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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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七十七節 伝言


Side 一条 光


戦場で耳を澄ませる。


『共鳴』によって、私の脳裏に浮かんだのは二人の剣筋。

剣捌きの音は人によって異なる。


川上 瑠璃子は、二人を止めるために、私に多くの記憶を受け渡した。

本人が望まない記憶は受け渡すことは出来ない。

つまりは、彼女はほとんどの記憶を渡しに受け渡したのだろう……。


人の記憶が自分の中にあるのは違和感かもしれないが、父と母の記憶も同じように持っている私からすれば、『そういうもの』なのだ。


聞こえた剣を打ち合う音。


明らかに姿を変えた『百合』は千歳さんが近くにいるから任せることにしよう。

……と、言うよりも、そちらに向かった破天荒すぎる『副団長』がいるから心配しないことにした。


清澄さんは、あんな化け物の弟を持つなんて、大変だろうな、なんて笑う。

私も同じように化け物な弟を持つからこそ、自分も化物であり続けなければならない。

ストッパーとして。


走りながら見た先で、男と女が剣を打ち合う。


周りで多くの騎士が囲っているが、誰も手出しを出来ない至高の領域。

騎士たちが手出しを出来ないのは自分たちの力量を十二分に把握しているからだ。


炎のような赤い髪を振り回す麗人は赤茶色の瞳を歪め、

太陽のような金色の髪が揺れる軍人は青空の瞳を歪ませる。


『朱子』と吉川成哉。

婚約者同士である二人が、互いににらみ合う。

『朱子』の右手には、ウネウネと肉のかたまりのようなものが巻き付き、腕の力を補助させているように見えた。


この二人についても、川上 瑠璃子は記憶を分けてくれた。


まだ、背丈は『朱子』の方が高かったころの記憶。

この記憶を受け渡した川上 瑠璃子の意図は分かっている。


そうでなければ、人の恋愛事情を赤裸々に語らい合った記憶など、見せることはないだろう。


ガンッと響いた音。


吉川団長が『朱子』の剣を弾いた。

バランスを崩しつつも剣を離さない『朱子』に吉川団長は剣を振り下ろそうとした。


その剣が、一瞬遅れた。


ああ、なるほど。


このまま振り下ろせば、致命傷。

無傷で捕えたかったのだろう。


ただ、その瞬間、彼の視線が私に向いた。


『頼みます』


そう、言われた気がした。


「甘いな、成哉」


『朱子』の言葉と同時にボワッと炎の柱が天へと打ちあがる。


剣で打ち合っていた男と女の間を別つように、その炎は二人を分断した。


「今の剣を振り下ろせなかったのは、失敗だな、成哉」


「……いいえ、そんなことはありませんよ」


その瞬間に、彼の視線がこちらに向いた。

幸いにして『朱子』の視線は吉川団長にくぎ付けた。


ヒュンっと剣を振り下ろしながら、彼女の右肩に剣を食い込ませた。


まだ『蝕毒』に浸食されていない肩から湧き上がった血は綺麗に空に飛び散った。


そのまま切り落とそうと力を込めたが、その前に彼女は綺麗に身体を反転させながら私との距離を置いた。


彼女の赤茶色の瞳が、私を見て忌々しそうに歪んだ。

だからこそ、私は淑やかに笑う。

彼女が、一番癇に障る形で、綺麗に笑った。


「どうも、こんにちは、『朱子殿下』」


彼女は私が切りつけた肩を押さえながらニヤッと笑った。


「よく来たな、一条 光」


そう言いながらも『蝕毒』を制御しているのか、ボコボコと動く肉片が彼女の腕でうごめいていた。


フッと、自嘲でもするかのような笑い方で、彼女は笑い続ける。

『朱子』はこの笑いをするときは、嘘を必死で隠そうとしている時だと、私は教えてもらっていた。

それを知っているのが、自分の経験ではなく、瑠璃子の記憶だという事実が、胸の奥を不快に撫でた。


――だが今は、その不快さが役に立つ。


「なんともまあ、役者がそろったものだ」


そう言いながら、ちらりと彼女が見た先はもう一つの戦場。

『冷泉 百合子』こと『百合』の姿だ。

その姿を見た彼女が悲しそうな視線を一瞬だけ浮かべた。


もう、人間とは言い難い姿だが、何故だか『百合』は思考を捨てていないように見えた。

『瑠璃子』の記憶が、大多数を相手にしている時の『百合』の姿を見せてくる。

一気に相手を薙いでから、個別にとどめを刺していく。

騎士の時の『百合』と、全く同じ動きをする化け物になった『百合』。


多分だが、『瑠璃子』と『百合』の姿が重なっている所為だろう。


一瞬、『瑠璃子』の感情に飲まれそうになった。

私がもし、『瑠璃子』と同じ立場だったら、親友に茨の道を歩ませた自分を許せないだろうな、なんて思った。


彼女の腕でボコボコと動き続けた『蝕毒』は這うようにその範囲を少しずつ上に上げていく。

ボタボタと流れ続けた赤い液体を飲みこんで塞いでしまった。


彼女は確認するかのように剣を握り、そして大きく呼吸をした。


「まあ、負ける気は無いがな!」


瞬間、一気に間合いを詰めた『朱子』。

ガキンッと響いた剣の反響音は想像以上に重たい。


「威勢がいいわりに、きつそうだな?」


ニヤリと笑う『朱子』。

その瞬間、彼女の腕からウネウネと起き上がった触手が迷わず私の目を突こうとした。


避けようと離れたが、触手がこれでもかと私を狙ってくる。


「しつこいですね!」


飛んできた触手を一気に薙ぎ払い、反転して彼女に斬りかかる。


「そりゃ、お前相手なら『蝕毒』も気合が入るだろう?」


ニッと笑いながら彼女は剣を振り下ろす。

剣と、触手、二人分を相手にする気分だが、意外にも悪くはない。


カンカンッと剣同士の交わる音に、時折、ザシュっと触手を切り落とすが、『蝕毒』の触手は次から次へと湧き上がる。


「私はその『蝕毒』に恨まれる覚えはありませんが?」


「ははっ!知らぬが仏さ!」


そう笑いながら突きが飛んでくる、その横から触手!


避けきれない!


腹、肩、どちらかを犠牲に――。


ガキンッと音が響く。

咄嗟に、触手を切り落とした。


「なんだ、成哉。お前も来るのか?」

 

