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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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六十五節 赤い喜哉8


Side 冷泉 百合子


生まれた時はただの平民だった。

私には母しかいなくて、父親がいない。

それが当たり前だった。


母のご飯は暖かかったし、あかぎれている手は痛そうだけど暖かくて――。


何よりも幸せな時代だった。


そんな幸せが終わったのは三歳の冬だった。


急に父を名乗る男が現れた。

妙に綺麗な服を着て、病に伏せる母を見ずに、私を見た。


『ほう。下賤の血が混ざっていながら冷泉の色を持って生まれたか』


そう言った男は私と同じ髪と瞳の色をしていた。


『母を殺されたくなければ、従え』


簡潔かつ、分かりやすい脅しだった。


母を守るつもりで……私は『冷泉 百合子』となった。

名前に『子』が付いたけれども、母のつけた『百合』が残るなら別に構わなかった。


そこから始まったのは『冷泉家を継ぐ女児』に相応しくするための教育――と言う名の虐待。

なかなか大変な日々だった、と今思い出しても笑えて来る。


でもそんな地獄は二年で終わった。


五歳の夏。


弟が生まれた。

父と、正妻の間に。


用済みになった不義の子供なんて捨ててしまえばよいものを、世間体を気にした父と義母は私を娘として扱い続けた。


まあ、そんなのはどうでもいい。


だって、見向きもしない父と義母。

虐待されるような真似はせずに、高く売りつけるために世話をする。


五歳の秋。


弟が生まれたその年の秋、母の死を知らされた。

——援助は、私が『用済み』になった瞬間に打ち切られていたのだろう。

使用人がこっそりと教えてくれた。

母に墓などなく、共同墓地に埋葬されたと教えられた。

生きる意味を――失った。


そんな五歳の冬。


『王女殿下』の友人を探す茶会に連れ出された。

興味もなかった。どうでもいい。


そんな中で出会ったのは太陽のような彼女だった。


暖炉の炎のような暖かみのある赤髪。

キラキラとした赤茶色の目は、ちょうど持っていたカップの紅茶のような色だった。


『詰まらなそうだな!どうだ、私と抜け出さないか?』


それは、人生で初めて体験した逃避行だった。

気付けば泥だらけ、傷だらけで王女殿下の騎士に見つかった。


それから彼女の気分の赴くままに呼び出され、遊び、学び、生きた。


気付けば――破天荒すぎる王女殿下の友人というポジションを得ることになった。


それから二年。

私と彼女が七歳の時。


運命が、動いた。


彼女の弟が『王家の血統魔法』と呼ばれる結界魔法を発現した。

その魔法は、この国のほぼすべてを守っているという魔法だった。

もう、老齢な先々代の国王陛下……彼女のひいお爺様の命が消えかかったところで、彼女の弟がその能力を得た。


誰もが喜んだ。


何も知らない五歳の彼女の弟は、誰とも触れ合えない結界の中で曽祖父の息が絶えるまで見守った。

そうして、彼女の弟は――国の守護者になった。


同時期だったよな……。

