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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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六十四節 赤い喜哉7


Side 朝比奈 遠澄



吉川団長の言葉で慌てるように後を追った偲さんは、真っ先にセーフゾーン内で騎士の心臓を見ていた。

俺の二個上の先輩が貫かれた場所。

底からウネウネと動く触手が湧き上がっている。


セーフゾーンには俺たちが使う『朝比奈の水』と似た治癒魔法が展開されている。

焼け石に水と思いつつも、血統魔法の治癒魔法を展開したが、結果は同じだった。


ジッと、その触手を眺める偲さんはゆっくりと、口を開いた。


「大丈夫か?意識はあるか?」


偲さんの声が、思っていたよりも動揺していなくて、苦しみながらも自分の触手を掴む騎士の手を握った。


「こ、ろして、くださっ、副、だんちょ、」


途切れ途切れの息で彼はそう懇願した。

こうなったら助かる要素がない。


偲さんが出来ないなら、俺がやるしかない、と槍を握ろうとした。

ただ、その手を隣の偲さんがぐっと握った。


「聞こえるか?まだ意識はあるか?」


偲さんの言葉に彼はコクリと頷く。


「遠澄、」


突然名を呼ばれて、隣を見た。

彼女の目は――まだ死んでいない。


「なんですか、副団長?」


「心臓をくり貫いた場合、『朝比奈の水』で再生可能か?」


いきなり言われた言葉に思わず息を呑んだ。

そんな芸当を出来る人間は、一人しか知らない。

脳裏に浮かんだのは昌澄の兄上。


母を助けるために、昌澄の兄上はそんな無茶を12歳の時にやっている。


一度瞼を閉じて、魔力を集める。

そして開いた彩眼の最高位の世界で『蝕毒』に侵された身体を見た。

黒い魔力が絡みつくのは心臓の辺りだけ。

ならば、くり貫けば、可能性はある。


俺はもう一度、瞼を閉じながら、ゆっくりと口を動かした。


「やったことはありませんが……前例はあります」


「そうか……心臓をくり貫いて、助かると思うか?」


「彩眼で見る限り、黒色の魔力が絡んでいるのは心臓だけ。

くり貫けば、可能性はあると思う、けど」


俺の言葉に覚悟を決めて剣を握った偲さんは、心臓に触れるように触手を掴む騎士に視線を向けた。


「なあ、水島」


そう言いながら偲さんは触手を生やした騎士に声を掛ける。

優しげなその声。騎士はグッと偲さんの手を握りました。


「ふく、だんちょ、とお、ずみ、やって、くれ、」


途切れ途切れの言葉で、彼はそう言った。

涙を流し続けながら、でも目に、希望の光を灯した。


「二班、水島の手足を押さえてくれ」


そう告げた瞬間、迷っていた周りの騎士たちが覚悟を決めたように彼の手足を地面に固定させます。

偲さんは手を放して、そして自分の剣を彼の心臓に向けた。

彼はニッと笑った。


「たのみ、ます、」


「必ず、助けるからな!」


俺も青い魔方陣を展開させて、全力で回復魔法を注ぎ込む。

急に、触手がバタバタと動き出した。


「ぐっ、はや、グッ」


彼が必死に言葉を紡いだ誰ともなく、彼の口に、布を噛ませる。


瞬間、偲さんは自分の剣をずぶり、と彼の心臓に突き刺した。

ゴキッと骨に当たる音。

彼の抑え込まれる腕に、足に、筋が入る。


ビチビチと暴れる触手は、まだ誰かを傷つけるほどの力はなく、服には張り付くけれども、粘液だけ残して服を傷つけることも無い。


