表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/61

二十五節 王都襲来 5


Side 慈光宮 昆明


正直に言えば、次元の違う戦いにしか見えなかった。


敵国の捕虜である『一条 光』が繰り出すあの黒い魔法。

少しずつ削り取るようあの禍々しい物体――

『蝕毒』の体が小さくなっていくのが分かる。


彼女の魔法で肉片のような魔獣の身体を次々に削り取っていく。

じわじわと切り開かれていく先で、赤く光る宝石のような球体

――核が剥き出しになった。


その間も『蝕毒』は残った触手で彼女を攻撃しようと足掻き続ける。

でもそれを、『朝比奈 清澄』が結界魔法で弾き続けている。


超再生する内臓のような体と、同スピードで攻撃し続ける彼女。


その核に向かって、『秋里 綾人』が血統魔法の業火で焼ききろうとした。


こちらから見ていても分かる。


圧倒的な――火力不足。


「まずい。このままだと焼ききれない!」


綾人さんの魔力量が急激に減っている。

それ以上にヤバいのは光さんの魔力量。減り方が尋常じゃない。


ただ、その瞬間に、急激に魔力量が上がったのを感じた。

この魔力量の上がり方は自然回復じゃない。

――だとしたら、回復ポーション。


「……兄上、無茶をなさる」


静かに聞こえたのは、昌澄の声だった。


昌澄もまた、清澄さんの魔力量が急激に上がったのに気が付いたのだろう。

ちらりと盗み見た昌澄は、悔しそうな顔でその戦場を――

いや、兄の清澄さんを見ていた。


昌澄が動けない本当の理由は俺だ。


俺が展開する大規模結界は、昌澄が『朝比奈の治癒魔法』を使い続けることで補正され、安定させられて、展開できる。

昌澄が戦場に参加すれば、俺はこの結界を維持できない。


ふと、空を見上げた。


青空に描かれるのは十八個に及ぶ青色の魔法陣。

その一つ一つですら、大規模魔法の魔力が注ぎ込まれている。


「綾人!退きなさい!」


響き渡った声に、綾人さんが空を見上げた。

ニヤリと口を歪ませて、『業火』を止める。


同じように空を見上げた光さんが――ふわっと、笑った。


十八個もの魔法陣から打ち出されたのは大量の、水。


その水は炎が通った道を辿り、『蝕毒』の核まで一気に届いた。


パキッと、割れる音が俺たちのところまで響いた。


そしてド――――ンと耳を塞ぎたくなるほどの爆音と共に、熱風が俺たちの向こう側に過ぎ去っていく。


ドンッ、ジュワッ!

