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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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八十節 後悔


『冷泉 百合子』が倒れた瞬間、周りからどこからともなく声が上がる。


「勝った、勝ったぞ!」


「化け物が死んだ!」


「我らの勝利だ!」


我々の勝利を確信した声です。

剣を突き上げ、その刃先のきらめきが、乱反射する。


そして同時に、戦場を満たすのはオレンジ、黄色と言った暖かみのある色。

僅かに見える深く暗い青は明るい色に淘汰されていく。


その瞬間、不自然に揺れる影が目に入りました。


「千歳さんっ!」と叫んだ瞬間、彼女の身体がぐらっと傾いた。

千歳さんの膝の力が抜けて、まるで糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。


それを見て、笠谷先輩が踏み出そうとして──先輩の膝もガクンと崩れた。

咄嗟に走って、その彼女が倒れきる前に彼女の頭を受け止めます。


兄上のようにスマートには行きませんが、倒れきる前に彼女の頭を手で受け止めることが出来ました。

そのまま、千歳さんの身体を地面にゆっくりと降ろして、彼女の手を握ります。


「ごめん、昌澄くんっ、」


ぜー、はー、と苦しそうな顔でそう言った千歳さんは、魔力が乱れているようでした。

手首を掴んで脈を確認すれば、その音は沸騰したようお湯のように早く、口から洩れる息も小刻みで浅い。

ゆっくりと魔力を流しながら、暴れるような魔力を水で薄めるようにゆっくりと落ち着かせていきます。


「……申し訳ありません。」


思わず、口から出てしまったのはその言葉でした。

彼女の『血統魔法』は薄々、危険なものではないかと気が付いておりました。

ですが、戦況で、彼女の能力の代償を考えずに、策に練り込んでしまいました。

今、彼女の魔力を見てしまえるが故に、この状態が非常に良くないのが分かります。

――下手したら、千歳さんの魔法回路を壊してしまいかねない状態だと分かります。


「なにっ、が?」


苦しそうな声で、千歳さんは笑みを浮かべました。

士官学校時代、やらかしたときも同じように笑ってくれたのを思い出します。


「……貴女の能力を作戦に組み込んだことです」


そう言いながらもゆっくりと魔力を安定させます。繋いだ手から伝わる魔力の波形は、まるで棘のように彼女の身体を中から痛めつけている。


代われるものなら――なんて、どうしようもないことお思います。


「やると、決めたのは、私の意志、だよ、見くびらない、で」


そう言いながら笑う千歳さんは、やっぱり凄いと思います。

すっと伸びてきた左手が、私の頬を包みました。

そしてその親指が、目尻をなぞります。


「だから、泣かない、で?」


そう言われた瞬間、私の目から零れている者に気が付きました。

ああ、そうか……。

私は、私の判断で誰かが死にそうになるのが、初めてだったのだと気が付きました。


考えてみれば、いつも最終決定は兄上。

兄上ならば、この感情を抑え込めたのでしょうか?


