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彩眼の次男は今日も巻き込まれる。~敵国副師団長は兄の嫁になりました~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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五十七節 深紅のスカーフ



Side ??


ヒュンっと一陣の風が吹き抜けた。


喜哉は山の間に出来た平地に建てられた国境防衛の要所。

故に、喜哉を見下ろせる高台が存在する。


「首尾はいかがかな?我が『女王陛下』?」


ねっとりと、纏わりつくような甘さを含んだ男の声に、ちらりと視線を横に向けた。


「まずまず、と言ったところだな」


静かに返したところで、隣の男は笑った。

冬の国の皇族たる証拠である青紫の髪と、深海のような暗い青の目を持つ男。


その男は冬の国の黒ではなく、春の国の白を纏っていた。


酷く、春の軍服が似合わない男だ。

わざわざ白を着るのは私の夫、『王配』気取りなのだろう。


こんな男が冬の皇位継承第三位で、軍事で二番目の権力を握っているというのだから

……かの国は苦労するだろうな。


「そうですか。貴女の才能ならば、この国をすぐに手中に入れるでしょうな」


ニヤッと笑うこの男は私の隣に立つ。

するりと抱き寄せられるその手が、ぞわりと肌を逆立てるほど気持ち悪い。


「貴女ほど高貴な血筋はおりません。

貴女と私、二つの血が混ざりあえば、それこそ最高の血統だ」


ニヤリと笑う男に内心では『よく言う』と吐き捨ててしまいそうになる。

でもその軽蔑の言葉を飲みこんで、ニコリと、『彼が望むように』笑いかけた。


「婚約者殿はどうするおつもりで?」


「光?あんな下賤な血混じりと交わるだけで吐き気がする」


言い切ったことに思わず笑いそうになった。


彼の婚約者――『一条 光』は春の国でも高貴な血を持つ姫君。

それを知りもせずに下賤というこの男の短慮具合に笑いそうになった。


「ああ、でもアイツ。身体だけは良さそうだったからな……まあ、味見程度に取っておくのはいいかもしれないですね」


ずるり、と舌で唇を濡らす様子が、まるで飢えた犬のようで、滑稽だった。


「おや、婚姻前から浮気宣言かい?」


「アレは浮気ではありませんよ。貴女様が高貴な血筋をその腹に宿し、産み落とすまでの代わりです。

──いわば奴隷のようなものです。」


悪びれもせずこの男はもう手に負えないクズだとしか言いようがない。


「奴隷、ね?」


「ええ、ついでに子供も産ませられれば御の字ですね。」


男は悪びれもせずにクツクツと笑う。


「何せ光は『一条の闇』を持っている。

あの腹に私の子が根付けば価値が生まれ、産めば役割を終えて殺せばいい。

奴隷など、その程度ですよ」


本当に哀れな男だ。

そんな未来が来ることがないと思ってもいなようで――。


哀れで、滑稽で、扱いやすい愚者。

私の何も見ていない。

『一条 光』の本当の価値も見ていない。


「ふふっ、楽しみですね」


私の呟いた言葉に男は私を抱きしめながら弄るように手を滑らせる。

まるで娼婦でも相手にするかのように、剣をほとんど握っていないと分かる手が、べたべたと私の身体を確かめていく。


「ふふっ、すみません朱子様。貴女の美しさに勝るものはありませんよ」


「私は……美しさだけか?」


「いいえ、その頭脳、戦闘力、思考、全てが『女王』に相応しい」


そう言いながら私の手を取り、そのまま甲に唇を落とす。

この男は、本当に馬鹿だな、とくすりと笑う。


「おうあ、朱子様。妙に嬉しそうだな?」


「ふふっ、この日を待って耐え忍んだのだから、嬉しいに決まっているだろう?」


ああ、吐き気がする。

でも、あと少しだ。

あと少しの──我慢だ。


「さて、始めようか」


その瞬間、ドーンという爆音が響き渡った。

視界で見えるのは燃え上がる幽霊屋敷のような、元領主の邸宅。


これで、証拠は燃えてなくなる。

――すべては、灰だ。


あの気色悪い施設も、あの忌々しいほど犠牲を払った研究も、あの夫に愛されている『女』も。


燃えなかったとしても『アレ』に食われるだろう。

『アレ』は死人であろうとも食らい、そして養分にする。


そうして、私の役に立つ――武器になる。


「スペアのスペア……しかも女。」


王家に第三子として生まれた。

待ちに待った女の子、と喜ばれた。


でも私はドレスよりも剣が好きだった。


ドレスよりも剣で自分を証明した。

戦場で白の軍服を真紅に染める戦乙女。

誰が呼んだか、私の指揮する部隊は『真紅隊』と称するようになった。


──そんな私を誰もが嘲った。


『政略にも使えぬ女』


『強くとも、所詮は女』


『他国との亀裂しか産まぬ石女』



女ということが、私を苦しめ続ける。

誰も、私を認めない。



「でも、私は──誰よりも優秀だ」



私の声は喜哉から湧き上がる悲鳴にかき消された。



「私は奪われるだけの王女ではない。

今、この時より私は──奪う側に立つ。」


天翔宮 朱子。

国王の第三子にして、唯一の王女。


女というだけで、奪われ続けた皇族であり、

スペアにすらなれぬ――女。


『せめて、男であれば』

――その言葉自体が間違っていることを今日、証明する。


「私は――この国で初めての『女王』になる」


私の言葉を聞いた同胞たちがザッと膝真づいた。

チラリと後ろを向けば、右手で左胸に手を当て、心臓を捧げる騎士の礼。


「どこまでもお供します、『女王陛下』」


一番、付き合いの長い侍女であった女騎士の声が耳に届いた。


絡みつくような男の腕から逃げて、喜哉から鳴り響く悲鳴を胸で感じるように、崖の先端で両手を広げる。

そして腰に帯剣する剣を抜いた。


――唯一、両親が私に送ったものだ。

我が国の『国宝』、強者の証。


太陽に反射した剣先を喜哉の中に向ける。


私の背に揃うのは私の信奉者。

私の手を取った、傷だらけの強者たちだ。


彼ら、彼女らはまるで『血』を象徴するような、真紅のスカーフを首に巻き付けている。


弟が生まれて跡取りでなくなった姉。

兄可愛さに放置された弟。

政略で結ばれた夫に強制され、虐待された妻。

父の不貞によって生まれ、義母に虐げられた息子。

母の不貞によって生まれ、実の父と思てっていた父に見られなかった娘。

言い出したらきりがないほどの不条理が、ここには煮詰まっていた。


不条理に生きながらも、強く立った多くの同胞たちは首のスカーフを風に靡かせる。

皆が皆、痛みを抱えながらも、私と共に生きることを選んでくれた同胞たちだ。


その真紅は首を掻っ切られるためか、首を掻っ切る為か――。


従うのは――赤の女王、ただ一人。


弟が生まれただけで愛されなくなる姉を、

兄が居るだけで愛されなくなる弟を、

政略で強制される女を、

不義で生まれた子たちを、


彼ら、彼女らが苦しまない世界を、私は作る。


「この不条理に終止符を打つ」


私の声を待つかのように風が止んだ。

誰もが私の言葉を待って、目の前の歳を見下ろす。


「国盗りを――始めよう」


その瞬間、真紅のスカーフの集団は一気に消えた。

ほぼ同時に、目下の喜哉にはいくつのも転移魔法陣が見える。


この時より……春の国は大きく揺れる。




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