすさを意識しながら進めます。どうぞよろしくお願いします。
【プロローグ】
半月形をしたディアナ大陸。
その東方に位置する大国――聖アストリア帝国。
帝国の片隅にある小さな村では、夜になっても広場が明るかった。
一人の旅芸人が、炎の舞を披露していたからだ。
掌の炎は生き物のように揺れ、形を変え、夜空へ舞い上がる。
子ども達は声を失い、大人たちさえ見入っていた。
旅芸人は笑みを浮かべ、炎を天へと放る。
その瞳には旅の埃と、どこか遠い影が宿っていた。
――誰も知らない。
この夜こそが、千年の眠りから運命が再び動き出す夜であることを。
***
【第一話】〜希望の灯火〜
今日ここで死ぬ――そう思った。
目の前の怪物は嫌でも悟らせてくる。
鋭い眼光、岩のような身体、背には黒い翼。
昔話で聞いた、“悪魔”そのものだ。
(聖都に出て騎士団入りしたのに……見習いだけど)
クリウス=ヘールは乾いた笑いを漏らす。
三年前に村を飛び出し、聖都デラークで修行。
半年前にようやく《帝国騎士団見習い》となったばかりだ。
今日は久々の休暇。
村に帰ると、旅芸人の炎の芸で盛り上がっていた。
その最中――村外れで爆音が響いた。
駆けつけると悪魔が現れ、村人は逃げ出した。
あとは正式な騎士が来るのを待つだけ……だが。
「里帰りした途端にこれか」
悪魔が腕を振り下ろす。
視界が黒に染まる――はずだった。
何も起きない。
「え?」
目を開けると、旅芸人が前に立っていた。
さっき舞台で炎を操っていた、あの男だ。
男は当然の顔で言った。
「まだお駄賃もらってないんだよ!」
「な、何をしたんだ……?」
「蹴ったんだよ。」
……いや、悪魔を蹴って倒した?
会話が終わった瞬間、悪魔が地面を叩き砕く。
土煙――旅芸人は消えた。
「まったく、なんで今頃出てくるかねぇ」
背後に立っていた。
まるでそれが当然の位置であるかのように。
「少し下がってろ」
声の調子が変わり、男は腰を落とす。
刀が抜かれ、刃が囲炉裏火のように赤く揺らめく。
次の瞬間――炎が走った。
悪魔が一歩踏み込んだ、その身体が裂ける。
炎の筋を残し、真っ二つに。
◆
「……なんだったんだ、今のは」
息を飲むクリウスの背後に旅芸人が立っていた。
「背後取るのが趣味なのか?」
「もしもの時の盾だな!」
本人だけが楽しげだ。
「お前……何者なんだ?」
男は口の端を上げる。
「旅芸人、リート=ジンだ。よろしくな。」
その名前で、胸の奥がざらりとした。
どこかで聞いた気がした。
「帝国騎士団だろ? でも弱いな、見習いだ……その模様、聖都の紋章だろ。当たりだな?」
なんて失礼な男だ。大当たりだが。
「だが普通の旅芸人は、あんな戦いはしない」
「俺は普通じゃない。」
リートは炎のような瞳で笑う。
「なんたって――伝説の騎士団の団員だからな。」
冗談だと思った。
……だが、リートの背で揺れる炎が、夜風に溶けて消えた。
ほんの一瞬だけ――
“伝説”が現実と重なった気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
なるべく頻繁に投稿していきます。
次回はリート=ジンの正体について詳しく書いていきます。どうぞよろしくお願いします!




