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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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八十五節 信頼


パキッ、パキッ、と音が響き続ける。


正直に言いますと……やりすぎたかもしれませんね。


まあ医療魔法は兄上の方が数段上です。

というか、魔法の精度、持続力、センス諸々含めまして、兄上の方が上手と言いますか……。

とりあえず、この魔法の用法用量を守らない人体実験は禁止ですね。


はっきり言いましょう。

禁術レベルでなくて、これは禁術です。


本来の癒着軽減魔法は身体を構成する組織と組織の結合を緩和させて硬直を取る魔法ですが……。

魔法を使い過ぎるとどうやらその結合機能を破壊してしまうようで、神経系統まで壊れてしまうようです。


まあ、どうやら兄上の用法用量を守らない癒着軽減魔法は見事に『蝕毒』効いているようです。



振り上げようとした触手が、上に振りかぶった瞬間、ビシッと音を立て後ろに落ちる。

触手の細胞が崩れたのでしょう。

切ったわけでもない触手が、ビシッ、ビシッと音を立てながら次々に落ちていきます。


元々、気味の悪い物体でしたが、更に混沌とした形に変わりましたね。


まあ、私の仕事は回復。


『蝕毒』の脳天で闇魔法を展開し続けながら、『核』を剥き出しにしようとする光さん。


その光さんの背で触手を斬りつけながら光さんの魔法を補強するように風魔法を展開し続ける吉川団長。


『蝕毒』を地面、空中を問わずに四方八方から神経毒の付与された水魔法を放ち続ける兄上。



そして、私のすぐ隣で『核』が剥き出しになるのを待ちつつ、炎魔法で『蝕毒』の身体総てを、焼き尽くしてしまえそうな炎の塊を展開し続ける綾人さん。


四人すべての足元に治癒魔法と魔力の補正魔法を展開し続ける。


「昌澄」


隣から声を掛けられましたので、ちらりと声の主、綾人さんを見ました。

タラりと流れた汗は、彼が展開する炎魔法を極限まで高めているのを伝えてきます。


まあ、それでも不敵な笑みを浮かべ続けるのは流石綾人さんですが。


「なんでしょう?」


「お前の見立てで、『核』が剥き出しになるまでどのぐらいだ?」


そう言われて彩眼でジッと魔力の流れを見てみます。


『蝕毒』の脳天に居られる光さんの魔法の黒が、『蝕毒』の内部に見える緑の輝きまであと30㎝ほど。

先程からの進み具合と併せて考えますと……。


「……2分ぐらいですかね」


「だいたい俺の読みと一緒か……これから一気に魔力をこっちに注ぎ込む」


そう言った綾人さんの視線が頭上に大きく展開された炎魔法に向けられた。


「他の攻撃からは何としても守ります」


そう言って、結界魔法を展開しようとした瞬間、ドン、ドン、ドン、ドーンと四回の轟音。


驚いてしまった瞬間に、思わず後ろを見ました。

ニッと笑う昆明が僅かに見えます。


「流石昆明。あのかなり後方からよく見ています」


「だな」


私と綾人さんを囲うように四方に結界魔法が展開されました。

薄く黄色掛かったガラスのような結界魔法。

わが国最強の結界魔法士、第三王子・慈光宮 昆明の結界です。

……まあ、おかげさまで綾人さんの業火の熱波がダイレクトに伝わるようになりましたが。


「悪いが、結界を解いてもらうタイミングの……」


「はい、私がやりましょう」


綾人さんの思考を先に読んで答えます。

昆明の結界であるなら、綾人さんのこの業火ですら防いでしまうでしょう。

昔試しましたので、確実と言えます。

なので、私の役目は、綾人さんがこの業火を放つ寸前に、この結界を昆明に解除させる合図を送ることです。


私の答えに満足した綾人さんは真っすぐに前を見ました。

炎の玉に込められる魔力は、先ほどの比ではありません。

ビリビリと水分を全て蒸発させるような業火がうねるように、吠えるように、どんどんと威力を増していきます。


「あと1分で『核』に到達します」


「光はともかく、吉川は不味いな」


綾人さんの言葉に思わず頷きます。

吉川団長の魔力がもう僅かなのは見て分かります。

あと、吉川団長はポーションが身体に合わないように見えます。

先程、飲んだ時の様子を見るに、還元率がよろしくなさそうです。


ハタっと、思い出したように口を開きました。


「私の魔力を一気に送ります。相性はよろしくありませんが、無いよりマシでしょう」


そう言いながら、兄上が改良した無線魔法を喉元と耳に展開します。


ブワンと、急に現れた魔法陣に、ビクッと綾人さんの方が揺れました。


「ああ、皆さん、聞こえますか?」


『ええ、聞こえますよ、昌澄』


『な、なんだこれ!?』


『落ち着いてください、吉川団長!これは昌澄副団長の無線魔法です!』


