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彩眼の次男は今日も巻き込まれる。~敵国副師団長は兄の嫁になりました~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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八十二節 戦場


蠢くような表皮。

肉の塊のような巨体。

喜哉の城壁とほぼ同じ高さを持つソレ――。


『ぎょああああああ』


大音量の咆哮。

その直後に振り上げられた触手は天高く伸ばされた。

視界の先で、その足元に兄上と光さん、吉川団長、朱子殿下を見つけた。


「昆明!!」


ド――ン、と地面を抉るような大きな音を立て、一面が砂ぼこりによって視界奪われる。

私の叫び声に反応したのか、砂ぼこりの先に、僅かな黄色い壁が見えた。


ビュ――、と風の音が響いた。

砂ぼこりを攫った風が視界をクリアに変えていく。


視界の先で、地面にめり込む触手を見た。

その触手が喜哉の城壁と同じ高さを持つ『蝕毒』から振り下ろされたのだと分かりました。


咄嗟に魔力感知の魔法を飛ばします。

そこで、兄上、光さん、吉川団長、朱子殿下と肉眼で確認していた四名の生命反応は確認できました。

そして、その触手から四人を守るように展開された黄色い壁――昆明の結界だ。


ただ、結界の脇から光さんを狙おうとした細かな触手を、剣で切り付けているのは兄上、

こと、第二騎士団の団長、朝比奈 清澄でした。


「次男坊!動けるなら行け!」


響いた声の主を見ました。

よろよろと立ち上がった笠谷先輩と、同じようになんとか立ち上がる千歳さん。


「僕と、千歳で負傷者の回収、およびセーフゾーンまでの撤退をする!

