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彩眼の次男は今日も巻き込まれる。~敵国副師団長は兄の嫁になりました~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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五十六節 地下施設4


ぱち、ぱちと瞼を動かす彼女は茫然としたように私の顔を見ました。

状況を確認するように、私の顔から、昆明へと視線を動かし、最後に、私が握りっぱなしになっていた手を見ました。


「あの、」


擦れてはいますが、思っていたよりも凛とした高めの声が響きました。


「あ、はい」


何故か私も戸惑ったような声が出てしまいました。


「どういう、状況か、理解しきれないんだけど、私、既婚だよ?」


いきなり言われた言葉にびっくりして、固まってしまいました。

ぱちくり、ぱちくり、と瞼を瞬かせる彼女に、同じように私も瞬きが増えます。


というか、戦場でお会いしました『篠宮 成継』を思い出してしまいました。

ついでに、彼女の手に握りっぱなしのネックレスに視線が落ちます。


「え、っと、存じ上げて、おります?」


「え?」


丁寧に返そうとしたのですが、意味の分からない言葉遣いになってしまいました。


「……それにしても、身体の奥が妙に冷たいね」


紫の瞳が細まって、冗談めかすように笑いながら、どこか探るように彼女は胸元へと視線を落とした。

自分の状況というか、身体を確認しているのでしょう。


互いに良く分からない会話をしましたが、彼女が浮かべている色が紫……青に近い紫と、そこに交じり合う灰色。


困惑、と言ったところなのでしょうか?


「『篠宮 澪』さん、ですね?」


とりあえず確認の為にそう尋ねれば、戸惑ったままの彼女はコクリと頷きました。


「えっと、私は朝比奈 昌澄と申します。春の国、第二騎士団の副団長を務めております」


「朝比奈!?」


「えっと、想像されているのが父か、母か、わかりませんが、そこまでぶっ飛んだ方じゃないです」


「いやいや、副団長の次男だよね、君!?

君の事、敵だけどめちゃくちゃ知っているからね!?

ぶっ飛んでのは断トツで君だよ!?」


脊髄反射ですか?

と言いたくなるほど鮮やかに返してきた澪さんに、何故か昆明が「ぶっふっ!」と笑いだしました。


「確かに次男ですが、両親や兄に比べたら私は平凡ですよ?」


「君みたいな平凡がいるわけないでしょ!?」


叫び声に似た澪さんの言葉に「え?」と呟いてしまう私と、

「分かる、お前みたいな平凡がいてたまるか」と呟く昆明。


「って、待って、なんで君ここにいるの?

