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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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七十八節 覚悟


Side 笠谷 偲


くそっ、くそっ、くそっ!


思わず悪態をつきたくなるほど、目の前の光景に理解が追い付かない。


明らかに形を変えた百合子先輩。

背中から、胸から、傷口から湧き上がるような『蝕毒』が鋭い槍のような刃を作り出し、次から次へと騎士を串刺しにしていく。


ギリギリで避ける者、傷を負った仲間を背負い逃げる者、異形になりそうなところを助ける者、助けられる者。


一気に騎士たちが負傷者に変わり、傷の浅いものは重傷者を背負ってセーフゾーンに下がる。

傷が浅いと言っても、すぐには回復できなそうだ。


正に混沌とした戦場で、唯一、傷を負わずに残るのは僕と千歳のみ。


でも、違和感がある。

何故か、僕と千歳に対してだけ、僅かに攻撃に遅れが出る。

それでも、ぎりぎり回避できる程度だ。


「不味いです、偲先輩!」


千歳も襲い掛かる触手の槍に避けつつも、切り落とすまで対応できていない。


「負傷者の回復が追い付いていません!」


先程までは第三騎士団の騎士が連携することで『蝕毒』の触手を切り捨て、僕と千歳がその本体である百合子先輩の肺の辺りに赤黒く煌めく核を狙っていた。

でも、一気に騎士の数が減らされた今、僕と千歳は防戦一方だ。


「分かっている!」


そう叫びつつも、次から次へと高速で繰り出される『突き』を必死で防ぐ。

その隙のない攻撃はまるで――百合子先輩の剣筋を見ているようだ。


ただ、本体であろう百合子先輩はだらんと手足に力が無く、もはや人の形は保っているが、その周りの『蝕毒』に主導権があるように見えた。


どうする?

百合子先輩の剣技をかいくぐって核を破壊するなど、出来るのか?

余りの隙のなさに、考えても、考えても、正解が分からない。


チラリと見た先はセーフゾーン。

遠澄と維澄に加えて、第四騎士団の汐治癒士の三人がかりでも回復が追い付いていない。


このままだとじり貧。


視線を動かしてみるが、第一騎士団の秋里団長は単身、多くの『蝕毒』を焼き払っている。


こちらへの増援は無理。


もう一人、単身で戦う男を見つけた。


「清澄団長!」


第二騎士団の団長である朝比奈 清澄。

士官学校時代の癖で、その男の苗字ではなく、名で呼べば、こんな戦場だというのに穏やかな笑みを浮かべた。


「なんでしょうか、笠谷副団長」


酷く通る声で、男は『蝕毒』を切り捨てながら答える。


「悪いが回復に手を貸してくれ!」


「無理ですね!私の魔力はほぼ皆無です!なので、剣で『蝕毒』を減らしております!」


そう言いつつも清澄は一気に十体近い『蝕毒』を切り捨て、葬り去った。


「くそっ、あと一人、朝比奈クラスの治癒士がいれば!」


舌打ちしながらも、目の前の『蝕毒』と化した百合子先輩から繰り出される触手の槍を捌き続ける。

先程から専ら防戦一方。


全くもって、攻撃をさせてもらえない。


「……昌澄くん」


ポツリと呟かれた千歳の言葉に思わず視線を向けた先。


第三王子の昆明殿下とかなり後方で魔法陣を展開している次男坊を見つけた。

黒い軍服の女が座っているが、護衛の為にそこにいるには明白だ。


なら――。


「千歳!」


『蝕毒』から放たれる槍を切り捨てて、もう一人、この舞台で戦える人間の名を呼んだ。


「なんですか偲先輩!」


ガキンッと音を響かせて、『蝕毒』の触手を切り捨てた千歳が叫ぶ。


「五分、一人で耐えてくれる!?」


現実的に五分というのはかなり厳しいラインかもしれない。

でも僕の言葉に、千歳は笑った。


「考えがあるんですねっ!」


「とびっきりヤバいの連れてくるよ!」


「ああ、なるほどっ!昌澄くんですね!

