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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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七十一節 おかえり


Side 天翔宮 朱子


阿鼻叫喚の喜哉に、最後の空砲が鳴った。


これで、無事に民は逃げられた。

最後まで残ったであろう代行官の彼は、無事に逃げただろうか?


少しだけ心配をした。


でも大丈夫だろう。

第二騎士団、第四騎士団の影が見える。

前線では第三騎士団が奮戦している。


そしてゲートから、第一騎士団が流れ込んでくるのも、見えた。


「おや、増員ですか」


「第一騎士団が来たようだ」


「ふふっ、愚かな。『蝕毒』の餌になるだけだというのに」


ニヤリと笑う男に、私はニコリと笑い返す。


「では、そろそろ本気を見せましょうか」


男が胸元から出したのは、綺麗に装飾された赤黒い魔石。


きらりと怪しい光を放ったソレに対応するように、前線の『蝕毒』たちが暴れ出した。

敵も味方も関係なく、その触手を棘のように尖らせて、次々に刺し殺していく。


ああ、でも第三騎士団は凄いな。


刺されようが、斬られようが、自分の身を切って、仲間の身を切って回復しに行く。


成哉……やっぱりお前はかっこいいな。


幼い頃、私よりも弱いくせに私を守ると言い切ったお前に、少なからず好意はあった。

でもお前の隣には笠谷もいるし、私は心配せずに役目を全うできる。


「その魔石は……非常に美しいな」


思わず口から出た言葉に、男はニタリと笑う。


「父上が使っていたのだが、これさえあれば春の国だって手中におさめられるものを、父上はこれ以上使うのを止めると言い出したのです。」


そう言いつつも、男から魔力がその魔石に送られているのが分かった。


「ほう、どうやって使うのだ?」


「簡単です、魔力を流せばいい。そうすれば、勝手に『蝕毒』が殺戮を始めます」


「……面白いな」


「ええ、そうでしょう!これは一条の闇の能力で、精神汚染させる魔法を基に作られたものです!」


ぺらぺらと機密情報らしいことを簡単に喋るこの男。

この男の父親は皇弟と聞いているが、さぞ苦労したことだろう。


だからこそ、優秀な一条 光を婚約者にして、愚行を薄めさせようとしたのだろう。


「ふふっ、便利なのですね、『一条の血統魔法』は。」


「ええ、能力だけは優秀ですよ!」


ハッとしたように、男は私の腰を抱いた。

ああ、気持ち悪い。


でも、あと少し、我慢をすればいい。


「ご安心を、朱子様。貴女以外は愛しません。一条の闇の能力を継がせるために、あの女を奴隷とするだけですかっ……ら?」


本当に、馬鹿な男。

ドスンと胸に突き刺さったものを見て、彼は驚愕の顔をしていた。


一歩、二歩と私から引いて、ガクンっと地面に膝から崩れ落ちた。


「な、ぜ?」


そう言いながら彼は私を見上げた。


「何故?決まっている、コレを取り戻すためだ」


そう言いながら一歩、二歩と進んで、地面で座り込む彼の首に掛かっていたネックレスを奪い取った。

綺麗な赤い魔石だ。


彼女が流した血の涙のようで、どこか綺麗で、悲しく見えた。

赤黒い魔石のネックレスを大事に、左手に握りしめた。


チラリと向けた視線の先で、第三騎士団と交戦中の『蝕毒』の動きが止まった。


「肺を刺したからね、苦しいだろう?」


そう言いながら男を見下ろした。


「でも瑠璃子はもっと苦しかったはずだ」


男は口からゴポッと血を吐き出した。

心臓を突かずに肺を刺したのは、それが一番苦しいと聞いたから。


「る、り、こ?」


「ああ、この魔石の主だ。私たちの親友だ」


そう言って笑う。男はヒューヒューと不規則な息をしていた。


「じょおうに、なるので、は?」


「女王になるのは我が姪だ。兄上がこの国の王になる前に、私は邪魔者を全部巻き添えで消えるつもりだ」


そう言いながら笑う。

女と嘲りながらも、絶対的な武力を持つ私を担ぎ出そうとする勢力も無くはない。

兄上の御代で武力としてあり続けるよりも、私は早々に舞台から飛び降りるべきだ。


「貴様らがやった非人道的な実験に誰が賛同するか!」


力の限り言い切った言葉。

男は絶望したような顔で私を見た。


「久豆則殿下……貴方の死は誰に分からないようにしますからご安心を」


そう言った瞬間、私の右手の甲にはビシッと十字の傷が入った。

想像よりも肉の抉れる痛みは鋭いが、瑠璃子の痛み思えば――軽すぎる。

肉が抉れたようなその傷を見ながら、これが禁術の代償なのだと笑った。


「まさ、か?」


「ああ、湯川隊長、瑠璃子に使われた禁術と同じものだ。」