偲さんの剣がぐるりとその触手を囲うように動いていく。

痛みからか、暴れる彼を、他の騎士たちが涙を浮かべながら手足を押さえる。


悲惨な光景に、第四騎士団から借りた治癒士の女の子は二歩ほど引いた。

そんな状態でも、治癒士の彼女はセーフゾーン内の治癒魔法を安定的に展開し続ける。


俺は水島さんだけに集中して、治癒魔法を展開する。


「もう少しだ、水島!」


「耐えろ!水島!」


周りも必死に声を掛け続ける。


偲さんの剣が、止まった。

その瞬間、彼女は剣をそのまま抜いた。

『蝕毒』らしき触手が絡みついた心臓。


俺は一気に魔力を治癒魔法に注ぎ込む。


イメージだ。

昌澄の兄上は言っていた。


心臓をイメージするんだ。

塞ぐイメージじゃない、心臓を、そして血管を全部繋げるイメージで治癒するんだ。


「生きてください、水島さんっ!」


叫びに似た俺の声。

ドクンっ、とその胸が跳ねた。


心臓が、再生した!

でも、息が戻らない!?


「息を、肺に息を送ってください!酸素が足りないんです!」


女の子の叫び声が聞こえた。

真っ先に水島さんの口から口を重ねて息を吹き込んだのは偲さんだった。


治癒魔法を展開しながら、グッと目を閉じて、目にも魔力を集める。


彩眼。


開いた世界は魔力の色と、形だけに支配される恐怖の世界。


でもこれで見た瞬間、水島さんのどこに魔力が足りないか分かる。

治癒魔法でその色のない部分を回復させていく。

血管、神経、骨、水島さんがそのまま戦えるぐらいまで戻すつもりで、一気に魔力を魔法陣に注ぎ込む。


「戻ってこい、水島!」


偲さんの声が響いた。

魔力が……めぐり始めた。

失いかけた色の場所が徐々に色が通っていく。


ゆっくりと瞼を閉じて、感情の読める世界に戻ってくる。


気を失ってはいるが、一定の動きで心臓が動いている。

思わず口元に、手を当てれば一定に、でも確実に呼吸をしている。


「せ、成功しました」


俺の言葉に、手足を押さえていた騎士たちがへなへなっと腰を抜かす。

ハッとして、偲さんが投げた彼の心臓を見れば、触手が跡形もなく消えていて、何故かビクビクと動く心臓が徐々に力がなくなるように止まっていった。


「……これで、証明された」


ポツリと呟いた偲さんの声が妙に、耳に残った。


「全員聞け!」


偲さんの声が戦場に綺麗に響き渡った。


「『蝕毒』に襲われたら、手だろうが、足だろうが、心臓だろうが、切り離せ!

必ず、遠澄と維澄が回復させる!」


なんつう無茶なことを言うんだ!?


って本当なら叫びたいのに、それより先に笑いが出てしまった。


「傷を負ったら、三秒以内に斬り落とせ!」


響いた声に、みんなの剣に握る力が戻ってくる。


「出来れば三分以内にセーフゾーンに帰って来てね!」


俺が笑いながらそう言えば、周りの色が少しずつ変化していく。身体欠損からの治癒魔法は魔力よりもイメージ力、つまりは頭が疲れるけれども、偲さんの声を聞いたら、何回でも出来る気がしてきた。


「一班は攻撃に集中しろ!二班、一班が負傷した時点で切り落とせ、三班は負傷者をセーフゾーンに運べ!」


偲さんの声に、絶望の黒色が吹き飛んで行く。


第三騎士団の騎士たちは黄色を浮かべる。

――信頼。信用。

俺や維澄の能力と、偲さんの頭脳を信じている。


そして、吉川団長が冷泉 百合子なんかに負けないとも信じている。


この人、本当に凄いや。

戦うのを迷っていた騎士たちが、一気に戦意を取り戻した。


「仲間が腕を負傷したら、その腕を切ってセーフゾーンに帰ってこい!