兄上の冷静な声、吉川団長の驚く声、光さんのギリギリでありながらも冷静な声。


「なんだこれ?」


そして呆れるような綾人さんの声です。


「ええ、光さんの言われた通り、無線魔法です。まずは吉川団長!私の魔力を一気に送りますので、魔力が増えても驚かず、今のペースで風魔法を展開してください」


『しょ、承知した!』


「兄上、綾人さんの炎魔法が見えると思いますが」


『ええ、なかなか威力がありそうですね』


「その通りです。ですので兄上、あと30秒ほどでこれを放ちますので」


『分かりました、光さんと吉川殿を連れて退避ですね』


「その通りです!あと昆明!」


『ちょっと、俺ドン引きし過ぎて意識失いかけたわ……』


呆れたような昆明の声に、『分かります』という光さんの声と、『ああ、』とこれまた言葉にならなそうな吉川団長の声と、『ふふっ』と笑う兄上の声が聞こえます。


「この程度で意識を失わないでください、昆明。お前と無人島生活した時の方がよっぽど気を失いたかったです」


『うっせぇ!だいたい、それはっ!』


「つべこべ言わないでください。昆明、結界解除のタイミングはこちらから出します」


昆明との軽口に、綾人さんが「はっ、」と小さく笑いました。

ノイズ交じりですが、昆明の無線からもクスクスと笑い声が届きますし、他からもちょっとした笑い声が聞こえてきます。


『了解。その合図が出てからどのぐらいで『蝕毒』を囲えばいい?』


「1分……いいえ、合図しますので合わせていただけますか?」


『了解、任せろ』


そう言いつつも、彩眼で見える緑の光がだんだんと削れていく部分に近づいた。


「昌澄!」


綾人さんの叫びとほぼ同時に、天に向かって水魔法を放ちます。

私の合図に気が付いた昆明の結界がバキッンとガラスが割れるように粉々に崩れました。


「くたばれ、肉塊野郎!」


綾人さんの叫び声とほぼ同時です。

『蝕毒』から濁った緑の光が漏れ出ました。


『核が出た!』


光さんの声が響きました。


綾人さんの放った炎魔法に気が付いた光さんが一度『核』を切りつけて、ヒビを入れ込みました。

ダメ押しのように吉川団長がそのヒビを更に広げます。


「よしっ!」


思わず私はそう叫んでしまいました。


ただ、ほぼ同時です。

炎の塊が飛んで行くその先……『蝕毒』の脳天から逃げようとした光さんと吉川団長。

ただ、光さんがガクンと、膝の力が抜けるように崩れました。


何故!?光さんの魔力は安定していたのに!?

体力があるのは確認していたのに、崩れた光さんの姿に息を呑みました。

思わず彩眼で彼女を確認しますが、魔力は潤沢。


――ですが、右足首に黒く濁ったような魔力がこびり付いています。


溶けた表皮の中に、最後の執着のような『手』の形が見えてきます。

まるで道連れにしようとしているような……。


光さんの転倒を、驚いた顔で振りかえった吉川団長が、咄嗟に光さんの脚に向かって剣を突き刺しました。

その瞬間、黒く濁った魔力が一気に離れました。


『『蝕毒』に足を掴まれている!』


無線魔法の向こう側から吉川団長の声が届きました。

私が驚き言葉を放とうとした瞬間です。


『清澄!一条殿を頼む!』


続けて聞こえた吉川団長の叫び声。


吉川団長が光さんの腕を掴かみ、『蝕毒』の上から思いっきり投げました。

光さんの目が驚くように見開かれ、ゆっくりと落ちていく。

彼女の脚に、絡むように……いいえ掴むように見えるのは『蝕毒』の肉のような色をした手のような物体。

まるで離すまいとガッチリ掴まれた手のような形の肉片が、光さんの足首に絡んでいた。


吉川団長が切ったのは、これか!


そう頭で理解できました。

ゆっくりと落ちていく光さんに、『蝕毒』が触手を伸ばそうとします。

伸びてくる触手が光さんを捕まえようとした場所で、転移魔法の魔法陣が浮かびました。


青い魔方陣の上に現れたのは、白い軍服の外套を靡かせながら、結界魔法を展開して着地する兄上。


兄上は襲い掛かる触手を切り落としながら、光さんを軽々受け止めた。

片腕で光さんを抱き、そのまま足首を離すまいと絡みつく肉片も切り捨てた。


兄上たちは問題ないと判断して、視線を『蝕毒』に向けます。

吉川団長がまだ、『蝕毒』の上で、足元に剣を突き刺して、身動きが出来ない様子です。


多分、光さんが動けなくなったと同じように、足を掴まれていて身動きが取れないのでしょう。


しかし、『蝕毒』の寸前に、綾人さんの炎が迫っています。

ゴクリと、思わず喉を鳴らしました。


「まずい」


隣の綾人さんの声が、妙に耳に残ります。


炎が『蝕毒』到達まで、20秒。


今から転移しても10秒。

吉川団長を回収して二人でこちらに戻る魔法陣の展開には20秒。

どう考えても間に合わない!


タラりと額から流れた汗がじわっと自分の軍服に吸われました、


吉川団長を、見捨てないと、なのか?

