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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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八十四節 見えない痛み


Side 天翔宮 朱子


急に足元に浮かんだ魔法陣が私を運んだ場所は弟の隣だった。

何も言わずに結界魔法を展開し、私に魔法を使えないようにする。

もう魔法は使えなくなったので、無意味だ、と言ったところで弟はそのまま結界を貼るだろう。


ただ、弟は何も言わずに私の腕に治癒魔法を掛ける。

回復させるためではなく、出血を止めるための簡易処置。

生かす為だけの措置とは言え、その細やかな気遣いに、無いはずの腕が無性に痛む。


私は何も言わずに腰を下ろした。


弟は視線を向けずに真っすぐ最前線を見つめていた。


弟は自分が傷ついていけない存在だと理解しているし、それでも戦場で仲間を守る手段を考えて、そして実行しているのだ。


真剣な横顔は、もう私の知っている幼い弟ではなかった。




轟音を立てるように、炎と風が混ざり合い、喜哉の城壁よりも高い大きな業火の玉が現れる。

『蝕毒』はその炎にビクっと反応して、その魔法が放たれる前に潰そうと動き出した。


でも、それを防ぐように、結界魔法を足場にして次々に『蝕毒』の触手を切り落とす女騎士。


あれほど対抗心を燃やしていた成哉は綾人の能力を最大限迄押し上げるように魔力を注いでいる。


あれほど窮屈そうに敵国で生きる一条 光は水を得た魚のように、清澄の作り上げた戦場(フィールド)で飛び回り、戦う。



何故、こんなにも離れてしまったのだろうか?


物理的ではない距離が、大きく開いた気がした。



「バカなことしたね、王女様」


すぐ隣にドスッとワザと音を立てて座った黒い軍服の女。


漆黒の宵闇の如き髪に、アメジストを思わせる紫の目。

冬の国の軍人、とも言えない女――鷹司、いや篠宮 澪は私をジッと見た。


一条 光と背格好や、所作が似ているが顔立ちはあまり似ていない。


どちらかと言えば、一条 光は我が母……王妃と似ている。

顔立ちだけ見れば、彼女は秋里の血を引いているのが良く分かる。


「バカ、か」


思わず呟いた言葉に隣の女は「はー」と大きなため息を吐いた。


「バカでしょう?なんで全部背負おうとしたの?」


なんで、と聞かれても答えは見つからない。

――ただ、親友を取り戻したかった。

安寧の地に送り出したかった。


でも、その願いは国を揺るがす大惨事になっている。


「あんたさ、なんで人を頼らなかったの?」


篠宮 澪の言葉は胸に突き刺さってくる。

呆れたような彼女が指さしたのは隣で結界を展開し続ける弟――昆明だった。


「あんた、弟だって、兄だっていたんでしょ?ついでに両親だって……相談するべきだったと思うよ?」


単刀直入……まさにそんな雰囲気で他国の人間から正論をぶつけられる。

怒りを吐き出したい半面、その通りだと思う。


私に居なかったのは、他国の彼女のように私を諫めてくれる人間だったのかもしれない。


――いや、それはいつも瑠璃子の仕事だった。


ポロっと落ちた涙の意味など分からない。


「相談、の仕方など……忘れてしまったな」


その言葉に昆明も、他国の女も答えることはない。


後悔――。

しているつもりはない。


ふと前を見た。

今わたしがいる場所は最後方の戦火の届かない場所。


必死で命を繋ごうとする騎士たちの様子を眺め、更に前を見た。


『蝕毒』と対峙する四人の騎士。


業火、突風、結界。


目まぐるしい魔法を浴びせられながらも、その形が変わらない『蝕毒』。


綾人、清澄、成哉――少し後方に昌澄。

私が守るべき存在と思っていた彼らが前線で戦っている。


そして――他国、しかも敵国の騎士である一条 光。

確かにあの『蝕毒』は彼女の母国、冬の国がもたらした生物兵器だ。


同時に、あの『蝕毒』の正体が、一条 光の婚約者だと、彼女は知らない。

彼女とあんな男と結婚する運命は、無くなっただろうな、と他人事のように思う。

彼女があんなクズ男と交わることが無くなったと思えば、少しだけいいことをした気分になる。


一瞬、安堵した自分に気づいて吐き気がした。


人の生命を弄んでなんてことを思うのだ。


それ以上は考えないようにした。

あの男は『行方不明』になっただけだ。

誰も行方を知らないだけ。


ふと、一気に前線の四人が一気に『蝕毒』から距離を置いた。


『ぎょああああ、あああ、あ?』


『蝕毒』は少し戸惑うような奇声を上げていた。

それもそうだろう。

私も自分の見たモノの様子が信じられない。


『蝕毒』、まるで溶けだしたアイスのように、どろどろと溶け出す。

ずるずるっと表皮が液体のように落ちていき、骨や筋肉らしき形が見えてくる。


チラリと見た先で、最前線で戦っていた四人が、一斉に後方支援をしていた昌澄に視線を向けていた。


どうやら、天才がまた何かやらかしたらしい。


そして、綾人、清澄、成哉……そして光が前を見た。


何をする気だ?