足でも、心臓でも!ただ、頭は絶対に食らうな!」


ああ、マジでこの人、女神だわ。

本当の戦女神。


昔、父が母のことをそう言ったのを――たった今、思い出した。


「全員、攻勢に出ろ!」


第三騎士団の騎士たちは雄叫びを上げながら団長と維澄の前にいる人の形をした『蝕毒』に斬りかかりに行った。


「そう言う訳だ、遠澄。ここは任せるぞ!」


ニッと笑いながら偲さんも戦場に駆けだしていく。


「やっべ……惚れそう」


「分かります、かっこよすぎです」


隣から響いた声に、思わず視線を下に向けた。小柄な第四騎士団から借りた治癒士の女の子。

――確か、汐治癒士。


「だよね~、副団長、やばいわ」


「あれで女性なんですからびっくりですよね!」


思わぬ言葉に面食らって隣を見れば、まるで憧れの人を見る目で、その子は偲さんを見ていた。俺の視線に気が付いたのか、彼女は俺を見上げてきた。


「えっと、何か?」


「いや、偲さんが『女性』って知っているんだ~って?」


「あ、っ……な、内緒なのは知っているんですけど、不可抗力で、治療しまして」


「ああ、治癒士だもんね~」


「だ、大丈夫です!惚れているって言っても、憧れの存在で、恋とかじゃないです!あとタイプなのはどっちかっていうと朝比奈副団長の方です!」


「へえ、昌澄の兄上ね。兄上の方じゃないの珍しいな」


真っ赤になりながら凄い告白したな、この子。

兄上の方が王子様っぽいから万人受けするけど、昌澄の兄上はハイスペックだけどちょっと変人ぽいから、どっちかっていうと蔵人受けだからな~

なんて思いつつ前を見た。


剣をふるいながら、吉川団長と偲さんが冷泉 百合子に突っ込んでいく。

維澄が二人の邪魔をさせないように周りの『蝕毒』を次々に斬りつけていく。


もう一度、目を閉じて『彩眼』の本領発揮をする世界を見る。


見えるのは『蝕毒』に侵された騎士。


その真っ黒い魔力が全身に回っているのが見えるが、その中心は心臓。

つまりは、心臓に絡みついているのだろう。


ただ、心臓を刺したところでは終わらなそうだ。


斬るだけじゃダメだ。

分離……。


そこでハッとした。


さっき、偲さんが分離させた水島さんの心臓をそのまま見た。


見えるのはまるっきり色のない心臓。


つまり、心臓から完全に切り離せれば、『蝕毒』は生きられない?

こっちの魔力の色だけの世界で判別できるのは家族だけ。

だったらっ!と、この状態でしっかりと判別できる唯一の人間を見た。


「維澄!『蝕毒』に浸食された兵士の心臓をくり貫いてみて!」


大声で叫んだ瞬間、「なんつう無謀なこと言うんだよ!?」と泣き言を言いつつも、維澄が剣で地面に触手を出す騎士を固定し、剣を心臓に突き刺している。

偲さんがやったようにゴリゴリと嫌な音を立てながら心臓をくり貫いて、分離させた。


その心臓を投げた瞬間、その触手の黒が、シュルシュルと消えていき、『蝕毒』が消えた。


目を閉じて彩眼の世界から戻ってきた。


「間違いない!心臓をくり貫けば、『蝕毒』は消える!みんな、心臓をくり貫いて!」


「な、なんということを……。」


隣でドン引きした声が聞こえたけど、そこは笑って誤魔化した。


本領発揮したように第三騎士団の騎士たち連携を取り始めた。


数人がかりで、剣で地面に騎士を固定して、心臓をくり貫く。


負傷した人間の腕や足を切り落として、ここまで運ぶ。


ゴリっという骨を切る音に治癒士の彼女は「ひっ!?」と小さな悲鳴を上げる。


「う、うわあ」


隣の治癒士の彼女はガタガタ震えながらも、治癒魔法を展開し続けた。


俺も同じように治癒魔法を展開する。


「あれ、俺生きて、る」


急に響いた声で、水島さんが意識を取り戻したのに気が付いた。


ただ、その口にべったりと着いた血を見て、

そう言えばさっき、偲さんが人工呼吸、迷わずやったな、

なんて思い出した。


――思いっきりキスじゃん。


キョトンとする水島さんを見たら、何故か無性に腹が立った。




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