「ええ、朱子様!私は……いや、俺は諦めません!」


目の前の剣を受け止めたのは吉川団長。

意外にも、この男は本気で諦めていない。


『瑠璃子』の願いを叶えるには、この男が必要だ。


「小賢しい!二人になったところで変わらん!」


ブンっと吉川団長の剣を薙ぎ払い、距離を置いた『朱子』は、ぜー、はー、と息を切らせながらこちらを見た。


ジッと見れば、額から流れるような汗が頬を伝っている。


「吉川団長」


「は、はい!?」


私が名を呼べば、その男はビクッと驚きながら返事をした。


「参考までに聞きますが、あの『王女様』を止めたいですか?」


私の質問に、彼はまっすぐ前を見たまま、ぐっと剣を握り直す。


「ええ、もちろんです」


「なら、あの腕を切り落とせますか?」


迷いない彼の剣が、一瞬揺れた。

視線の先の彼女の腕は肉に囲まれドクドクと脈打ち、血管のような管が肩に繋がる異形の姿。

先程、切った瞬間に感じたが、私の腕力ではあの『蝕毒』に侵された腕を切り落とすことはできない。

しかし、彼なら可能だ。



彼が、覚悟さえ決めれば――。



彼の剣が、少し迷うように揺れた。



でも彼は剣を再度握り直して前を真っすぐに見た。


「無論!」


彼は視線を『朱子』に向けたまま、そう力強く答えた。

その視線だけで、この男が、『朱子』を大事に思っているのが分かってしまった。


「なら、隙を作ります。その瞬間に腕を切り落としてください」


そう言い残して一気に走り出した。

ガンッと金属の交じり合う音が響く。

受け止めた彼女の表情は笑顔だが、流れ出る汗が尋常ではない。


「その『蝕毒』、浸食されるのはきついようですね?」


「ああ、だが、剣を持てるならそれでいいのさ!」


鍔迫り合い状態でいる隙に、『蝕毒』から触手が伸びた。

その瞬間、僅かに、彼女の左手から緑の光が漏れた。


その光が『瑠璃子』の教えてくれた魔石の光と、よく似ていた。


一度剣を弾いて、触手を切り落としながら剣を何度も交える。


「貴女の、望みはこんなことでしたか?」


カンカンッと響き渡る反響音。

私の言葉に彼女は笑って何も答えなかった。


「聞き方を変えます――『川上 瑠璃子』はこんなことを望んだのですか?」


その瞬間、表情が変わった。

ガンッと剣が押し返された。


「お前、まさか『瑠璃子』の件に関わっていたのか!」


明らかに浮き上がった怒りに私は口端を歪める。


「まさか!この国に来るまで、我が国の愚行など知らなかった」


「嘘を吐くな!では何故『瑠璃子』の名を知っている!」


「教えてくれたからですよ、『蝕毒』の彼女が」


カンカンッと連発で響き続ける金属の交わる音。

彼女の剣が、少しずつ重さを失くしているのを気が付いている。

それでも弾かずに、剣を交合わせ続ける。


「ふざけるな!『瑠璃子』の声など、誰も!」


「私は聞けます。」


怒りに任された剣が私の剣を推し込もうとする。

それでも私は笑い続ける。

怒りを露わにする彼女と反対の感情浮かべ続ける。