踏み出そうとした足が動かない。

彼を、見捨てるのか?


グッと握りしめた拳に、爪が食い込んだ。


二次災害。


一瞬、諦めが頭に浮かんだ瞬間、兄上の魔法陣が光ります。

その淡い青色の光りに釣られるように視線を兄上に向けました。

そして兄上の視線が私と同じように私に向きます。


フッと笑った兄上の口がゆっくり動きました。


『はんぶん』


穏やかに、でも強い視線で笑う兄上。

その瞬間に、兄上の意図が分かりました。


ええ、私一人では絶対に間に合いません。

ですが――。


「そう言う事ですね!」


咄嗟に、私は転移魔法を展開します。

行き先はもちろん、吉川団長の元です!


「昌澄!?」


綾人さんの止めるような声が聞こえた瞬間、私は『蝕毒』の上に転移しました。


視界に見えた吉川団長の脚に、彼を逃がすまいと肉がこびりつくよう絡む。


「昌澄副団長!?」


私の登場に驚いた彼の目が小さくなるのが分かりました。

その肉片を切る手が、一瞬、止まりました。

ゴオオッと燃える音と、物凄い熱波がすぐ近くに感じます。

タラりと垂れた汗が一気に気化しました。


残りは5秒。


「吉川団長!手を!」


私が伸ばした手に、彼は迷わず掴みます。

そのまま転移魔法をまた展開。


「吉川団長!目を瞑っていてください!手も、絶対に離さないでください!」


叫ぶように伝えれば、吉川団長は目を閉じました。

ごつごつとした剣士の手が、しっかりと私の手を握り絞めています。


あとは、兄上を信じます!

私がするのは兄上の魔力に自分の魔力を繋げる事!


瞬間、兄上の魔力と、私の魔力が混ざるような感覚が起きました。


グワンと歪むような世界から視線を離すように、瞼を閉じます。


私が入口の転移魔法を展開して、兄上の魔力と接続しました。

あとは兄上が遠隔で、私と吉川団長を転移位置の座標を作り、そして出口を作ってくれると信じています。


まるで思いっきり逆流の水の中を引っ張られて身体が軋むような感覚。

自分でコントロールしていない為、身体の端々が引き裂かれそうに痛いです。

内臓が一拍遅れて追いつくような気持ち悪さも襲って来ます。

でも、がっちりと掴んだ吉川団長の手を離すまいと掴み、吉川団長も離すまいと掴んでくれています。



――痛みが、急に和らぎました。



兄上の、優しげな視線と似た、穏やかなさざ波のような魔力。

引き裂かれる痛みが、布で包まれるみたいに収まります。


瞼を閉じた先に光りを感じて、目を開きます。

遠くで『蝕毒』に炎の玉が当たるのが見えました。

大きな炎の玉に、なぎ倒されるように傾く『蝕毒』。


ハッとして私は手を見れば、繋いだままの手。

その先に、茫然とする吉川団長の姿を確認できました。

私と吉川団長は無事に、兄上、光さん、そして綾人さんの所に転移できたようです。


最前線で戦っていた五人全員が避難できたのだと理解できました。


私は咄嗟に、上に向けて水魔法を放ちます。


空中で展開されていた黄色い魔方陣が魔力を帯びて鮮やかな黄色を放ちます。

反応したように形作られたのは黄色いガラスのような壁。


ドン、ドン、ドン、ドン、ドーン。


轟音を立てながら落ちてくる分厚いガラスのような壁は、

『蝕毒』を囲うように何重にも展開されます。


無数に続く爆音、轟音。

ゴオオオと響くのは焼けるような業火の音。


『ぎょおおおおおああああああああああ!!』


『いだああああああああああああああああああ!』


『じにだぐなああああい』


焦げるどころか、焼き尽くされるような臭い。

まるで腐った油が大量に燃えるような強烈な悪臭が漂って来ます。


『だずげでぇええええええええええええ』


断末魔のような奇声が響きました。


ド――――ン。

と、今までとは比べ物にならない破裂音が響きます。


ジュッツ、ジュッ、ジュッワッ。

遅れてきたのは焼け焦げたモノが壁に当たるような音。


パキンッと静かな音が綺麗に響き、その音から遅れてくるのは爆風。

全てを吹き飛ばすようなその風が喜哉から冬の国へと続く荒野へと一気に駆け抜けた。


思わず目を閉ざして、その風が通り過ぎるのを待ちます。

長い、長い爆風を浴びながら、近場に皆がいるのを魔力で感知します。


同時に砂ぼこりが視界を奪い、その砂塵が収まるまで私たちは動くことはできませんでした。


静かになった戦場は、生き物の声一つ、無くなった。

キーンと耳に鳴り響いていた音が徐々に吸い込まれていく。


「生きて、いる」


静寂を切り裂くような吉川団長のか細い声に、私はより一層の安堵が呼び起こされます。

全員が無事ということに、心なしか涙が出そうでした。


強く握り締められたままになっている手が、温かく心強かった。




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