あれ、そっち、確か王子じゃない?」


混乱したように澪さんが一気に話しだしました。


「ええ、こちらは春の国の第三王子、慈光宮 昆明殿下であらせられます。」


「うわ、あの王女様の弟君かな?お姉ちゃんと違って素直そうな子だね!」


何でしょうか。

光さんが非情に落ち着かれていた方なので、何と言いますか、非常に、違和感と言いますか。


「……昌澄、この人、ウチの姉と同じ空気を感じる」


コソコソッと昆明が耳打ちをしてきます。

ええ、同じことを思いました。

ついでに言えば、光さんがあそこまで落ち着かれたのは、このような破天荒な姉が居るのが原因では?なんて口に出してしまいそうでした。


「あれ?まって、ここ『喜哉』?」


そう言いながら上半身を起こした彼女はキョロキョロと周りを確認します。

浮かび上がらせる色が、何故かオレンジで、好奇心が強い方なのだと感じました。


「ええ、喜哉です」


「ありゃ。じゃあ、やっぱり私はヘマしちゃったわけだ」


そう言いながらニヤリと口を歪ませた彼女の顔が、光さんとよく似ておりました。

そして浮かべた色がオレンジから徐々に赤色を帯びてきて、怒りが湧き上がっているのだと分かりました。


「ヘマ、ですか?」


「ふふっ、そう。一目、光を見てから帰ろうと思ったのだけど、欲かいたのが失敗だったみたいね。」


急に重みを帯びた声に、私は思わずその手をグッと握ります


「ああ、『朝比奈卿』。私は逃げる気は無いからその手は離しても問題ないよ。

そちらの『第三王子殿下』にも手出ししないと誓う。」


ニッと口を歪ませて、空気感が変わった彼女。

同時に、思い出したことがあります。


彼女――『篠宮 澪』。

いいえ、『鷹司 澪』は光さんの前の冬の国の第四師団の副師団長。

そして、光さんよりも、強い『姉弟子』。


「へえ、君、結構凄いね。咄嗟に手から魔力流して私を動けないようにしている」


酷く冷静に、澪さんは私が行っていることを口にします。

彼女の言う通り、身体の痺れを全身に回す魔法を彼女に付与しています。


……兄上に教えて頂きました正座の痺れを直すのに失敗したアレです。


「なんか身体じゅう痛いんだけど?」


「痺れはしますが、身体に影響があるタイプではありません」


「なんか正座を長時間させられている気分だよ」


そう言いながら笑い続ける彼女に、少しうすら寒さを感じました。

この魔法は身体を痺れさせはしますが、動こうと思えば動けます。


ただ、その「一瞬」の判断を、必ず遅らせられる。

その間に、私と昆明が転移できればよいのです。


「すみません。話しが終わるまで、このままでよろしいですか?

私は臣下です故、昆明殿下を肉の盾になろうとも守らねばならない身ですので」


「ああ、それならこの状態を甘んじて受け入れるよ『朝比奈卿』」


私の言葉に返事をする彼女の身体はじわじわとする痺れが巡っていることでしょう。

ですが、安心できるまでは気が抜けないと思いました。


この方、正直にいますがかなりお強い気がします。

剣術勝負となったら、私は敵う相手ではなさそうです。


「ありがとうございます」


ただ、彼女が抵抗せずに、話を聞く姿勢だったので、お礼は言いました。


「なぜ、こちらにいらっしゃるのかお分かりになりますか?」


「う~ん、その質問は『予測』を聞きたいの?それとも私が見た範囲の『真実』?」


チラッと横を見れば、昆明がコクリと頷きました。


つまりは、私に『思うとおりにやれ』という事です。


「では先に『真実』をお聞かせ願えますか?」


「なるほど……どこから話せばいいのかな?」


「では、何故、春の国へ?」


「『妹』の安否を確認するため」


「その『妹』とは『一条 光』と考えてよろしいですか?」


私の言葉に彼女は紫の目を大きく見開いて、そして鮮やかな緑色を浮かべた。


「へえ、光がそこまで喋ったの?なるほど、君は信頼に値するってことだね――

ふふっ、面白い」


ニヤッと笑う澪さんの空気は、どこか光さんと似ているような気がしました。


「その通り。『妹』……正しくは『従妹』の無事を確認しにきた」


「連れ戻すために、ですか?」


「まさか!連れ帰ったら、『戦争』が終わらないじゃないか!」


そう言い放った彼女はスッと紫の瞳を真剣なものに変えます。

そして浮かべた色は暗い深海のような青。


悲しみ――

ですが、それらを飲みこむ軍人としての覚悟が滲んでいる。


「妹可愛さに、国を危険には晒せないしね……無事を確認したら帰るつもりだった」


「帰らなかった理由は?」


「訂正して欲しいな。『帰らなかった』ではなく、『帰れなかった』だ」


強い視線で私を見てくる彼女は燃え上がるような赤を浮かべました。

――つまり、強い怒り。


「何故、『帰らなかった』のですか?」


「まさか敵国で我が国の将校を見るとは思わないだろう?

――しかも、それが『妹』の婚約者だ。追わない訳には行かない」


澪さんの言葉に息を呑みました。


「光さんの、婚約者」


そこでハッとしました。


この地下室に続く階段を隠していた魔法陣は、光さんは見覚えがあるようでした。


そして光さんの口は確かに動いていた。


『ほんとうに……あんなのが私の婚約者とはね』


「あれ?光の婚約者についても知っていたの?