君は戦えるなら前線に行け!」


笠谷先輩の言葉に私も立ち上がります。千歳さんも強い視線でうなずきました。


「なら、俺も連れて行ってくれるか?」


急に聞こえた声。ポンっと私の頭に手を乗せ、ニヤッと笑うその人は、愉快そうに私を見ました。


「綾人団長……」


千歳さんが驚いたような声で言ったその人。

我が春の国、最強の騎士と言っても過言ではない第一騎士団の騎士団長。


秋里 綾人が私の隣に立ちました。


「千歳、悪いが第一騎士団の指揮を頼む。笠谷先輩はセーフゾーンで負傷者の管理。」


綾人さんの言葉に「「はっ!」」と千歳さんと笠谷先輩が返事をしました。


「んでもって、昌澄。お前は俺をあの前線まで、連れて行け」


ニヤリと笑う。

本当に、兄上といい、綾人さんといい、千歳さんといい、私の先輩方は優秀な方ばかりで困ってしまいます。

こんな先輩方と比べ続けられた私や昆明……そして彼は苦労ばかりでした。


「承知しました」


そう言いながら綾人さんに手を差し出します。

綾人さんが手を乗せた瞬間に、私は座標を固定しました。


瞬間、転移魔法で飛んだ場所は『蝕毒』が立ちはだかる、戦場の最前線でした。


「よお、清澄、光。息災か?」


ワザとらしくそう言う綾人さん。

逆に呆れたような顔で苦笑する兄上。

これまた楽しそうな光さんがニコリと笑います。


「遅いですよ、綾人」


「そう言うな清澄。これでも急いだ方だ」


クツクツと笑う綾人さんは、到底化け物の前とは思えないほど冷静な様子です。


逆に、そのセルフバイブレーションを押さえて貰いたいのは吉川団長です。

第三騎士団の騎士団長にして、兄上や綾人さんと同期の狂戦士(バーサーカー)部隊の団長、吉川 成哉。


と、血まみれで、出血多量状態で貧血のように青い顔の朱子殿下。

チラリと見た朱子殿下は驚いた顔のまま、自分の腕を押さえておられました。

……どうやら朱子殿下の失血はその腕から――いや、腕が切断されておりますね。


「吉川、お前の力も借りるぞ」


綾人さんはニヤッと笑ってから私に目配せを射ます。

声を出さずに唇を動かしました。


『朱子殿下を安全圏に』


その言葉に私は何も言わずに転移魔法を朱子殿下の下に展開しました。


「なっ!?」


驚いた声を上げたのは吉川団長で、真っ先に私の顔を見て来られました。


「朝比奈副団長!?何を!」


怒りの籠った声と殺気を向けられましたが、私が指さした方を見れば、吉川団長はすぐに落ち着かれました。

最後方で結界を貼っている昆明のすぐ横、そこに朱子殿下が現れ、すぐさま昆明の結界に包まれた。


「片腕の朱子殿下じゃ、邪魔だ。それに吉川。お前の力も必要だ」


綾人さんの言葉に吉川団長は一度、大きな深呼吸をしてから「すまない」と小さく私に謝罪しました。

「気にしておりませんよ」と笑いながら、応えましたが、逆の立場であれば私も同じ反応をするのでしょうね。


「……一条殿も避難させるべきでは?」


吉川団長の言葉に綾人さんがニヤッと笑いました。


「いや、ここにいるのは『第二騎士団の女騎士』だ」


綾人さんの言葉にニヤッと笑う光さんは、どことなく、綾人さんと似ておりました。

まあ、血縁的には従兄妹だと知っておりますが、顔立ちがよく見ればパーツで似ているのだと気づきます。


まあ、彼女の黒髪は、染色魔法で金髪のままですし、春の国の白い軍服を着ておられますので、ぱっと見で彼女が『一条 光』だと気づく人間はいないでしょう。


「あと、吉川。悪いが俺たちと怒られてくれ」


ニヤッと笑う綾人さんに、吉川団長のセルフバイブレーションが凄いことになりました。


「秋里……俺はいま無性に嫌な予感というものがしているのだが?」


「吉川殿、気にしてはいけませんよ。綾人と付き合うことになると、大抵の事では驚きませんから」


兄上がにこやかい笑いながらそんなことを言い、助けを求めるように吉川団長が私を見てきました。


「慣れてください」


ニコッと笑いながら言ったところで、吉川団長は諦めたようにまた深呼吸をなさいました。


「俺に、何をしろというのですか?」


そう聞いた吉川団長は覚悟を決めた強い目で綾人さんを見られました。

綾人さんは近くにいた光さんの手首を掴んで上げさせます。


カチャリ、と鳴った音。


その手首に嵌っている白石の腕輪を見た吉川団長はおおよそ想像がついたのか、青い顔をしました。


「まて、まさか、敵兵の魔力を解放するのか!?仮にも捕虜だぞ!?」


仮にも、と言っているあたりで、吉川団長は光さんを認めていない訳ではないでしょう。

ですが、彼の言わんとすることは分かります。


「吉川殿。逆に聞きますが、今残っている戦える騎士であの大型の『蝕毒』に対応できる騎士は誰が居りますか?」


兄上の言葉に吉川団長は後ろの戦場を見ます。


自らも負傷しながらも、負傷兵の回収の指揮をする千歳さん。

同じく、負傷しながらも、負傷兵の管理を指揮する笠谷先輩。