「私の『血統魔法』ならば、『川上 瑠璃子』の記憶を見せてもらうことが出来ます」


ギリギリと鍔迫り合いになる。


「『川上 瑠璃子』が見た幸せも、苦しみも、全部体験させてくれました、彼女が」


彼女の視線が、私にくぎ付けになっていた。


「だから、これ以上、最期まで騎士であり続けた『川上 瑠璃子』を汚してはなりません」


私の言葉に彼女の剣が、少しだけ揺れた。

それでも決意を揺るがせないように、彼女が剣をぐっと握るのを感じた。


「『朱子と百合を止めて』」


私の口から出た言葉に、彼女の赤茶色の瞳は大きく開かれた。


「『全部私の所為』」


彼女の口が、ぐっと奥歯を噛み締めるように崩れた。


「彼女――『川上 瑠璃子』は自らの手で、剣で死にました」


私の言葉に鍔迫り合いのまま息を呑んだ『朱子』。


「自分を取り戻し、自分で核を破壊して逝きました」


カタカタと震える件のこすれ合う音は、まるで『朱子』の泣き声の代わりのように聞こえた。


「『朱子と百合にごめんって伝えて』と、伝言されました」


「嘘だ!瑠璃子はっ言葉を、文字でしかっ!」


ああ、声が、少しずつ上ずっている。

少しずつ、『朱子』の仮面が剥がれているのが分かった。


「あと『大好き』って」


「ふざけるな!」


ポロっと、彼女の目から落ちたモノを見た瞬間、私は気持ちが分かるが故に複雑な気分になった。

その瞬間に彼女の左手から緑の光が漏れる。

腕に巻き付く『蝕毒』が触手を私目がけて棘のように向けてきた。

私は力いっぱい、鍔迫り合いとなった剣を弾いた。


バランスを崩した『朱子』h剣ではなく、触手をこちらに向けるように手を伸ばした。


後ろに倒れながら触手がこちらに飛んでくる。


その瞬間、大きな音が響いた。

骨に当たるような音はせずに、シュパッと空を切るような音と共に戦場に吸い込まれた。


目の前に割り込んできた彼は迷うことなく、剣を振り下ろしていた。


「成、哉」


驚くような、彼女は確かに彼の名を呼んだ。

風の属性が付与されたその剣は綺麗に彼女と『蝕毒』が繋がった肩を切り落とす。

地面に倒れながら飛び散る赤は鮮やかに飛び散り、彼女の白い軍服を錆の匂いで染めていく。


切り離された腕は肉に飲まれながら、心臓のようにドクリ、ドクリと脈打ちながら、地面に落ちていった。


割り込んできた彼は迷うことなく、その腕を切り落としていた。

斬られた彼女は、どこか、満足そうな顔で――笑った。


「空が……青いな」


ポツリと呟かれた言葉に同じように空を見た。

雲一つない快晴。

『瑠璃子』の記憶が教えてくれた。

士官学校時代、動けなくなるまで鍛錬し合って三人で見上げた空と同じ色をしていた。


地面に倒れ込んだ彼女は無くなった右手ではなく、左手を見た。


――人造魔石。


すぐにそれだと思った。

淡い消えそうな緑の光が彼女の顔を照らす。

そして彼女のすぐ近くで地面に落ちる肉の塊が、ドクリ、ドクリ、と脈打ち続ける。


その姿を誰もが見るしかできなかった。




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