「おまえ、剣を、握れなく、なるぞ!」


血を吐き出しながら、ヒューヒューと音を立てているのに回復もせずに罵倒する。


「ああ、構わない。私の剣など変わりはごまんといる。

でも、お前を騙し、瑠璃子を取り戻す役目は、私にしかできない」


思わず笑えば、男は絶望した顔で私を見た。


「瑠璃子から聞いたのですよ。心臓ではなく、肺にこの禁術を打ち込まれた所為で、思考が残ったと。」


そう喋っている間に、男の身体がまるで溶けだしたスライムのようにどろどろと形を変えていく。


心臓が、だんだんと光り輝いていく。

その光は淡い、緑色。


「貴方からこの禁術を聞いた時から、調べた。我が国の禁書で。

そして見つけた。人間を『退化』させて、卵以前の形に変える。

そうすることで、周りの『肉体』を求める化け物になるのさ」


でも何か侵食されるように、黒い靄がその緑を包み込んだ。


「さようなら、久豆則殿下。貴方の死を知るのは、私だけだ」


「があああっ、ああ!」


男が叫び続け、バリンっと音を立てて、違う物体になったのを何とも思わないで見た。

コロンと落ちたのは緑の魔石。

緑の魔石を拾いあげて、ポケットに滑り込ませた。


そして、握りしめた手をゆっくりと開いた。


「瑠璃子、おかえり」


見つめたのは握りしめていた赤黒い魔石。

装飾されたペンダントとなった魔石を見ながら涙を溢す。

思わず、『彼女』を胸に抱き締めた。


「ごめん、ごめんな瑠璃子」


するりと抜いた剣。

地面に置いた魔石に剣先を突き立てた。


「多分、すぐに私も百合も追いかけるから

……少し先に待っていてくれ」


自分の愛剣に力を込めて、ビシッと日々の入った赤黒い魔石を見た。


走馬灯のように、瑠璃子と百合と過ごした士官学校の六年が流れて来る。


初めての授業の時、誰もが私と百合に委縮する中、三人一組と言われ、真っ先に私たちに飛び込んできた瑠璃子。


『ねえ、私も混ざっていいですか?』


その授業が終わる頃には、私たちは互いの名を呼び捨てし合うほど意気投合した。


瑠璃子は父の副団長を誇りに思い、団長よりも参謀の副団長に憧れた。


『私は騎士団長の方が憧れますけれどもね』


『なら、百合が団長で、私が副団長になって、史上初の団長・副団長両方女の騎士団になろうよ!』


『だとしたら、第三騎士団がいいかもな。武闘派だし、今の騎士団長も女性だからな』


百合、瑠璃子、私、とそれぞれに夢を語らい合った。

その夢は、叶うことはなかった。


剣を握って騒ぎ続けた私たちは、士官学校の問題児三人なんて言われた。

演習でダントツ過ぎる結果を残して教員たちに呆れられた。

まあ、その記録は、弟の昆明と、昌澄とその友人の三人のペアに塗り替えられたけれども。


士官学校四年の時だったな、夜通しのパジャマパーティー。

パジャマでお菓子も、ジュースも、初めてだった。

恋バナ、というものも、初めてだった。

一つのベッドで三人寝るなんて、本当に初めての体験だった。


思えば、瑠璃子は私に普通というものを体験させてくれた親友だった。

百合にとってもそうだろう。


そして、あの戦争の前。

三人で酒を飲んだ。

また会える日を願って……。


でも、待っていたのはお前の訃報と、ボロボロで死に掛けた百合だった。

あの日から、気づいていた。

私を孤立させるために、二人が前線に送られ、お前は死んで、百合は傷付いた。


私の友だった所為だ。


「ああ、でもお前だけは天国逝きだな。そうなると、ここでさようなら、瑠璃子」


グッと力を籠め合瞬間、パキンッと綺麗な音が響き、剣の下に置かれた赤黒い魔石は二つに割れた。

そしてサラサラと風に吹かれた砂のように、消え去っていく。


『“さようなら”』


何故か、『蝕毒』として叫び続けた彼女の懐かしい声が聞こえた。

元気のよい、心地の良い声だった、と思い出しながら。


「瑠璃子ありがとう……お前のくれた情報は、全部、一つも残さず、綺麗にできた」


風に攫われる涙が、崖の下に降りていく。

喜哉の門の前に展開している第三騎士団が勢いを取り戻した。

第一騎士団が動かなくなった『蝕毒』を次から次へと葬り去っていく。


「さて、最後の仕事だ。悪役は、舞台から退場するのが世のセオリーだ」


悲しくはない。

だって、私たちは、親友を取り戻せたのだから。


「百合、幼いころからワガママに付き合わせてばかりだったけれども……最後まで付き合ってくれ。」


もう1人の親友を思い浮かべながら、十字の刻まれた手で、緑の魔石を握りしめた。

ズキリと痛む手を気にせずに歩み出す。

どうしようもない他国の王族……久豆則であったウネウネと動く肉の塊は、

ゆっくりと私に付いて動くのだった。



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