と、成り行きを見る事しかできない。


『ぎょああああああ!』


『蝕毒』の咆哮を合図に、四人が一斉に走り出した。

今度は動きが変わった。


「光ってさ、頼らないように見えて、頼るんだよ」


急に、隣から声が聞こえてきた。


その言葉の意味は言われなくても理解できた。


他国の人間であるというのに、彼女は周りを頼りつつ戦場を駆け抜ける。

清澄の結界を信じ、昌澄の補助を信じ、綾人の業火を信じ、成哉の風を信じ、誰もが臆するはずの攻撃を駆け抜け、突破口を作り出す。


振り下ろされる触手を周りが薙ぎ払い、彼女は『蝕毒』の脳天まで駆け抜ける。

結界魔法を足場にふわっと宙を飛んだ彼女が身体を反転させながら重力を見方につけながら、脳天に剣を突き刺した。


ズシュッと大きな音が響く。


『ぎゃおああああああ!』


『蝕毒』の咆哮が響く中真っ黒の竜巻が沸き上がった、

その攻撃が彼女の血統魔法――『一条の闇』だとすぐに理解できた。


天高く上りあがるようなその黒い竜巻は、赤い肉片をまき散らすように『蝕毒』の筋や骨を削り出していく。


「光は二つの属性を合わせてあの攻撃をするんだけどね、あの魔法に他の魔力が混ざっているの、見えるでしょう?」


篠宮 澪の言葉に、涙が零れそうだった。


一条の闇魔法に、混ざっている風魔法。

普通の風ではない、とすぐに気が付いた。


本人が付与している風魔法もあるだろうが、

――私の婚約者であった(・・・)、成哉の血統魔法が混ざっている。


成哉の風がひどく懐かしく感じてしまった。


私に足りない部分を見せつけられるようだった。

私は、弱さを見せる場所を持っていなかった。

だから、頼ることが出来るほどの技量を持つ成哉を、頼れなかった。


「光は一人で生きているように見えるけど、周りを頼って前に進む。アンタに足りないのはそういうところじゃない?」


正論だ――。

何故、私の周りにはこういう面と向かって言ってくれる人間がいなかったのだろう。


「王族に頼れって言うのは無理な話か……」


苦笑いを浮かべながら思わず、そう口から出たような彼女の言葉に、私ではなく、昆明が口を開いた。


「いや、俺だって昌澄に頼るし、兄上だって次期宰相や父上を頼る。王族だからって関係ないよ」


弟は口を挟むつもりはなかったのだろうが、『言わねばならない』という表情でそう言った。

ひゅっと、空気を不自然に飲む音が響いた。

一瞬だけ私を見た昆明は、悔しさが滲む視線をすぐに戦場へと戻す。

言葉が出ないで、唇をグッと引き締める事しかできない。


「まあ、両親ぐらいには頼った方が良かったと思うよ?

……従妹(いもうと)可愛さに、他国に単身で侵入しちゃった私が言うなって話だけど」


「俺、澪さんが言う!?って言おうと思ったよ」


昆明が茶化すようにそう言えば、何かを思い出したのか、彼女は「ははっ」と乾いた笑いを漏らした。


「多分帰ったら……両親にも、兄にも、ついでに旦那にもこっぴどく怒られるだろうな……」


彼女は無鉄砲ではあるが、人を頼るということが出来る人間なのだと思った。

ゲンナリした顔の彼女に、少しだけ自分が両親に怒られた時を思い出した。

両親……。

新しい魔法が楽しすぎて庭園を消し炭に仕掛けた時、両親に本気で怒られた。

ただ、あれは、私を本気で心配していたのだと、思い出す。


『瑠璃子がいれば』――そんな幻想を思い浮かべてしまう。

否――、瑠璃子を免罪符にするな。

周りとそう言う関係を紡げなかった私の怠慢だ。


ふと目を瞑った。

思い浮かんだのは百合と瑠璃子。

在りし日の、三人で語らい合った記憶。


『大好き』


口癖のようににやけた笑顔でそう言っていた瑠璃子を思い出す。

アイツは、こんな未来望んでいなかっただろう。

そして、こんな未来を私と百合が歩んでいると知ったら、悲しむだろう。


「償わないと、な」


チラリと見た先で、私と同様に命を紡がれた百合を見た。


ああ、そうか。


私が篠宮 澪に腹が立たないのは……

どこか、この遠慮のなさが、瑠璃子と似ているのだ。


「「う、うわあ」」


急に響いた声に瞼を持ち上げた。

ドン引きするような昆明と篠宮 澪の言葉に同じように視線を向けた。


「うわっ」


同じような言葉が思わず口から出てしまった。


どうして、ああなった?


そう言いたくなるほど、どろどろに溶け出した『蝕毒』。

まるで身体の接合部分が総て剥がれてしまったように、ボロボロと身体が分解されていく。

ボキッ、ポキッと骨が折れるかのような音と共を風が運んでくる。

微かな風に錆の匂いが紛れ込んでいる。


「うええ、何してんの昌澄!?あれ医療魔法だろ!?なんてもん使ってんだ!?」


弟の叫ぶような声に、私もジッと見るが、何が何だか分からない。

まあ、弟は解析のプロフェッショナルだ。

思わず視線を向ければ、弟は『いつものように』口を開いた。


「多分、昌澄が開発した『癒着軽減魔法』を応用させて、身体を構成する組織をバラバラにさせている」


「うえ~……気持ち悪い」なんて言いながらも今目の前で起きていることを解析しながら解説する弟に、お前も別次元でヤバいぞ、なんて言いそうになった。


ああ、そうだ。

弟もまた、いつの間にか守る存在じゃなくなったのだと、理解させられた。


「ふっ、ははは。なんって、滑稽だ」


私の声に、答えなどは無かった。

残った左手で自分の顔を隠すように前髪をぐしゃりと握った。


『友を助けたい』

このささやかなワガママを言えていれば、もっと違う未来を見られたのかもしれない。


そう思いながら、痛みを感じないはずの右手に、痛烈な痛みを感じた。

右腕をほとんど失ったはずなのに、右手に爪が食い込み、突き抜けるような痛み。

身体を食い破るような幻覚の痛みは、腕なのか、胸なのか。


…たぶん、『私を助けて』と言えなかった言葉の痛みだ。


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