彼女に心無い言葉を向けられるようになったのは。


『王家の血統魔法を持たずに、炎魔法を持った王女など使えぬ』


『血統魔法は末王子だけか……。兄王子たち二人も優秀でありますが、弟君まで!』


『それより聞きましたかな?王女殿下は剣ばかり握られるという話だ』


『なんでも騎士団長に勝ったらしいがな!』


『旦那よりも強くてどうするつもりだ?』


彼女はドレスよりも剣が好きだった。でも、そんな彼女を嘲る声はだんだんと大きくなった。


国王陛下も王妃殿下も、そんな声よりも末王子を心配していた。

理解はできる。

たった五歳で結界術の維持の為に軟禁される末王子が可哀そうだと私だって思った。

――でも、だからと言って、彼女への汚い言葉を見ないのはおかしいと思っていた。


両親に見向きもされない彼女が、何故か自分と重なった。


なら、同じ道を、歩こうと決心した。


十歳の春。


王立学校ではなく、士官学校に入学し、彼女と同じ道を歩くことを決めた。

父も義母も反対しなかった。

むしろ、死んでくれとでも思ったのだろう。


私は誰にも淘汰されない力を手に入れようとした。

魔法も、知識も、剣技だけは残念ながら彼女に敵わないけれども。


そんな楽しい六年はあっという間に過ぎ、士官学校を卒業することになった。


十六歳の春。


士官学校の卒業生は四つの騎士団のどれかに配属される。

特例があるのは王族だけで、彼女は王族だから、王族軍の指揮官となることが決まっていた。


彼女と別れるのは初めてかも、なんて思いつつ、笑って別れを告げた。

少し――寂しそうだったけれども、『規則だもんな』と笑ってくれた。


私の配属先は第三騎士団。

そこで見た現実は地獄だった。

使い捨てにされる士官学校の仲間たち。

次々に、前線に出され、次々に散っていく。


そして知った、

第三騎士団が『死んでほしい騎士』を配属する場所だと――。

それを守っていたのが、無敵の第三騎士団の騎士団長と副団長だった、と。


——十七になった冬。


私はもう一度、彼女の手に引き上げられた。

ボロボロになって帰って来た時、手を差し伸べてきたのはやはり彼女だった。

王女殿下の親衛隊に引き抜かれた私は、もう一度、頑張ろうとした。


彼女の様に兄弟たちに隠れて虐げられる能力者を、

私のような不遇の生まれの人間を、

士官学校を卒業したばかりの人間たちを、

――戦場で捨て駒にされるのを止めたかった。


でも優先されるのは血統重視で、能力なんて二の次。

優秀な者から先に死んでいく。


彼女よりも弱い兄が、彼女よりも上の皇族軍の総長となった。

私よりも凡愚な弟が、私よりも高い文官の地位を得た。


『おや、『姉上』。生きておられたのですね。

こんな嘆願書まで送って……滑稽ですね』


父親そっくりな弟が、私が書き上げた嘆願書を目の前で破った。


『せっかく、王女殿下のご慈悲で生き延びたのです。

静かに、息をひそめて、今は大人しくしていてください『姉上』」


弟の心を刺すような言葉に涙が出そうだった。


でも、彼女が諦めないから、私も諦めなかった。


二人でもがいてみたけれども――最後の決定打はそこに来た。


そんな折に、彼女の婚約者が戦争で錯乱したという報告を受けた。

私は違うと思った。

彼女もそうだった。


彼女の婚約者を殺そうとしたのだ。

