四十二節 幽霊屋敷5
正直に言えば、兄弟の中で一番ヤバいと言われるのは解せない気持ちではありますが、私は間違いなく、兄弟最弱なのですがね。
「昌澄、物理的なことでありませんよ」
何故か兄上が私の心を読んだようにそう言います。ついでに千歳さんと光さんがウンウンと首を縦に振ります。何でしょうね、千歳さんと光さん、とっても仲良くなりましたね。
「まあ、とりあえず、上に上がろうか?」
兄上の言葉に、上に上がる為の階段代わりの結界を作れば兄上も、千歳さんも、光さんも、トン、トン、トンとその足場を飛びながら上がっていく。
一瞬、この結界魔法をそのまま移動させられないかな?と思い、上げて行けば、思たよりコントロールが効いたようで、上まで上がれました。
その瞬間に何故か猫が獲物を目で見てくる千歳さん……だけでなく、光さんも。
「兄上もたぶんできますよね!?」
なんとなくですが、その目がいたたまれなくなって兄上に問いかければ兄上はニコッと笑われました。
「出来ると考え付くは違うよ?」
えっと?兄上はいい笑顔です。あと千歳さんと光さんはウンウンと頷いています。
気にしたら負けですね、と上がり切った場所で、見事に崩れた地下室を確認します。光さんが見事なのは、多分、私の一言で、水を下に流すのを察知してくださったのでしょう。
大規模には穴が開いておりません。
そして地下室に無数に散らばるのは小さな赤い珠。ネックレスにでもなりそうなほど綺麗な球体で、煌めいていますが、間違いなく『蝕毒』の核でしょう。
しかし、割れていない。
兄上が何も言わずに頷かれたので、その核を解析して見ますがただの魔力の籠った石。
加工すれば灯りとりの魔導具になりそうな、変哲もない炎の魔石。
「……ただの、魔石に近い気がします」
「昌澄もそう見るなら間違いないだろうね」
兄上はそう言いながら核と思われる魔石を指で摘んだ。小さなソレは親指と人差し指だけでつまめる程の大きさ。
「魔石……」
兄上と同じように摘んで、ジッと見つめていた光さんは怪訝な顔をされました。
「あの、これ!?」
「どうしました千歳さん?」
あまりに切羽詰まった声でしたので脊髄反射のレベルで聞き返せば、千歳さんが手のひらに乗せた魔導具を見て驚愕してしまった。
「これって……」
千歳さんの言葉に思わず頷きます。
レンズを通して魔石に映像を書き込み、記録する魔道具。
『射影機』と呼ばれるものです。
大きさは手のひらよりも大きい程度で、このクラスなら鮮明な映像が撮られているでしょう。
千歳さんに渡されたソレは間違いなく起動した状態です。描かれた魔法陣を見れば、どうやら周りの魔力を吸い上げる形で録画し続ける半永久的な『射影機』のようです。
「……何のために?」
思わず呟いてしまいました。
言っては失礼ですが、『射影機』はとても高価です。それこそ、半永久的に使える魔法が付与されたこの魔道具は果たして金貨何千枚分になるのか、考えたら恐ろしいほど高価なものです。
それを、ここで使っている理由は?
「……この『蝕毒』の培養の様子を見るためか?」
光さんが足元に散らばる核のような魔石を拾いながらそう言いました。
「『蝕毒』が研究されていたと考えるのが普通かもしれないな。『蝕毒』の核だと思っていたこれが魔石なら、『蝕毒』は人造のものかもしれない」
光さんは魔石を拾いながら、その一つ一つを確認しているようでした。
「昌澄、魔石に魔法陣の痕跡は見えますか?」
兄上もジッと魔石を見つめながら、そう言います。私もじっと見てみますが、痕跡を正確に見ることはできません。
こういう時に双子がいれば良いのですが……何せ二人の方が彩眼の能力は高く、そして正確です。
「無理ですね。見てみましたが、痕跡は僅かに見えますが、解析できるほどのものはありません」
どうやら光さんは兄上の為に魔石を拾っていたらしく、次から次へと渡しますが、どうも成果は上がりません。
あとは……と、全員の視線が『射影機』に向きました。
「昌澄、起動できるかい?」
あ……兄上にはバレてしまっていましたか。昔、昆明と二人で、こっそり王宮に合った『射影機』を起動してどうなっているか調べた事があるのですよね……。
しかも、再現してしまって、大人たちに物凄く怒られたのを思い出してしまいました。
その時に傷をつけたのは今でもナイショの話です。
おかげで、騎士団で『射影機』を使う時には、いつも第二騎士団が指名されます。
ほぼほぼ、私の所為です。
「はい、昔、弄ったことがあるので可能かと。」
そう言いながら私は『射影機』に手を伸ばそうとしました。
その瞬間、バサッと、羽の羽ばたく音が聞こえました。
刹那――私たちの目の前の『射影機』を黒い羽根を持つ鳥が、足で掴んで飛び立った。
黒い羽根が、一つゆっくりと落ちていく。
「使い魔だ!」
真っ先に響いたのは光さんの声。
「遅かった!」
兄上が結界魔法を出入り口に貼ろうとしましたが、黒い鳥は螺旋階段の真ん中を潜り抜けるように飛び立っていく。
「『風よ、射貫け!』」
咄嗟に、千歳さんが黒鳥に向かって風魔法を矢のようにして飛ばしましたが、捕らえられません。この距離を走ったとしても追いつかない。
だとしたら――。
「兄上、光さん、結界で押し上げるので、追いかけてください!」
いうよりも早く、結界魔法で二人を上まで押し上げる。
「あ、見えていないので、辿り着いたら降りてくださいね!!」
叫びましたが、聞こえたでしょうか?
隣でジーと見てくる千歳さんが怖い気もしますが、気にせずに結界魔法を押し上げていきます。
「早いかと思いますし、兄上と光さんなら、多分、大丈夫ですよね?」
何でしょう、急に心配になってしまいました。その瞬間、ガシャン!ガラガラ!っと物凄い破壊音が聞こえてきました。
「大丈夫、です、よね?」
「分からないので、私たちも上がりましょう……昌澄くん、今度は安全運転でよろしくね?」
なんでしょう、千歳さんが呆れたような、そして吹っ切れたような笑顔で、そんなことを言います。
ええ、とりあえず、私たちも上がることにしました。




