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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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五十四節 地下施設2


思わず、息を呑んだ。


「生きて、いる?」


僅かに聞こえた昆明の言葉にハッとしました。確かに生きています。恐る恐る五段ほどの階段を降り、そして鉄格子の前で中の様子を見ました。


ただ、その人物は何の色も浮かべていない。

苦しいも、悲しいも、何も感じていない。

生きている人間ならば眠っていようとも必ず彩眼で色を見ることが出来ます。

しかしこの人物は彩眼で感情がまるで見えない、まるで死人……。


生きているのに色がない――その異常さに、背筋が冷たくなります。

まるで、彼女の『中身』だけが削がれているようで。

彩眼が『何も映さない』ことが、これほど怖いとは思いませんでした。


念のため、解析魔法と気配探知の魔法を展開します。

しかし牢の中の人物以外の気配は感じられません。


罠もない……。


「昌澄、大丈夫だ。罠はない。」


昆明も同じようだったので、剣でそのまま鉄格子を切りました。


「え?」


驚いた声の昆明に「人命救助優先です」と短く言って、その人物に近づきました。そして高濃度の魔力水を注がれている口元に触れました。


「昌澄、ソレは外さない方がいい」


「え?」


「多分、ソレで生かされている。先に、『朝比奈の水』を展開させろ。」


そう言いながら私が伸ばした手をガシッと掴む昆明。


「俺がこの人に掛けられた魔法を解く。お前は生命維持に集中してくれ」


「了解、しました」


落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせながら治癒魔法を展開した。昆明は私の手から力を抜いて、その人物の首に手を触れた。