そして同時に、私がどれだけ、ぬるま湯で生きていたか、痛感させられました。


「ねえ、イイ感じの雰囲気の所悪いんだけどさ~、千歳だけじゃなくて、僕も回復してくれない?」


涙が零れ落ちそうになった瞬間、響いた声に、横を向きました。

完全に呆れた顔で、地面に膝を付き、ジーッと狐のような目で私たちを見てくる笠谷先輩。


「僕も結構限界……。」


ドサッとそのまま地面に倒れ込んだ笠谷先輩に慌てて治癒魔法の魔法陣を飛ばしました。

他から聞こえる戦場で生き残った者たち同士の明るい歓声を聞きながら、倒れ込んでいる笠谷先輩を見ました。


「ちょっと、次男~?僕と千歳の扱い違い過ぎない?」


「軽口が叩けるだけ問題ないでしょ……え?」


千歳さんの魔力の循環を確認しながら、笠谷先輩の身体を確認するために魔力を見ました。

体中の隅々を確認すれば、負傷分は多々ありますが、命に関わるような場所はありません。

ええ、身体の魔力で確認してしまったのです。


「え、えっと?」


ええ、魔力で確認してしまえば、笠谷先輩にあると思っていたものがありません。

男性に、あるべきものが……思いっきりありません。

思わず彼……ではなく、彼女を凝視してしまいました。


「ん?……ああ、そういうこと」


私の戸惑いの正体に気が付いたのか、笠谷先輩はニヤッと笑いました。


「えっち」


それは楽しそうに言われたもので、余計なことを想像してしまいました。


「えっ、!?」


「さすがに、患者のプライバシーは守って欲しいな~」


私が勝手にドキマギしているのを、笠谷先輩は楽しそうに笑っておられます。

正直に言えば、動揺し過ぎて言葉が出てきません。


「えっち?」


疑問を浮かべながら私を見上げてきた千歳さんに、違う意味でクリティカルを叩き出された気分で、視線をバッと違う方向に向けました。

同時に、ケラケラと明るい笑い声が響いてきます。


その笑った声の主、笠谷先輩に視線を向けました。


「はははは!君と遠澄はやっぱり兄弟だね、僕の性別を知って同じ反応をしている」


彼女の言葉に、どうやら弟……しかも遠澄の方が不可抗力か何かで、笠谷先輩の本当の性別を知っていたらしい。

笠谷先輩はふー、と力を抜くように長い深呼吸をしました。


「いや~、長生きするもんだね、こんな面白いものが見られるなんて!」


「貴女、私と二歳しか変わりませんよね?」


「ふふっ、そうだね。でも君よりかなり過酷な最前線で生きた」


その言葉に口を噤みます。


ええ、第二騎士団の生存率と、第三騎士団の生存率は雲泥の差があります。

それを知っているからこそ、彼……ではなく、彼女と、吉川団長の凄さが浮き彫りになるのです。


「ごめんね……」


ポソッと呟かれた言葉に、思わず彼女を見ました。


「ずっと、君と千歳、それに殿下に謝りたかった。あの日、君の親友たちを守れなくて、ごめん」


ジッと見てくる目は、いつもの細められた目ではなく、僅かに藍色が見える真剣な眼差し。

その目に映り込んだ黄色い破片。

バラバラと花弁のように飛ぶその黄色が昆明の結界の名残だとすぐに分かりました。

どうやら昆明は安全を確認出たらしく、結界魔法を解いたようです。


そして――笠谷先輩の謝罪の意味はすぐに理解できました。


私と昆明の、士官学校時代、苦楽を共にした親友の彼……そして千歳さんの同室であった先輩。

多くの先輩、同輩が一斉に葬り去られたあの事件。

23人もの騎士が、殉職した二年前の……。

生き残ったのは、この笠谷先輩と吉川団長です。


ですが、私と昆明の中では、その話は終わった話です。

千歳さんもグッと私の握っている手に力を籠めます。


「騎士ですから……彼も覚悟していましたよ」


私が言えることはそれだけです。

私の言葉に千歳さんもフッと笑いました。


「……ありがとう」


彼女の中ではまだ、傷なのだと気が付きました。

ですが、私からも千歳さんからも、言えることはないでしょう。


「あ、ちなみにだけど、僕が女だってことさ、吉川も知らないんだよね~」


思わず言われた言葉にバッと笠谷先輩を見てしまいました。

ええ、千歳さんも同じように笠谷先輩を見ています。


「僕なりに、朱子殿下に気を使っていたんだけどな~」


「「えっ?」」


思わず千歳さんと揃った声。笠谷先輩はケラケラと笑いだします。


「はははは!君らお似合いだわ!」


地面に寝ころんだままの笠谷先輩はスッと視線を横に向けます。

真っ赤な海で眠る『冷泉 百合子』の首に、手を伸ばし、親指で頸動脈を押さえます。

一瞬、ハッとしましたが、笠谷先輩は穏やかな笑みを浮かべました。


「……なんで、こんなことしたのですか、百合子先輩」


沈み込むような声に答えはない。

ただ、笠谷先輩が浮かべた色が紫色で、その色は『冷泉 百合子』に絡んでいった。

後悔――そんな感情が見え隠れする。


治癒魔法で確認すれば、どうやら『冷泉 百合子』は生きている。

魔力循環も正常で、呼吸も安定。

そして傷は一切無くなっている。

――が、意識が戻るかは何とも言えないでしょう。


するりと手を離し、そして笠谷先輩は起き上がります。

青い魔方陣の上で、彼女は懐からごそごそとあるものを出しました。


ええ、彼女は副団長ですから、持っていても不思議ではありませんね。


なんて思いながら、笠谷先輩が『冷泉 百合子』の手首に嵌めた白い腕輪を見ました。


『白石の腕輪』。


ガシャン、と鳴り響いた音と同時に。赤い魔方陣が浮かびます。


魔力を一切封じ、魔法を使えなくなる魔道具です。

……ええ、光さん、こと一条 光の手首にも装着されています白い腕輪と同じものです。


そして笠谷先輩は何とも言えない顔で空を見ました。


その瞬間、笠谷先輩の目が、これでもかと大きくなりました。

釣られるように、私も、そして千歳さんも目を見開きます。


生ぬるい、錆の香りを含んだ風が通り抜ける。


ド――――ン、地面から突き上げられるような振動。

ずるり、ずるり、と肉が這う音。

沸騰するお湯のようにボコボコと盛り上がり、破裂する表皮。

そして大きく戦場に影を落とす、巨体。


王都で、この喜哉の幽霊屋敷で

――その姿を私たちは何度も見ております。


タラり、と背中を冷たい汗が通り過ぎています。


『ぎょああああああ!!』


衝撃波のように戦場の塵を吹き飛ばす叫び声。

生物とは思えない奇声が―――戦場に響きました。



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