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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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六十節 赤い喜哉3


ああ、目の前が真っ白です。

あれ、私何していたのでしたっけ?

さっきまで喜哉の元領主の屋敷で肝試ししていたら、

光さんの従姉さんこと『澪』さんを見つけて、死に掛けから蘇生させて……。


あれ、それからどうしたのでしたっけ?

真っ白になる直前、鼓膜を破るような爆音と、肺の空気を全部かき混ぜられるような衝撃だけは覚えている。


『ギョエエエエエエエ!』


あ、聞き覚えがあるモーニングコールですね。


なんて言いたいところですが、どうやら私は埋まっているみたいです。

隙間はたくさんありますが、どうやら瓦礫に飲まれた状態みたいです。

身体を全く動かすことが出来ず、手首から上の右手だけが身動き取れるようです。

ついでに言えばけっこう息苦しいです、胸圧迫されているような気がします。


このままですと、生き埋めor 踏みつぶされるかの未来が見える気がしますが!?


なんて、瓦礫の中に埋もれかけの私は流石にそんなことを言う余裕はありません。

とにかく、出る方法を考えなければ、と思った瞬間、手首を温かい感覚が包み込みました。


「えっと大丈夫?」


ガシャガシャっと瓦礫の中から腕を引っ張られ、出た先で、同じように砂まみれの昆明と、澪さんがいらっしゃいました。

私の方が、背も高いはずなのに、澪さんが片手で私の手頸を掴んで瓦礫から引き揚げてくださったようです。

あの、私、成人男性で、兄弟の中では一番ヒョロいにしたって……片手で上がる重さではないと思うのですが?

しかも瓦礫の中からですから、かなり、重いと思うのですが?


あと、澪さん、後ろの昆明も同じように救出したのですかね?


昆明が両膝を揃えてお姉さん座りで乙女の顔をしております。

澪さんは既婚ですよ?


「ところでさ、アレ、何?」


澪さんが上を見ながら声を掛けてきました。


わああ、とってもいい青空。

この感じ、幽霊屋敷吹き飛んでいませんかね?


あと綺麗な青空にめちゃくちゃに合わない、ウネウネ内臓物体。

生臭そうなユッケ・ギガ盛の姿が目の前に広がっております。


ええ、分かっていますよ、どう見ても『蝕毒』ですね。

王都で見たサイズとほぼ同じ大きさです。


どうやら地上までは出ておりませんが、屋敷全体が崩れて、この地下室に瓦礫が流れ込んだようです。


崩れた屋敷の壁と柱が、三階建てほどの高さで円形に積み上がり、

その底、井戸の底のような場所に『蝕毒』と私たち三人が取り残されている。


コロッセオですか!?

