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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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十八節 騒がし第三王子殿下

まあ、お葬式というような空気から脱却……できませんね。

場所が控室から馬車になっただけで、

乗っている顔ぶれも空気の重さも大して変わりません。


ついでに言えば何ですか、この窮屈すぎる馬車!!?

ええ、今乗っておりますのは魔道馬車と言いまして、魔獣が馬の代わりに車を引いてくれるタイプの馬車です。


六人乗りです。


六人乗りのはずなのに、ぎゅうぎゅうです。


……失礼、我が家の六名が乗ったらもっと狭かったですね。流石に母上が『狭い!』と叫んで、私をポンと弟の膝に乗せた時は、どうしていいか分からなくなりましたが。


普通は父上が母上の膝に乗るべきでしょう。

……ん、逆?いいえ、我が家では普通です


そんな現実逃避をしたい気分でガタゴトと揺れる音を聞きながら馬車の中を見た。

馬車の進行方向を前に見る席には兄上、光さん、綾人さんが並んで座っております。

私の目の前にいる兄上は全く崩れない王子様スマイルで笑っておられます。


ま、まあ、ここまでは呑み込みましょう。


その正面、進行方向とは逆向きの席に、私と金髪天パの碧眼男、千歳さん。


何故、私の隣に座っているんだ第三王子殿下(お前)


ついでに千歳さんの隣に座りやがって!?

で、千歳さんの目の前には綾人さん!

せめてその席に座りたかった!


まあ……第三王子殿下は王族なので、真ん中になりますし、光さんも捕虜兼、姫君なので真ん中となりますが……。


王族と捕虜を対面で座らせていいかですって?コイツは問題ありません。私が保証します。


「……」


「……」


「……」


誰か喋って!!?


「んで、なんで昆明(こんめい)が清澄の馬車に乗ってんだ?」


喋った―――――!!!?さすが綾人さん!この空気で開口一発誰もが思った疑問を聞いてくれるなんて流石です!惚れます!誰かが!


「え、単純に従妹と話してみたかっただけ」


「は?」


ニコーっと悪びれなさそうな顔でそう言ったコイツに、地を這うような『は?』が出てしまったのは不可抗力です。コイツの思考はよくわかりません。


「昌澄~、その『は?』は流石に、俺も傷つく~、ガラスのハートが粉々になっちゃう~」


「ええ、貴方の心は強化ガラスですし、粉々になっても直すのは得意でしょう」


私が思わずいつもの調子で返せば、光さんだけが視線を私と第三王子殿下に向けてきました。


「ちゃんとの挨拶は初めまして~。春の国の第三王子やっています慈光宮(じこうのみや) 昆明です」


おい、王子。仮にも第三王子殿下だろ!

もっとまともな挨拶しろ。光さんが戸惑っているじゃないですか!