そして――巻き込まれた私の後輩たち。

グッと、握った拳は爪が食い込むほど強く握っていた。


調べてみれば――内通者の尻尾が見え隠れした。


『……冬の国から接触があった』


彼女の言葉に目を丸くした。


冬の国――。

我が春の国の隣国であり、受け入れられぬ価値観を持つ国。

そして、幾度となく、剣を交えた国でもある。


戦争中の相手から、接触があった。


『罠でしょうか?』


『いや、私を旗印に本気で我が国を混沌の渦に堕とすつもりだ』


彼女は真剣に悩んでいた。

相手の甘い言葉に、騙されていると分かりつつ、揺れ動いて見えた。


でも、やっぱり彼女は彼女だった。


『……私は、弟が可愛いのだ』


彼女はニッと笑った。昔と変わらない屈託ない笑顔。


『私には分からない感情ですわ』


『だろうな。じゃあ、士官学校の後輩、……例えば笠谷で考えてみろ』


そう言われて、『なるほど』と呟いてしまった。

確かに、あの子は可愛い後輩だ。


『おおよそ、想像がつきましたわ。確かに可愛いですね』


『まあ……姉として、邪魔者は全部連れて行くか』


そう、笑った彼女――

天翔宮 朱子は本当に太陽のような明るい笑顔を私に向けた。


『お供します、朱子様』


『ん?お前はここで降りろ『百合』』


そう言った彼女は表情を消した。

本音で言えば、一緒に逝くのは即断即決できるほど甘い話ではない。

でも、彼女だけが汚濁を飲んで、一人で背負おうとするのが、それ以上に許せなかった。


『嫌ですわ。貴女のワガママで私はここにいるのです。ならば、最期は私のワガママでここに居続けますわ』


『行く先は地獄だぞ?』


『もっと地獄を見ました。

それに――本当の地獄は自分が死ぬことよりも、仲間が死ぬことですわ』


そう言って私も笑った。

ええ――自分が死ぬよりね、仲間が、友が、死ぬ方が何千倍も辛いわ。

だから――。


『頑固だな』


『貴女ほどではありませんわ』


『……一つ、頼まれてくれないか?』


『何なりと』


『成哉を……』


『彼は強いので、問題ないでしょう』


『だが……『協力者』たちは成哉を殺しに行かない私を怪しむだろう』


『協力者』と彼女は言うけれども、現実はこの国に不満を持つ不穏分子。


両親の不義の子。

弟に居場所を奪われた姉。

兄が可愛がられ、見向きもされない弟。


あげたら切りが無い不幸自慢のオンパレード。

本当の不幸を味わい、足掻いた者は、みんな戦場で散った。


ここに残るのは、足掻きもせずに、現状を嘆く口だけの人間ばかり。


ほとんどが冬の国の思想に染まりかけている。

実力主義――、と聞こえはいいが、そうでなければ生き残れない国だと、何故か『協力者』たちは気づかない。


だけど誰も気づいていない。

使い捨てられる未来しか見えないのに、その破滅の道に歩み始めている『協力者』たち。


努力もしないで、楽に生きようとするのが見えてくる。

訓練を嫌がり、自分を磨かず、知識も付けない。

地位が無いなら、振り向いてもらえないなら、それを覆す努力をしない。

血反吐を吐いてでも、見返す努力はしていなかった。


彼女と私がお前たちと同じ?

反吐が出る。


どれほど鍛錬したと思う?

どれほど知識を蓄えたと思う?

どれほど周りを認めさせる努力をしたと思う?