「まずはここ」


そう言って昆明がバチッと小さく魔法陣を焼き切りました。

昆明は『火の素養』を持つ魔法士でもあります。

ただ、火の威力が消え切らないように、コントロールしながら『朝比奈の水』……治癒魔法を展開します。


「……この人、無理矢理魔力を奪われている」


昆明が痛ましそうにそう言いました。

昆明が「手枷、外して上げて」と小さく言いますので、私は壁に固定された手枷を切り、その人物を床に寝かせます。


寒さなんて感じていなさそうですが、何となく着ていた上着を脱ぎまして頭をその上に置きました。


まるで陶器のような白さの肌には血の気がまるで通っていない。

ただ、閉じた睫毛のあたりだけ、何かを堪えるように微かに震えている気がした。


「酷い……。なんてことを。」


昆明はそう言いながらも魔力解析と並行して次々に魔法を解除していきます。

私が見ただけでざっと30種類の魔法……いえ、もはやこれは呪いに近いものがこの女性に掛けられています。

体中のありとあらゆる場所に魔法陣が張り付いています。


そして、何よりも目を引くのは胸に突き刺さる杭のような魔法でしょう。

それは物理的に刺さっているのではないとすぐに分かります。

刺さっている左胸の服は破けていないのですから。


彩眼で見ている範囲ですので、もしかしたら、この部屋のように巧み隠された魔法陣がまだあるかもしれません。


「どれだけ頑丈に魔法を掛けているんだ……!」


余りの状況に昆明がいらだった様子でそう言います。解除は昆明に任せて、私は彼女の手を見ました。


女性、しかも剣士でしょう。

剣を握る人間に出来るしこり。


薄っすらと、その目が開きました。


朦朧とするその色は紫――。

ドクリ、と嫌な心音が耳に届きます。

ドクドクと早鳴りする心音が自分の心臓が立てている音だと分かるまで、そう時間は要りませんでした。


この女性の色が自分の記憶にある台詞を呼び起こします。

黒髪と紫の目。


「魔力を奪い取る魔法は切った!次はこの人の意識を押さえる魔法を解く。昌澄、治癒魔法に並行して、俺の魔力も回復させてくれ!」


「了解しました」


チラリと見た昆明の額から汗が流れます。


「……昆明、もしかして」


「ああ、ぎりぎり……あと数時間でも遅かったらこの人は死んでいた。

――いや、殺す気だったんだ」


「やはり……顔に生気が無いように見えましたから」


昆明の言葉に思ったのは『やはり』という確信でした。

どう見ても心音が遠そうに見えたこの女性は明らかに魔力がなくなった『魔力欠乏症』の人間の顔色と重なりました。


「だけどほとんど時間はない。この杭が心臓に入りきったらこの人は……」


「この杭が見えなくなったら、終わりという事ですね?」


私の言葉に昆明は頷きます。

そう言っている間に杭がグルっと時計回りに食い込み、その長さが一段下がった。

一回に落ちた長さを見るに、残りはあと30分も残っていないのでしょう。


「っ!?なんだ、これ」


昆明の困惑した声に、私も息を呑みました。


昆明が解析した魔法陣。

昆明の解析魔法によって黄色い魔力に包まれた赤黒い魔方陣。


それはまるで心臓に杭撃つように円柱型に展開されている。

魔力の線が、まるで血管のように心臓へ絡みついてドクドクと赤黒い魔力を送り込んでいる。

彩眼で見える赤黒い魔力は、まるでその人の色を全て、喰らいきってしまいそうに見えた。


「呪い、ですか?」


「ああ、呪いだよ。しかも、この人の心臓……いや、名前に杭を打ったんだ」


「名前に、杭?」


昆明の言っている意味が分からずに、その禍々しい魔方陣を見ました。

杭の先端が突き刺しているのは心臓であり、そこにぐしゃぐしゃに塗りつぶされたような文字が見える。

思わずその杭に手を伸ばそうとしましたが、昆明がパシっと手首を掴んで止めます。


「魔法じゃなくて、『呪術』。禁術の一つだよ」


「禁術!?」


思わず叫んでしまいました。ギリッと忌々しいものを見るように、昆明はその魔法陣をみております。


「悪趣味な……人をただ『道具』として考える連中の最低の遊びだ」


「遊び?」


思わず呟けば、昆明が魔法陣の中心部を指さしました。そこは心臓に食い込んでいる。


「この『呪術』は人が壊れるのを観察するために作られた悪魔の魔法だよ。

名前を奪って、人格を削いで、最後に命まで持っていく。」


見たことのないほど憎悪の色を浮かべた昆明に驚いてしまいました。


禁術……聞いて名の通り『禁じられた魔術』です。


例えば、かつて一つの村ごと「忘却」させた術があったと聞きます。

誰の記憶からも村の名前が消え、地図からも消えたという童話があるのですが、これも禁術の一種だと考えられております。

要するに、多くの人間に危険を及ぼす魔法です。


ただ、禁術は無数にあるそうなので、この『呪術』はその一種という事でしょう。


「ああ、禁術。俺はこれでも王族だから、そう言ったのを知識として知っている」


昆明の言葉にハッと、先ほど連れて行かれた王宮の図書館を思い出しました。そして昆明がいざという時に、と言ったあの場所。


もしかすると、あそこは……。


「多分思っていることは正解。昌澄は悪用しないって信じているから言うけど、あそこはそう言うヤバいものが詰め込まれている。俺が知っているのは対処するため。兄上たち、姉上に何かあった時に。」