あんなクズの事、光が自分から話すことはないよね。

――ってことは、アイツが何かやらかした?」


ニヤッと笑う澪さんが浮かべた色は暗雲のような黒と、稲妻のような赤。

怒りで浮かべる色が、光さんと同じでした。

そして、光さんの『婚約者』に対しての憎悪とも呼べそうな感情を浮かび上がらせている。


「……この場所の隠し階段の魔法陣を見た光さんが呟かれていたのを聞いただけです」


「この場所……アイツもこの件に噛んでいるってことか。」


「お尋ねしてよろしいですか?」


「答えられる範囲ならね」


「光さんの婚約者は……そちらの国では要人ですか?」


「ありゃ、そっちは知らないか……」


そう言った澪さんはわざとらしく「はー」と息を吐きました。


「光の婚約者は皇弟……皇帝陛下の弟の息子。

つまりは皇族で、皇位継承権第三位になる『久豆則(くずのり)殿下』。」


その声には、嫌悪と、諦めと、それでも消えない怒りが混ざっていた。


私は思わぬ言葉に息を飲みこんでしまいました。

逆に澪さんは忌々しそうに顔を歪めます。


「光を大事にしないあの男が光の婚約者なんて反吐が出る。」


「……『娼婦の子』と呼ぶと、聞いております」


「まだ優しいね!もっと酷い言葉を投げかけていたさ!

でもね、『鷹司』も『一条』も、皇帝陛下と皇弟殿下の命令には逆らえない!

あの子を守ることは誰にもできない!」


湧き上がるような赤は更に色を濃くし、稲妻が次々に走っていく。

それほど、光さんが大事なのだと、色を見て感じます。


彼女は、悔しいのでしょう。

光さんを守れないのが。


「だから、あの子自身が、自分を守れるように鍛えるしかなかった!」


ギリッと奥歯を噛み締めるような彼女は、そこで「ふー」と自分を落ち着かせるように深呼吸をした。

そして赤が少しずつ和らぎ、オレンジに近いぐらいの赤へと色を変えた。


「アイツの父親……皇弟殿下は軍事においては我が国のトップ。

何れはアイツが継ぐから、第一皇子と二人で好き放題やっているからね。」


「好き、放題ですか?」


「ふっ、気に入った女なら婚約者がいようが手を付け。

気に入らない男がいれば周りに嬲り殺させる。

もう皇帝と将軍になったつもりの暴君二人だよ」


呆れたように彼女が言い放った言葉。

第一皇子と聞いて、確か、光さんの親友の婚約者だったと思い出します。

そのような男が次期皇帝で、光さんの婚約者もまた皇位継承第三位の皇族。


光さんが絶望するような言葉を吐いた理由を垣間見た気がしました。


「光が気に入らないと言って、あの子の腕を折った時も、光は一度も泣かなかった。

それが余計に気に入らなかったらしくてね。あの馬鹿どもは。」


自分落ち着かせるためでしょうが、「はあ」と息を吐いた澪さんはジッと私を見ました。


「その、皇位継承第三位の方が、我が国に、居たと?」


「居たよ。しかも王都で、堂々と歩いていたよ」


「王都で、」


「光の様子を見に王都まで言ったところで見つけたもんだから探ろうとしたらこのざまだよ」


自嘲するように笑った彼女は鋭い目で、私たちを見ました。

紫の瞳は私たちをしっかりと捕らえております。


「……というか、お前たちもグルだと思っていたけど、どうも違いそうだね?」


そう言いながら、澪さんは私ではなく、昆明を見ました。


「てっきり、春の王女様とあのクズが王都で一緒に居たのだから、

国ぐるみで戦争を終わらせない気なのかと思ったよ」


彼女の言葉を、理解できずにいました。


朱子殿下と、冬の国の皇族が王都で一緒にいた?


澪さんが浮かべた色は透き通った水のような、青。


――意味することは真実。


彼女に言葉を返そうと息を吸い込んだ瞬間、妙な魔力を感じました。

地底から、低く唸るような咆哮のような振動が伝わってきます。


「それは――」


私の言葉は全てが放ち切る前に、かき消されました。


――響いた爆音。


キーンと耳を支配した音が駆け抜け、

一瞬にして視界が白に塗りつぶされます。


何が起きたのか理解できないまま、私は握った手を手放すのでした。





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