表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/60

四十五節 喜哉追跡戦2


Side 瞬木 千歳


ヒュン、と剣が私の右側を抜ける。紙一重で避けたところを、清澄様が斬り込むが、相手はその剣も避けてくるりと一回転。

光さんがその止まった先を切りつけるけれども、トンと飛んでその剣からも逃れる。


圧倒的強者。


その一言に尽きる相手だと分り切っている。

三人がかりでやっと追い込めるレベル手練れ。


私がこの中で一段落ちるのも理解している。


でも、私が加わってやっと、同格。


悔しいけど、私のレベルが落ちようとも、攻撃の手を緩めるわけにも、清澄様と光さんだけにこの切羽詰まった打ち合いを任せるわけにもいかない!


懐に入り込んで、その黒の外套の真ん中を斬り込もうとした。

瞬間、腹にミシっと鳴るような音と急激な痛みが走る。


自分が、蹴飛ばされて喜哉の城壁の外に投げ出されたのだと、理解した。

城壁の外……。

ヒュッと飲んだ息が肺の中に冷気を送り込んだ。


石積みの城壁には足場になる場所など、ない。


「千歳!」

「千歳さんっ!」


ほぼ同時に、清澄様と、光さんの声が響いた。


急に起きた浮遊感。

どんどん遠くなる月。


自分の剣を握る手が何もない空を見上げていた。


この先は……喜哉の結界。


どうなるかは、知っている。



怒涛のような記憶が流れ込んでくる。


士官学校時代……成績で綾人様と清澄様という桁違いの二人と組まされたのが不運の始まりだったかもしれない。


しょうもない事で笑いあった士官学校の同期たち。

みんなで演習後に食べたご飯、美味しかったな。


切磋琢磨というか、私と一緒に……団長にボコボコにされる第一騎士団の仲間たち。

結局、最後まで立つのは私だけだったな。


変なことに巻き込混んでくる昌澄くん。

キョトンとした顔で平然と凄いことやってくるんだよね。


いつも小さいけれども強かった背中を見せながら、柔らかく笑っていた――父。


『どんな形であれ……無事に帰ってくればいいよ』


――ごめんなさい、父上。



来るであろう衝撃に備えてグッと目を瞑った。

一瞬、まつげに触れた水は……。


「千歳さん!」


響いた声が妙にクリアに聞こえた。

途端に瞼の裏に光を感じて目を開ける。


無数の星と、煌々と輝く月と、青の魔法陣。

その魔法陣は水のような雨が降り注ぐ。


ただ、その瞬間、黒い影が闇に消えるようにヒュンと飛んで行った。


「千歳さん、飛んでください!持ちません!」


必死な昌澄くんの必死な声で、足元に結界魔法が展開しているのに気が付いた。

それを蹴り上げて登れば、次々に結界が現れる。


城壁の高さまで上り切ったところで、やっと振り返る。


喜哉の、結界にドロリと溶けたガラスのような穴が開いている。

かつて団長……綾人さんが温室ごと魔獣を焼き殺したときに、温室のガラスがこのように溶けていたのを思い出した。


何が、起きたのか理解できなかった。


でも、同時に足が急に震えた。


恐怖が……襲ってくる。


「早くこちらへ!」


必死な声で手を伸ばす昌澄くんの手を伸ばした瞬間、想像以上に強い力で城壁の上に引っ張られ、昌澄くんが倒れ込みながらも私を抱き締めていた。


普段感じたことがないけれども、やっぱり体格イイんだな、と感心しつつ、上から二人分の影が重なってきた。


「無事ですか、千歳」


清澄さまの声に頷いたけれども、ぎゅうと抱きしめられたままで身動きが取れない。


「ちょ、昌澄くん?」

「良かった……間に合って」


城壁の上で寝転んだまま抱き枕にされていて、どういう状況なのか理解が出来ない。


「何が……『追跡者』は!?」


ハッとしたようにそう叫べば、清澄様と光さんが困ったように外を見ました。


「なんと説明したらよいのでしょうか?」


「簡単に言うなら『昌澄副団長』がチート技を炸裂させたというような感じですかね?」


「とりあえず、昌澄が開けた穴から逃げたようです」


清澄様と光さんは困ったように結界があるはずの喜哉の城壁の外を見ました。


昌澄が開けた穴?と意味の分からない単語が飛んできて、更に意味が分からなくなりました。


ほんとうに、なんて?