……いちいち第三王子殿下と呼ぶのは面倒ですね、コイツはもう、昆明でいいです。


「……初めまして、一条 光です」


「よろしく~」


そう言いながら手を出したコイツの手を、光さんは恐る恐る握手した。


「これって手にキスするべきだった?」


「いらんわ!」


ベシっと昆明の手を叩きながら光さんとの手を離させる。


ところで兄上、ちゃっかり戸惑っている光さんの手を取ってハンカチで拭かないでください。

これでも王族です。

綾人さん、笑い過ぎです。

光さん、私と昆明の顔を何度も見ないで下さい。

千歳さん、そんなに青い顔しないで下さい。


「いや~、やっぱり昌澄のツッコミはちょうどいいや~」


「下手なこと言わないでください。貴方の面倒を見るのは士官学校時代の六年で吐きそうなほど満腹です」


「え~、ひどい!一緒に寝た仲なのに!」


「一緒のベッドで寝た仲ではありますよ?貴方がおねしょして」


「え、いつの話だよ!?」


「八歳の我が家にお泊りした時の話です」


「ふふっ」


いつものように言い合いをしていたところで、急に響いた笑い声に、私だけでなく、皆の視線が彼女に降り注いだ。


「いや、失礼。仲がよろしいな、と」


そういいながらクスクス笑う光さんの周りに淡い黄緑が溶け出した。

いや、こうして自然に笑う姿を見るのは初めてかもしれない。

しかし、それを口に出そうとした瞬間、先に言葉を掛けたのは昆明だった。


「まあ、仲はいいと信じている~」


「腐れ縁です。士官学校時代に六年間、寮で同じ部屋だったのです」


「ああ、そういう関係か……なるほど、だからそんな気心知れた感じなのだ……ですね」


光さんの言葉に昆明がニコッと笑う。


「もしかして従妹さんにもいる?俺にとっての昌澄みたいなの」


光さんは少し悩んでから笑った。


「殿下と昌澄殿のような気心知れたというには少し違うかもしれませんが、私も士官学校時代の六年間……同じ部屋だった者が居りますよ」


「へえ、美人?」


「美人、ですね。でもそれ以上に努力家で、強い。いい競い相手でもありました」


「ん?死んだの?」


「あ、いえ。生きております。……が、彼女ももうすぐ嫁ぎますので」


「へえ、その人って君より強い?」


「彼女は……私と互角ですね。」


その一言に皆が驚き息を呑んだ。それもそうだ、彼女は失礼かもしれないが非常に強い。しかも血統魔法も加味すれば、かなり強い方だ。


「向こうも『五家の姫君』なのでね。まあ、プライドも高いですが、プライドに見合う努力をする……そんなライバルですね」


少し楽しそうに話す光さん。浮かび上がるのは鮮やかな緑。その士官学校時代の同室の人間が、どれほど光さんの心を富ませる存在か、その色で分かる。


ただ、ひとこと言わせてください。私と昆明はそんないい関係じゃないです。


コイツの破天荒な兄姉である王子殿下ズと王女殿下にしごかれるという苦痛を何故か一緒に体験するわ。

王族の無理難題に取り組むコイツに巻き込まれ、コイツが胃痛で動けない中を何故か一緒に治水工事するわ。


一番きつかったのは何故か無人島に第三王子殿下と2人っきり、みたいな絶対誰も経験したことのないサバイバル生活。

ええ、悪いのは第三王子殿下を攫った誘拐犯です。

ですが、巻き込まれた私からすればいい迷惑です。


ん?

サバイバル生活がどうなったって?

一週間耐えましたよ。

水の確保!食料の確保!寝床の確保!

そんな地獄を耐え抜きましたよ!

八歳の子供が!!


しかもコイツその後家族からの異常な過保護のせいで、胃痛持ちになるし、面倒くせぇわ!


「ああ、ライバルか~。俺にとって昌澄は背中を預けられる安心な人かな?」


「ああ、そういう意味では似ておりますね。私も、彼女なら背中合わせで戦えます」


ふわっと笑う光さんが、年相応に見えたのは気のせいではないでしょう。


ええ、千歳さんより年下というのが未だに信じられませんが……。


「ちなみに、従妹さんって、」


「光で結構です」


おお!光さん慣れて参りましたね!コイツの話をぶったぎってそう言われました。昆明は人懐っこい笑顔を浮かべた。


「じゃあ光さん、今何歳?」


「20ですが?」


「え、俺より年下!?っていうか、瞬木先輩よりも年下!?」


「私を引き合いに出さないでください」


ピシャッ言い切った千歳さんに、兄上と綾人さんがウンウンと頷いている。ちょっとお聞きしたいのですが、千歳さんより年下ことについてか、コイツよりも年下ってことなのか……。


いえ、若く見えることはいいことです。母親の受け売りですが。


「いや、瞬木先輩の見た目詐欺は素晴らしいと思いますよ?俺が初めてタマケリ受けたのは瞬木先輩でしたし!」


「タマケリ?」


光さん、その言葉に食いつかないでください。

男性の非常に大事なところをダイレクトに蹴り上げる、一撃必殺の略語なんて知る必要ありません。

淑女には知らなくてよい言葉もあります。


「えっとキンタm……ぐふっ!」


その瞬間、思いっきり手刀が喉に入りました。ええ、流石です千歳さん。惚れます。王族相手にそんなこと出来る貴女に惚れます。私が。


「ちょ、瞬木先輩、酷くないっすか!?危うく死ぬかと!?」


「……一応、王妃殿下より『息子をビシバシ鍛えてくれ』と言われておりますので、このぐらいは許容範囲かと」


ニコッと笑った千歳さんに流石の昆明も口に手をやって黙った。


「ふふ、怒らせると怖いのですよ、千歳さんは。」


なんていう兄上と、うんうん頷く綾人さん。


ええ、千歳さんが士官学校時代に、兄上と綾人さんの暴走を止められる稀有な人として、同級生や先輩後輩から崇拝……失礼、尊敬されていたのはこういうところです。


「光さん、殿下のことは気になさらないでください」


うわあ……兄上のキラキラエフェクト満載の王子様スマイルに、本物王子様が「うげぇ」と砂糖を吐き出すような顔をしていた。


「分かりました。なんとなく扱い方は分かりました」


ニコッと笑う光さんはとっても良い笑顔でした。兄上と光さんの見つめ合うキラキラエフェクトの笑顔は何というか、どっちも貼り付けたような笑顔でちょっと寒気を感じました。


隣の昆明がぶるりと肩を震わせたのは気のせいではないでしょう。


――昆明をちらりと見た瞬間、彼が浮かべたのは灰色だった。


「やばい、何か、来た」


ガタガタと震える昆明に、私を含めた光さん以外の四人が周りを見る。


その瞬間、響いたのは爆音と、何かが崩れ落ちる音だった。




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