と叫びたくなり程、遮蔽物がない状態で『蝕毒』と対面しております。

『蝕毒』はその巨体をウネウネと身体を変形させて地上に出ようとしました。


「昆明!」


思わず叫んだ瞬間、昆明は結界魔法を展開しました。

昆明の結界に弾かれて、瓦礫の上に戻ってきましたが、それによって私たちのことを認識したようです。


瞬間にパンパンパンと三回の空砲が響きました。

見上げた空には昆明の黄色味のある結界と、黄色い発煙筒。


「やばい、まだ避難完了していないなの!?」


昆明の声に私も思わず、ごくりと喉を鳴らしました。

黄色の発煙筒は『残り二十分』を意味します。

少なくとも、あと二十分はこの『蝕毒』をこの結界の外に出すわけには行きません。


「えっと、理解できないんだけど、アレ、『魔獣』?」


澪さんが視線を逸らさずにそう尋ねてきました。


「はい、我が国では『蝕毒』と名称しました、『魔獣』と思われるものです」


私も答えながら、すぐ立ち上がりながら、胸ポケットからポーションを出して、一気に煽りました。

魔力回復ポーション。

まだ本日二本目なので問題はないです。

私の身体の許容領としては五本迄飲めます。

が、魔力回復ポーションはお酒と同じで、飲み過ぎれば頭が回らなくなります。

酩酊する前に耐えられるのは……あと一本が限界です。


基本的に攻撃型ではない私と昆明で果たして凌げるか。


「ねえ、次男くん」


「なんでしょう?あと昌澄でよいです」


「オッケー、じゃあ昌澄。今、危機的状況?」


ゆったりとした口調でそう聞かれますが、彼女の視線が『蝕毒』からそれることはありません。

ふと、光さんが自分よりも澪さんの方が強いと言っていたのを思い出します。


彼女が浮かべた色が青紫で、心配してくれて聞いているのが分かりました。


「ええ、危機的状況です。あの『蝕毒』は無差別に都市を破壊します。

しかも人や生き物を喰らって増殖します。死体であろうとも取り込みます。

先程空砲が聞こえたかと思いますが、まだ喜哉の非戦闘員の避難が終わっていないようです」


「なるほど、つまりは外にはコイツにとっての餌がいっぱいってことね」


そう悩んだ彼女がチラッと私の腰に帯剣している愛剣を見ました。

ええ、何となく、その視線が意味することを理解してしまうような気がしております。


「君って魔法使いだよね?」


「ええ、そうです」


『ギョエエエエエエエ!』


澪さんの言葉に頷いた瞬間、『蝕毒』の触手が私たちに向かって叩きつけられます。

昆明が結界魔法を貼ろうとした瞬間、それよりも早く、黒い髪が前を走り抜けました。


あ、この光景、見たことあります。


『ギョアアアアア!?』


苦しむような『蝕毒』の奇声。

すぐ目の前に振り下ろされた触手が瓦礫の地面に落ちておりました。


「おお、いい剣だねコレ!」


何でしょう、既視感が……。


「昌澄……お前の剣って、なんかそういう運命なのか?」


昆明の言葉に思わず「そうであって欲しくないのですが」と呟きました。

トンっと、戻ってきた澪さんが手に持っているのは、私の愛剣です。


「昌澄!ちょっと貸してもらうよ?」


「え、ええ、どうぞ」


私の愛剣さん。良かったですね、最高の剣士に使ってもらえて。

ええ、私では宝の持ち腐れです。

二度目ですが、私の愛剣さん、頑張ってください。


「それにしてもいい剣だね!こんな場所じゃなかったら三時間は眺められるよ!

あ、でも光が好きそうな剣だな。コレ、魔力纏わせることが出来るでしょう?」


そう言いながら澪さんがバチバチっと音を立てながら剣に魔力を組み込んでいきます。

濃い黄色の魔力が付与されたその剣……『雷』の魔法のようです。


「とりあえずアレ、食い止めればいいってことだよね?」


「理解が早くて助かります、澪さん」


「倒す方法ってあるの?」


「前に倒したものと同じなら核があるタイプの『魔獣』です」


「なるほど。倒したときはどうやって?」


「光さんが『闇の魔法』で核を剥き出しにし、我が国の第一騎士団と第二騎士団の団長が魔法で熱して、冷やしました!」


「意味わかんないけど、とりあえず核剥き出しにして壊せばいいってことね!」


「そんな感じです!」


私と澪さんの会話に「そんな感じって」と絶句する昆明ですが、三人しかいない状態。

この状態で戦うとなると……。


「ついでに聞くけど二人とも、アレ……えっと『蝕毒』?の懐まで斬り込める?」


澪さんの質問に私と昆明は見合ってしまいました。


「すみません、魔法で後方支援型の副団長です」と答えた私と、

「すみません、結界魔法を得意とする更に後方支援型の王子です」と答える昆明。


「……つまり、両方とも後方支援型」


「「はい」」


「前衛、私オンリー?」


「「はい」」


「バランス悪っ!?」


ええ、私も思いますし、昆明も思っているでしょう。

すみません、剣は下手では無いのですが、実践レベル、ついでに言うと『蝕毒』が相手では私は即死ですね。

昆明も……剣に関しては私よりも……。


「逆に身体は問題ありませんか?