「えっと、本当に何があったのですか?」


「正直に言うけれどもね、私も理解できていない。何をやったのか、教えてくれないかい、昌澄?」


清澄様がそう言った瞬間、抱きしめ続ける昌澄くんと目が合いました。

『彩眼』と呼ばれる瞳孔に虹を宿す目が、ジッと私を見つめて、しかも泣きそうで、なんというか複雑な気分になりました。


「結界魔法を……咄嗟に飛ばして……そのままだと焼けてしまうので……『朝比奈の水』の治癒魔法を付与させて、焼けるのを抑え込みました。」


……えっと、何言っているのかな?


と、口に出しそうになって思わず清澄様を見ました。

なんでしょう、その『仕方ないなぁ』みたいに慈愛の目で笑うの!?


今言っていること意味は分かっても、理解できませんよ!?


バッと反対側にいる光さんを見ました。

『いや、何言ってんだコイツ』ってドン引きした目で昌澄くんを見ています。


あ、うん、コレが普通ですよね!?


「と、とりあえず、離してもらえないかな?」


ぎゅうっと抱きしめれたままで、なんというか、居心地が悪いというか……。

昌澄くん、君、意外と筋肉あるのね……。

すごく、胸とか、腹とか……硬い。


あ、だめだ。

なんか急に恥ずかしくなってきた。


「昌澄くん?」


ちょっとジタバタして抜け出そうとするけど、どうにも腕の力が緩まない!?

確かに昌澄くんって兄弟の中では華奢な方だけど、君も充分ゴリラだよ!!?

ちょっと!!?



「『昌澄副団長』?さすがに年頃のお嬢さんをそんなに抱きしめたら可哀想ですよ?」


苦笑しながら光さんがそんなことを言ってくれました。私の方が歳上なはずなのに、なんだがお姉さんムーブが強いような……助かりましたけど。 そこでやっと筋張っていた腕の力が緩んで、そして私は座ったまま城壁の外を見た。「何が、起きたんですか?」


そう聞いたのは清澄様に、です。

一番理解していそうな昌澄は困ったように笑いました。


「千歳が蹴り飛ばされたあと、私と光さんは乱戦を続けるしかなかったので二人で連携して斬り合っている間に、昌澄が喜哉の結界に穴をあけて、私たちは『追跡者』を喜哉の外に逃がしてしまいました」


言われた言葉の一つ一つがパワーワード過ぎて理解出来なかった。


「え?」


思わず出てしまった間抜けな声。そしてその後に思考が追い付いてきて、一つずつ理解しようとした。


まず清澄様と光さんの乱戦。


何とかはなりそう。


ただ、清澄様には肩に切り傷が、光さんの頬には切り傷が出来てしまっていて、私の視線に気が付いたのか、清澄様が光さんの顔を見てハッとしていました。

清澄様が光さんの頬に手を当ててするりと撫でながら、青の魔法陣がその傷を塞げていく。


なんだか、絵になりますね、お二人とも。

ついでに激戦でしょうが、出来ないことはなさそうです。



次に喜哉の結界に穴を開けた?


開くの?

これに?


と、思わず城壁の外を見ます。

タイミング悪くというか、良くというか、外から飛んできた鳥らしき影が結界にぶつかって、一瞬にして火の玉になりました。


こうなるのは知っています。

なんせ、対魔獣用の結界ですし、なんならワイバーンでも撃退できるレベルだって知っています。

ただ、効率が悪いので夜は結界


「これに?」


私は思わず外壁の外を指さします。

私の動作に、清澄様と光さんが、うん、と頷きます。綺麗にそろっていました。


「穴を?」


続けた疑問に、清澄様と光さんは再度、うん、と頷きます。また綺麗にそろっていました。


「……土壇場ですけど、成功してよかったです」


座ったままの私をまた抱き枕よろしくのごとく、昌澄くんが抱きしめてきます。

……ちょっと、思っていたよりも硬い昌澄くんに何か不思議な気分になってしまうのでした。


ただ、そんな混乱状態で思ったのは……


『喜哉の結界魔法を組んだ昆明殿下……昌澄くんが穴開けたって知ったら気絶しちゃうんじゃないかな?』


なんて胃痛に苦しむ後輩である王族を思い浮かべるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