その言葉に含まれるのは『自分に何かあった時、自分以外が対応できない』ということだ。


思わず奥歯を噛み締めました。


分かっていたことですが、昆明がどれほど孤独の中に居たか思い知らされるのです。


「話を戻すけど、この呪術は名前を媒体にこの人を殺そうとしている。この人は今、自分が誰かもわからなくなっている。そうやって思考を奪われて、やがて死ぬ」


昆明の言葉に思わず息を呑んだ。


「せめて、この人の名前が分かれば……。」


グッと昆明が悔しそうに奥歯を噛み締めました。


『その女は私と同じ、『黒髪と太陽眼』を持っておりましたか?』


『いや、違うな。紫だったはずだ、瞳が。』


ふと、光さんと朱子殿下の会話が頭をよぎりました。


「黒髪と、紫の、瞳」


私の言葉に昆明も思い出したように目を丸くします。

そして、同時に思い出しました。

我が国に来て、初めて光さんが人間らしい、優しげな緑を浮かべた人物の名を……。


「この人、光さんの、従姉の――澪さんでは?」


私の言葉に、昆明は息を呑みました。

――ええ、飲むのも仕方ありません。

光さんが開示してくれた情報が正しいならば、この人は冬の国の第四師団の師団長の妻。

つまりは、この人もまた、戦火となりうる人だ。


「最低だ……。でもこの人を死なせるわけにはいかない」


昆明の言葉に私も頷きます。


「名前を取り戻させるしかない……」


「解けるのですか!?」


「彼女の名前が分かるなら、多分、解ける。」


そこまで言った昆明はジッと赤黒い魔方陣の杭を見ました。


「でも昌澄、問題が一つ」


昆明が困ったように私を見てきました。


「なにが、問題ですか?」


「……大事な事なんだけど、判別つかないっていうか」


急に自信がなさそうに昆明がゴニョゴニョと言い出します。


「何が問題なのです?」


「あの、名前間違えたら、あの、ほんと」


昆明はそこで深呼吸をした。


「この人は二度と目を覚まさない」


静かに言い放った言葉は酷く冷たく、そして鮮やかな青を浮かべた。

意味することは――真実。


いきなり言われた言葉の意味が重すぎて、吐き出しそうになるほど胃が重たくなります。

そんなことを言っている場合ではないですね。


「ですが、名前は分かっているでしょう?」


私が首を傾げながらそう言えば、昆明は「そうだけどそうじゃないんだよな」と頭を抱えます。


ふと見た彼女の胸元は、かろうじて上下している。

それも、今にも止まりそうなほど浅く、弱い。


「この『呪術』を解除するには、彼女に『名前』を取り戻してもらわないとならない。」


「『名前』を取り戻す?」


「ああ……。『正しい名前』はひとつだけ。間違えれば、その瞬間にこの呪いは完成する。」


真剣な眼差しで昆明は魔法陣を見つめます。この間も解析を続けているのが、昆眼の魔力の動きで分かります。

ですが、私としましては昆明の言いたいことの核心部が上手く掴めません。


「えっと、つまり?」


もう少し簡潔に、という意味で昆明に問いかけければ、昆明は何とも言えない顔になった。


「名前は自分の魂と直結したものだ。俺が『慈光宮 昆明』で昌澄が『朝比奈 昌澄』であるように。」


そこまで言った昆明は魔法陣を起動させる。

その起動した黄色い魔力を帯びた魔法陣が、彼女に突き刺さる杭の周りで動き出した。


まるで、杭の動きを止めるかのように……。


「……『正しい名前』で彼女を起こせなかったら、彼女は自分を見失って、魂をこの杭で破壊される。

――生きた、人形になるってことだよ」


思わず、握った手のひらに爪が食い込みそうです。


その瞬間、頭に浮かんだのは、眠ったまま生きながらえる人。

果たして、本当に生きているのか分からない、俗にいう――植物人間。

その状態の人間は、我が家の『血統魔法』ですら意識を取り戻すことはない。


その方々も今の彼女と同じように、全く色を持たなかったのを思い出しました。


『朝比奈の水』でも届かない場所に落ちる――そう断言されているようで、吐きそうになる。


でも、彼女の名は分かっている。

何故?


と、問おうとしたところで、昆明は男らしくないというか、ジッと彼女を見つめながら悩み出した。

悩んでいた昆明が覚悟を決めたように顔を上げて私を見ました。


「この人、自分のこと『鷹司 澪』と思っているかな?

それとも『篠宮 澪』なのかな?」


「あっ、」


昆明に言われて、薄く紫の瞳を見せる彼女を見た瞬間、光さんの言葉が過りました。


『ふふっ、戦場に戻るなら、今の名は名乗りたくないのでしょう。私とて、同じ気持ちになりますからね』


楽し気な声と、緑と黄色の親愛と信頼の二色を湧き上がらせた光さんの姿を思い出す。


『ええ、『鷹司 澪』は存在しません。我が国では『その名』は死んだも同然ですからね。

――存在するのは『篠宮 澪』です』


確かに……その二択は悩まざるを得ないと思いました。

澪さんって、『自分』はどちらなのでしょうか?




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