いい案だと思いますけど、昆明殿下の魔力補助者が必要ですよっ!」


ガキンッ、ガキンッ、と響き続ける音の中、二人で会話を続ける。

この戦況で出せる手立ては最早、ぶっ飛んだ天才を連れて来るしかない。


アイツは毒にも、薬にもなる、やばい後輩だ。


「次男坊の代わりに清澄団長を連れていく!」


「なら何とかなりますね!五分、耐えてみせます!」


ガン、ガンッとの連続の音を響かせた千歳に背を向けて、真っ先に走り出した先は清澄の所。


「悪いけど、清澄団長、借りるよ!」


ひょいっと彼の体を肩に抱き上げて、近場にいた第二騎士団の騎士に声を掛けてから走り出す。


「おや、笠谷先輩に背負われるのは士官学校以来の体験ですね」


僕の肩の上でクスクスと笑う清澄は楽しそうに笑った。


「悪いけど、冗談に付き合う時間が無い」


「ふふっ、昌澄を戦場に出すのですね。お任せください、昆明の魔力暴走ぐらいなら、残りの魔力で何とかなりますので」


シレっというこの可愛げのない後輩は、どうせ笑っていることだろう。


「そう言う事!」


「お願いですから、昌澄を暴走させないでくださいよ?」


「千歳がいるから大丈夫でしょ!」


そう言いながら駆け抜けた戦場。

辿り着いた最後方の結界を展開する場所。

その場でキョトンとする朝比奈の次男坊である、破天荒な天才の顔を見ながら、清澄を思いっきり投げた。


「行くぞ、昌澄!」


「は、はいっ!」


昔の癖だろうが、背筋を伸ばして脊髄反射で返事をした次男坊。

昆明殿下もまた、同じように背筋を伸ばした。

投げたはずの清澄は普通に着地して、次男坊の肩を叩く。


思えば、この二人と亡くなった彼。

この三人は、いつも問題児で、先輩である僕たちは本当に苦労させられた。


でも同時に、突破口を作ってくれる三人だった。


清澄が貼り付けたような笑みのまま、猫を持つかの如く弟である昌澄の首根っこを掴んで僕に差し出す。


「じゃあ、昌澄。笠谷先輩の言うことをちゃんと聞くんだよ?」


こんな戦場なのに、穏やかな言葉遣いの清澄に、弟の昌澄が驚きの顔に変わる。


「兄上?これはどんな事態ですかね?」


「じゃあ、借りていくね!」


時間が無いので、ひょいっと昌澄を肩に抱き上げた。


「私の意志は!?」


昌澄は叫んだが、それを無視して、戦場を突っ走る。


「ちょ、笠谷先輩!?」


「悪いんだけど協力して!百合子先輩の暴走を止めたい」


肩に背負った昌澄は「はっ!?」と声を上げたが、そのまま気にせずに走り続けた。


「百合子先輩を止めないとじり貧。遠澄、維澄の治癒魔法を上回る負傷者なんだ」


僕の言葉に、昌澄は「なるほど」と小さく答えた。


「……回復役を私に?」


「いや、それよりも僕と千歳の攻撃を補助して欲しい」


僕の言葉に昌澄は、しばし黙った後、ゆっくりと口を開く。

それにしても、貴族っていうのは、僕が肩に背負って走っている時でも優雅なもので、生まれの差っていうものを痛感した気がした。


「……その前に試したいことがあるのですが」


「試したいこと?」


昌澄の言葉を反復して、ちらりと彼の顔を見た瞬間、とても楽しそうな表情を浮かべていた。

この表情をするときの彼は、ある程度の確信と自信がある。


「そうですね、とりあえず『老化』させてみましょうか」


少し楽しそうな声で、コソコソと話された彼の作戦は、到底、僕みたいな凡人には思いつかない奇策だった。


「それで、百合子先輩は止まるのか?」


「ええ、確信はありませんが、可能かと。千歳さんが居るならなおさら可能性が上がるかと思いますが。」


「分かった。僕はどうすればいいんだい?」


「まずは、一人で冷泉先輩と対峙できますか?」


「やれと言われればやるさ!」


「ならば、私の魔法陣と千歳さんの協力があれば、出来ると思います」


本音を言えば、昌澄のぶっ飛んだ策は普通なら信じないし、失笑して終わることだ。

でも、『朝比奈 昌澄』という、ぶっ飛び過ぎな天才が考えた奇策なら、どれだけ常識外れでも、信じる価値はある。


「じゃあ、僕が君を下ろして、千歳を離脱させるから、頼むよ」


「分かりました、五分ほどいただければ、何とかなるかと思います」


そう言いながら、昌澄は僕の肩の上で、もう魔法陣を描き始めている。


五分とは、現実的に見れば非常に厳しい時間だ。

正直言えば、一人で耐えるには何とも無理難題――

というか、死ねって言われているようなものだよね?


でも、五分耐えれば、この天才は何かやらかしてくれると信じている。


僕にこれぐらいの才能があれば、もっとうまくやっていたのかもしれないと思うけれども、僕は考えるよりも戦う方が得意な第三騎士団の副団長。

少しは頭を使うけれども、やっぱり戦う方が性に合う。


「じゃあ、任せるよ」


昌澄を投げ飛ばすように地面に置いて、剣を握り直す。

結構乱雑に降ろしたけど、彼は何事も無いように着地していた。


千歳に向かって数本の触手が一気に襲い掛かろうとしていた。


その剣を握る手に、僅かに血が滲んでいた。

次に受け止めれば、多分、剣を吹っ飛ばされてしまうだろう。


『蝕毒』の槍のような強度の棘が、千歳の鍛え上げた剣士の手ですら、耐えきれないほどの攻撃を千歳は紙一重で耐えていたのだと、理解した。


瞬間、千歳に襲い掛かる槍が届く前に前に出る。


千歳を突き刺そうとしている触手を切り落としながら、

空いている左手で千歳の首の襟をつかみ、後に……いや昌澄へと投げつける。


驚く顔をしている千歳を横目で見ながら、

視点の合う事のない、百合子先輩の虚ろな目を見た。


まだ、その胸が上下に動くことで、呼吸をしているのを感じた。


ガキンッと、肉のような触手からしないような音が響く。

剣と触手が交わったはずなのに、響いた音は金属音。

今まで斬った肉のような、骨のような、魔石のような感覚と手ごたえが変わる。


まるで、『蝕毒』が剣を真似て、剣のような硬度に変わったようだ。


だらりと身体に力が入っていない百合子先輩を見るが、微動だにしない。

完全な化け物へと変貌した彼女を見つめながら、決意を口にする。


「貴女を、殺してでも止めます」


私の言葉に応えるように、強度が増した触手の槍を捌き、切り捨てる。


ガキンッ、ガキンッと響き続ける音。

さっきよりも明らかに『蝕毒』の硬化された触手の攻撃が鋭く、際どくなっている。


ぐっと握った剣で、その金属のような硬さを持つ触手と戦い続ける。


確実に学習し、吸収する『蝕毒』に後れを取らぬように、必死で防ぎ続けるのだった。



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