瀕死の状態の騎士を救うためにギリギリの魔力で治癒魔法を展開し続けると遠澄と維澄。


この場に立てる技量のある騎士はほとんど負傷して動ける者は居りません。

吉川団長自身も気が付かれたのか、ぐっと爪が食い込みそうなほど強く拳を握られました。


つまり、綾人さん、兄上、吉川団長、そして光さん。

『蝕毒』に対抗できる人間は四人しかおりません。


私が補助できたとして、私が可能なのは補助まで。

自分の技量は充分分かっております。


「っ!」


悔しそうにそう呟いた吉川団長は覚悟を決めたように前を向きました。


「白石の腕輪を解放させるために、俺はこの舞台に残されたわけだな」


吉川団長の言葉に兄上と綾人さんは驚いた顔をしました。

確かに、光さんの白石の腕輪を開錠するには、騎士団長もしくは王族の三人以上の承認が必要になります。

そう言う意味では吉川団長も必要ですが、多分、そうではないと思いました。


「何言ってんだ?お前も戦力換算だぞ?」


「綾人と私では魔法の相性最悪ですからね」


綾人さんと兄上の言葉に今度は吉川団長が驚いた顔をします。

綾人さんは炎属性ですし、兄上は水属性ですから、相性は確かに最悪ですね。

ですが、この間に風属性の吉川団長が入れば……それ以上の言葉は必要ないでしょう。


「ふっ……確かに、お二人はそう言う意味では相性最悪ですね」


苦笑いを浮かべた吉川団長はふー、と長く息を抜きました。


「『第三騎士団騎士団長、吉川 成哉の名を持って、一条 光の白石の腕輪の解除を承認する!』」


その言葉に綾人さんもニヤリと笑う。


「『第一騎士団騎士団長、秋里 綾人の名を持って、一条 光の白石の腕輪の解除を承認する!』」


そう言い切った綾人さんは呆れた顔の兄上を見ました。

兄上は、はー、と長いため息を吐きまして、そして笑いました。


「『第二騎士団騎士団長、朝比奈 清澄の名を持って、一条 光の白石の腕輪の解除を承認する!』」


兄上の宣誓と共に、赤い魔方陣が光さんの手首に浮かび上がります。

白石の腕輪のその上に浮かんだその魔法陣は、ガチャンという音と共に地面へと落ちました。


「魔法をこんなにも使わなかったのは久しぶり過ぎて困りますね」


そう言いながら光さんはヒュンっと持っている剣を振りました。

響いた空を切る音は蔵人の域だと分かり切っていることです。

カチャンと響いた剣を鞘に納める音。


そこでハタっと思ったのですが、光さんが使われている剣は確かに良い物でありますが、それ以上に親和性の高い剣が、私の腰にぶら下がっております。


「光さん」


そう言いながら私は自分の剣を鞘ごと彼女に投げました。

私の愛剣は鞘も含めて『名剣』です。


驚いた顔の彼女は受け取った剣を見て、ニッと笑います。


「やっぱりいい剣ですね。お借りします『昌澄副団長』」


そう言った彼女は腰の剣を渡しに投げ渡し、私の愛刀を腰に差しました。


「そんじゃ、とっとと『蝕毒』を倒ちまうおうか!」


綾人さんがそう言いながら、大規模の炎魔法を展開します。

それを補佐するように、吉川団長が風魔法で補佐します。


ええ、炎は風によって大きく燃え上がるのです。

二人はほぼ同時に作り上げた炎の大玉を、『蝕毒』に向けて投げました。


『ぎぃおおおあああああああ!』


ボンっとその巨体に当たった火の玉のどうやらコントロールは兄上がしているらしく、兄上が結界で『蝕毒』の声が出る場所……口と思われる場所にぶつけておりました。


「内臓が弱いという訳では無いのですね」


兄上が感心したように言いました。

『蝕毒』の奇声が出ている場所、つまりは口から内部を焼いてみようとしたわけですね。

まあ、結果は無傷ですが。


「では、私から行きましょうか」


そう言った光さんが、目にもとまらぬ速さで『蝕毒』の懐に向かって走り出します。


『ぎょああああああ!』


咆哮ともとれる叫び声はびりびりと体中を刺してくるような衝撃を放つ。

そのまま振り上げられた触手は、太陽を遮るように影を落とす。


ドンッ、ドンッ、ドーン。


幾重にも地面を削り取るような強さで振り下ろされる触手。

しかし、光さんの走り抜ける道を作るように兄上が結界魔法を展開します。


「早いなっ」


「続きます」


綾人さんと吉川団長がその後ろに続いて走り、兄上がその二人の後ろを走ります。


私は、そのまま兄上たちの戦場を整えるために、水魔法を展開します。


細く、鋭く、そして無数に。

作り上げた水の針を一気に『蝕毒』へと飛ばします。


ブスブスブスッと響いたその音は『蝕毒』の肉のような表皮に刺さり、そのまま吸い込まれます。

今回飛ばした針はただの水針ではなく、神経系統の動きを鈍らせる毒を付与しました。


「さて……毒が効くかはわかりませんが、やってみるだけいいでしょう」


そう言いながら、兄上たちを補助する魔法を展開し始めるのでした。




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