っと、吹き飛ばされたものが結界にぶつかり、そして焼かれる音が無数に響いた。


粉塵が過ぎ去った空に見えたのは、三人の影。


落ちていく綾人さんと光さんは身動きが取れなそうなほど、魔力量を感じられない。


近くにいる清澄さんが助けられたとしても

――綾人さんか、光さんか、どちらか一人。


「まずい!」


「昆明、綾人さんの座標を確保してください!」


咄嗟に響いた昌澄の声に、綾人さんの位置に座標確保をした。

ほぼ同時に、昌澄の転移魔法が発動した。

空中で落ちていく綾人さんをしっかりと受け止めた昌澄。


少し遅れて、昌澄の足元に、結界魔法を飛ばして足場を作った。


……お姫様抱っこ、綾人さんからしたら嫌だろうな。


視界の先で昌澄が綾人をお姫様抱っこで受け止めた様子を見ながら、

苦笑いしつつも思わず安堵の息が出てしまった。


核の残骸らしきものは四方八方に飛んだ。

『蝕毒』の姿も気配も感じなくなった。


確認してから結界の維持を解いた。

昌澄の補助無しでは、あの規模を安定させるのは難しい。

そう思うと、知らず苦笑いが漏れた。


解析・検知・判断。こういうところだけは、自分でも王族向きだと思う。


黄色みがかかった硝子のような結界は役目を終えてパラパラと崩れて消えていく。


「って、いうか。昌澄、お前も充分ハイスペックなんだよな~」


あの一瞬で判断して、綾人さんを助けに行った幼馴染様、兼相棒の姿を眺めた。


「それは、兄がアレですから、仕方ない気もしますね」


独り言のつもりで言った言葉に返事があり、びっくりしながら後ろを見た。

我が国の第一騎士団の三席・瞬木 千歳。

この人も充分ハイスペック側なんだよな~、と思いながら彼女を見た。


何とか座れるようになった瞬木先輩。

顔色の悪さは残るが、喋れるようになったようで少し安心した。


「無茶しましたね、先輩」


「……あの時計塔の中腹に、王都を守る結界の魔石があるのを知らなかったらやらなかったですよ」


呆れたようにそう言う瞬木先輩は「はー」と大きなため息を吐いた。


「魔石が、狙われた感じでした?」


「魔石が破壊されていた。それを修復する魔力が足りなかった……」


瞬木先輩の言葉に冷や水を浴びせられた気分になった。

今の言葉で先輩は時計塔の時間を巻き戻すのに、自分の生命力まで使ったというのを理解した。


ただ、もし先輩が『時間逆行』の血統魔法を使ってくれなかったら、王都は更に危機的な状態に陥っただろう。


「瞬木先輩の能力は王家の秘匿事項の一つですからね」


「その秘匿事項を易々と使わせてくる王家と上司だけどね」


そう言いつつ、苦笑いをする瞬木先輩。


「早く旦那決めてくださいよ~。先輩の能力を継ぐ子が生まれないと、我が国的に困るんで」


「必死で探しているでしょ?王家が斡旋してくれてもいいんだけど?」


そんなことを言ったら、

俺は昌澄をめちゃくちゃ推すけど?

……なんて思いつつ、とっても鈍感なこの先輩に苦笑いをした。


瞬木先輩を守ってくれそうな人物と言ったら、俺は昌澄しか思いつかない。

ただ、瞬木先輩の血統魔法と朝比奈の血統魔法の相性がいいかはわからない。


……まあ、昌澄も実はハイスペックだから、

そう言った事情聴いたら何かしらの方法見つけてきそうだよな。


勝手にそんなことを思いながらちらりと見れば、

キョトンとする瞬木先輩……。


まあ――昌澄、頑張れ。


「……殿下」


急に瞬木先輩の声色が変わった。


「どうしました?」


「僅かですが、『蝕毒』の気配を、感じませんか?」


瞬木先輩の言葉に慌てるように結界が展開されていた場所内に、一気に検知魔法の為の魔力の波を発生させる。


最初の検知では魔力を感じられない。


でも――瞬木先輩の言葉は無下にできない信頼性がある!


もう一度、魔力検知の波を発生させる。

先程よりも丁寧に、細かく、仔細に。

その中に、僅かであるが、ビリリと違和感のある『ヤツ』の気配を感じ取った。


「っ!?座標確保!瞬木先輩!昌澄に伝えて!」


「御意、」


瞬木先輩の回答を聞く前に俺は座標に飛んだ。


ザッと思ったよりも勢いよく飛んでしまった場所。

周りをまた検知して『蝕毒』の気配を感じた。


――後ろ!


感じた気配を辿るように振り返った。


さっきまで大規模結界を覆い尽くした肉塊とは思えぬほど小さい、

片手程度の大きさになって心臓のようにぶよぶよと鼓動している『蝕毒』。


ちょうど――粘ついた音を立てて水路へ落ちようとしていた。


あの水路は一級水路、王都全域に張り巡らされた生活用水。

住人が飲み水・洗濯・調理に使う、文字通り『命の水』だ。


つまり――飲み水!


一級水路に紛れたらマズイ!?

一度紛れ込めば、王都全体が汚染させる!


咄嗟に結界魔法を展開しようとした。


しかしその身体が変形して逃げ出そうとした。

水路の……水面に映るぐにゃりとした影。


――マズイ!


そう思った瞬間だった。


ヒュンッ――


と、空を切る音が耳に届く。


上から振り下ろされた長剣が、容赦なくそれを叩き潰した。


グシャッ!!


と潰れる音。


『ぎゅ、ぎゅあぁ……』


断末魔のような奇声が風に吹かれるように消えていく。

ビリリとした、違和感のある気配は完全に途絶えた。


『蝕毒』が潰れた場所に突き刺さる剣。


見上げた先にはニヤリと笑う――。

太陽を受けて燃え上がるような赤い髪が、風に靡いて煌めいた。


「姉上!?」


「すまん、逃げられるよりは殺した方がマシかと思って手を出した!」


ニカッと笑う、実の姉、王家の第三子にして、第一王女。

天翔宮 朱子は太陽のような笑みで俺に笑いかけて来た。


俺は、安堵で足の力が抜けて座り込む。

見上げた空は馬鹿みたいに快晴の青空だった。



……王都はギリギリ守れた。

ただ、この後のことを考えると俺の胃は無事ではすまないだろうな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