言っては失礼ですが、貴女先ほど死に掛けでしたからね!?」


「あ~、やっぱり死に掛けていたの?でも大丈夫。

この程度に後れを取る私じゃないわ」


声に柔らかさが一切無くなりました。

彩眼で見た彼女の色は、濁りのない深い青と鮮やかな黄色――自分に対する圧倒的な自信と静かな闘志。

つまりは本当に問題が無いのでしょう。


彩眼で見れば、魔力の流れは驚くほど滑らかで、私が心配しているだけで、

彼女の身体はすでに最高の状態まで戻っている。


魔力枯渇寸前まで頑張って回復させて良かったと今、心の底から思っております。


私の愛剣を握った彼女が真っすぐに見たのは『蝕毒』。


どうやら、王都で見た個体よりも触手が多く見えます。

ただ、一つ一つが細く、前の個体よりも素早さがあるように見えます。


「解析したいので時間稼いでもらえますか?」


静かな、昆明の声が響きました。そう言いつつも、昆明は解析を始めております。


「解析?」


澪さんの声に昆明が『蝕毒』を凝視したまま口を開きました。


「あれだけの巨体です、多分、魔力の供給源があると思うんで……お願いできますか、『澪』さん?」


昆明は解析をしたままに澪さんにそう言いました。


「なるほど、分かった。まかせて『昆明』。

なるべく私に注意を向けさせる。昌澄は出来る範囲で触手を減らしてね!」


そう言った澪さんは剣をぐっと握り直しました。


瞬間、『蝕毒』の触手が一気にこちらに飛んできました。

目にもとまらぬ速さで、澪さんは触手を回避しながら『蝕毒』へ斬り込みます。


彼女が剣を振るうたびに、雷光が残像のように軌跡を描いていく。


雷を付与された剣で、地面を叩きつけに来る触手を切り落とし、錆の匂いを充満させていく。


咄嗟に彼女の目の前に三段分の結界魔法を展開させました。


意図を理解したのか、タン、タン、タン、と駆け上がった澪さんは宙に飛び上がり、くるりと身体を反転させました。


そして巨大な胴体の脳天から剣を突き刺しました。


バチバチバチっ!と雷をその巨体に注ぎ込みます。


『ギョアアアアアアアアア!』


絶叫のような声が響き、そしてまた更に触手を鞭のように四方八方に振り回します。


脳天の澪さんを振り落とそうと頭を振るように動きますが、澪さんの剣も、魔法も緩むことはありません。


しかし――あの触手、邪魔ですね。


バン、バンッと触手を振り回す『蝕毒』をジッと見つめました。


水魔法を展開して、細く、細く、でも切れ味の鋭い糸のようなものを生成します。


薙いでくる触手を『待つ』ように糸を貼れば、

振り回してきた触手が、一気にサイコロ状に切り刻まれました。

サイコロというよりはミンチ肉ですかね?


「あ、やっぱりできましたね」


「やっぱりできましたね!じゃないからな!?何しちゃてんの!?」


昆明が叫んできましたが……そう言えば昆明もユッケ好きでしたね!

旅は道連れ世は情け、お前も一緒に苦しみましょう!


「えっとユッケ・ギガ盛をミンチ肉に変えました!」


「やめろ!?ユッケ食えなくなるだろう!?俺好物だぞ!?」


「ええ、私も好物です!」


「知っとるわ!」


「真面目に言えば水で切るウォーターカッターってあるじゃないですか、あの原理です」


「なんで魔道具を戦闘で再現してんだよお前……」


ゲンナリしたような声で昆明が溜息迄吐きましたが、昆明はそう言いつつも解析を続けております。

思ったよりも昆明の魔力が減っているのを見るに、まだ相手の魔力供給源が見つからないのでしょう。

あれだけ複雑で巨大な魔力の塊を、動きながら分解して読むのは本来なら数人がかりの仕事です。

昆明は、それをたったひとりでやろうとしているのです。


一気に触手を失った『蝕毒』が後ろに後退しました。

澪さんが斬り込もうとした瞬間、嫌な予感というものがしてきました。


「っ退いてください、澪さん!」


私が叫ぶよりも早く、澪さんは私たちのところまで後退しました。


「なんか、めっちゃ嫌な予感がする」


澪さんの言葉に私も、昆明も、頷きます。


「ヤバい、ヤバい、『蝕毒』の魔力量が跳ねあがった!

……さっきまでの倍どころじゃない、爆発寸前の釜みたいだ!」


昆明の絶叫、ほぼ同時に『蝕毒』がボコボコと身体から沸騰するように動き出しました。

何度も、何か所も、ボコボコっと身体を揺らした。


今までにない動きで、何かがおかしいと思った瞬間、赤い光がキラッと光り、ソレが二つに割れる。

更に赤い光りが四つ、八つとどんどん分裂していく。


あの赤い光は核が放っていた光。

それを理解した瞬間、嫌な予感というも脳裏をよぎった。


気付けば赤い光の数が四十を超えた。


ボコボコとした丸が『蝕毒』の中から弾け飛んだ瞬間――。


人の胴ほどの大きさの塊が、ぬるりと這い出てきた。

その塊が心臓のように脈打ちながら、表面から短い触手を生やし始める。

肉塊同士が擦れ合うたび、ぬらぬらと赤い膜が伸びては千切れ、瓦礫に張り付いていく。


ウネウネと触手を伸ばす新たな『蝕毒』が四十体ほど起き上がりました。


「分裂するの!?」


澪さんの言葉に私も、昆明も絶句するしかありません。

背中を冷たい汗が伝うのが分かりました。


パンパンっと二回の空砲。空には赤い発煙筒。

空に咲いた赤は、『避難完了まで残り十分』の合図。


非戦闘員の避難完了まで残り十分。


この数が結界を越えて散らばった瞬間――

喜哉は食い尽くされ血の海が広がるだろう。


……それだけは、絶対にさせない。


三本目のポーション手に握りました。

ジワリと汗のを感じる手で、私はその瓶を見ます。

――飲むべきか。


自分の思考を信じるべきか、自分の魔力を信じるべきか、私は判断できませんでした。





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