全部、彼女の隣に相応しくなるための努力をした。

彼女だって、剣だけでなく、王女に相応しい努力をした。


——努力した。だからこそ、努力できない奴が許せない。

自分の弱さを見せられている気がして。


奴らは努力もせずに、邪魔になるのが目に見えていた。

だから、全部、消し去ることを選ぶ。


──結局、私も同じ穴の狢なのにね。


『成哉には……幸せになって欲しいな』


そう言いながら泣きそうな顔をする彼女。


その未来は貴女がいなければ無理ですよ。


とは、流石に言えなかった。

喉まで出かかった言葉が喉を刺す針のように痛みを伴った。


『分かりました。守りましょう。大丈夫です。私は転移魔法を持っております。

――いざとなったら、第三騎士団の騎士たちを全て逃がせばいい』


『そうだな……できれば笠谷も……成哉の隣はああいう方がタイプだろう』


『……偲のタイプはどっちかっていうと成哉様ではありませんけどね』


そう言って笑い合う。

一つだけ言いたい言葉を飲みこんだ。

成哉様は偲を選ぶことはないですよ。だって、タイプじゃないですし。


偲との約束は守れないのだな、と小さな溜息を吐いた。

ごめんなさいね、偲。

朱子様と成哉様の結婚式であなたのドレスお披露目する約束は、守れないわ。




最期に――『蝕毒』の餌に私が成ればいいだけだ。


『なら、あのクズを騙しきろうか、『百合』』


『ええ、お供しますわ、朱子様』


もう忘れかけた母の笑顔を思い出した。




パンっと最後の空砲が鳴った。


その空砲に色はない――。

ああ、避難が終わったのだな、と空を見る。

ビュービューと強さを増した風が私結んだ髪を暴れさせる。


避難が終わった――つまり、これから我が国の最強の騎士団がこの地に来る。


第一騎士団。

秋里 綾人が率いる、わが国最強の騎士団。

あの団は秋里団長が人間兵器だけれども、それ以外も軒並み化け物。


昨夜だって、新しい副団長に彼女は追い詰められかけた。

手加減できなくて、殺しかけたらしいけど、間一髪、第二騎士団の副団長が助けたそう。


彼女が涙を浮かべて『良かった』と呟いていた。


ふと前を見た。

少しずつ、数が減った『蝕毒』はまだウネウネと動いている。

邪魔になると思った彼ら、彼女らはもう、考えることもできないものになった。


——私が彼らを見下す資格があるのか。

そんな問いは、もう遅い。

見下す資格がないなんて最初から分りきっているわ。

だからこそ、私も含めて、全部、全部、遺さないわ。


ここからが、一世一代で、最初で最後の大芝居だ。


悪党らしく、小悪党たちを全部連れて行く。

私みたいな中途半端な邪魔者を全部連れて逝けば、もう少し、この国は綺麗になるだろう。


大っ嫌いな父も、大っ嫌いな義母も、大っ嫌いな弟も、みんな消える。

――私が連れて逝くわ。


「あら、逃げられちゃったのね?凄いわ」


そう言いながら目の前で私に『憎悪』を向ける第三騎士団の騎士たちにパチパチと拍手を送る。


相手を糾弾するには、相手がどれだけ悪かったかというシナリオが必要だ。

そう、

『朱子殿下に様々な情報、武器を与えたのが冬の国の王族だった』

というシナリオが――。

気持ち悪い手付きで朱子様を汚していたあの男は、もうすぐ死ぬ。


朱子様――

あなたが平和の礎になるために悪役となるなら、共に悪役となって私が死にましょう。

でもね、万が一、私が生き残って、貴女が生き残ったら、私が全部背負います。


悪役に徹する覚悟は――決まった。


「でも、あなた達がピンチなのは変わりないわよ?」


そう言いつつ、ちらりと横の『蝕毒』を見た。


ウネウネと動くその姿。

気持ち悪いが、その元が人間だと誰が思うだろうか?


魔石になれなかった者の成れの果て。

救済にもならない、ただの残骸。

それが『蝕毒』。


ああ、馬鹿な人たち。

こんな『魔獣』になったら、人間に戻れるわけないじゃない?

あの王配気取りの男は『戻れる』なんて言ったけれどもそれは嘘よ。


『蝕毒』に寄生されて戻れるのは本物の騎士だけ。

死ぬ覚悟で戦う者は、仲間が“心臓を抉ってでも”助ける。助けられるから戻るの。

——戻れたのは強者じゃない、『助けられる資格を勝ち取った者』だけ。


さあ、仕上げよ。


「じゃあ、皆さま。最期の大掃除ですわ」


私の言葉に、周りは剣を構えた。

その中を割るように一人の女騎士が前に出てきた。

女ながらに、屈強な男たちが集まる第三騎士団で、副団長を務める女騎士。


自分のものではない、赤い血で白い軍服を染めた姿は、

彼女の方がよっぽど『真紅隊』の名に相応しい恰好をしている。


「冷泉 百合子!」


ああ、いい感じの殺気だわ。

本当に強くなったわ。


——ずっと可愛い後輩だった。今は、私を殺せる騎士だ。


「そうね――待っていたわ、偲。」


そう言って剣を構えた。



ごめんなさいね、あなたのドレスは、見届けられないわ。

でも、安心してちょうだい。

ドレスよりもとっても似合う最高の置き土産を残すわ。


平民が第三騎士団の副団長に上り詰めた栄誉を、知らしめる糧に――私がなるわ。


でも、

――ワザと負ける気は無いわ。

――全力で行くわ。

――だから、私を殺して、その地位を確実にしなさい!


胸の奥が熱い。

——怒りじゃない。懐かしさでもない。


たぶん、誇りね。


風の音が止んだ。

その瞬間、私と彼女は走り出した――。



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