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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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十二節 その執事、推しカプを全力支援す


完全な空振りに終わったエスコートの手を、私は拳にぎゅっと握り直して部屋を出ました。

ええ、泣いてはおりません。

……泣きたいですが。


一緒に部屋を出た千歳さんはジッと扉を見つめています。


「どうか、なさいましたか?」


浮かび上がる灰色のような紫。その灰紫は不服、でも仕方ないとの諦めが混ざっている。


「いえ……」


そう言葉を区切りました千歳さんですが、私の顔を見てハッとなさりました。多分ですが、彩眼を思い出して「ごめん」と謝ってきました。感情が見えてしまうことを知っている彼女は少々優しすぎますね。


「あの、一条さんが私に情報を話してくれないのが悲しいだけで、昌澄くんを信用していないとか、清澄様を信用していないとかじゃないからね!」


焦るようにそう言ってくれる彼女は本当に優しい。私の彩眼の能力は彩を見るだけ。どういう思考なのかは判別できない。


その話を昔、彼女に話してから、彼女はこうやって仔細な気持ちを口に出してくれる。


だから、彼女のことが昔から好きでもある。


「ありがとうございます、千歳さん。とりあえず、我が朝比奈邸をご案内いたしますね」


そう言って彼女にもう一度手を差し出した。


「えっと?」


「騎士の恰好でもエスコートしないと私が怒られます」


嘘ですけど、なんて思いながら差し出した手。様子を見守っていた執事がスッと現れた。彼に気配がないことにとっくに慣れた私ですが……。千歳さんはビクッと肩を揺らすほど驚かれておりました。ええ、気配も、影も、全く感じられないですからね。


「僭越ながら、昌澄坊ちゃまの御手をお取りいただけますでしょうか?」


白髪をきっちりまとめ、黒の燕尾服に身を包んだ初老の男性が、空気の揺らぎもなく、音も立てず現れた。


「ああ、失礼いたしました、お嬢様。わたくし、こちらの朝比奈邸で執事を務めさせていただいております、倉敷(くらしき)と申します。奥様に昌澄坊ちゃまが女性のエスコートをしなかったと、伝わりますと坊ちゃまは壁の模様になります。」


「え?」


「奥様の教育方針でして――女性を前にして手を引かぬ男は、朝比奈家の恥でございます」


「は、はあ?」


「もしも昌澄坊ちゃまがエスコートを成されないのが知れようものなら……ええ、それこそ見事な人型と、壁にはイイ感じのひび割れを作りまして、昌澄坊ちゃまのお飾が朝比奈邸の壁に出来るでしょう……」


「……え、それ本当に、ですか?」


「本当でございます」


にこやかに笑いながら力説する倉敷の言葉に、千歳さんは慌てるように手を取ってくださった。


ええ、物理でぶっ飛ばされるのを想像したのでしょうね、母に。あながち間違いないですから手を取ってくださって助かります。流石にわたしは要領のイイ中間子なのでやられたことありませんが、やんちゃな弟たちは良くモニュメントになっておりますね。


深い青色が私に巻き付いてきた。穏やかで、それでいて胸の奥を温めるような色だ。


どうやら本気で心配してくださっているようですね。ですが、やめてください。そういう色が絡んでくると、嬉しいから困るのです。


「では、昌澄坊ちゃま。お嬢様のお部屋は西の客間を用意させていただきました。ご案内、よろしくお願いいたします。」


そう言った倉敷はさっさとその場を後にする。アシストが完璧すぎて、母の統率力の高さを思い知った気がした。


「びっ……くりした……。気配、まるで感じなかった」


「ああ、倉敷は元々、母の片腕でもありますからね」


「……え!?」


「第三騎士団の元副団長です」


「……え、アレが噂の……全然武闘派に見えなかったんですけど?」


「ああ見えて兄上をぶっ飛ばす御仁です」


「え?清澄様が?」


「ええ……ちなみに父のプロポーズが雑すぎて、『却下!』と叫びながらぶん殴ったのもこの方です。」


「ええ……」


私の言葉に思わず(ドン引きして?)黙ってしまわれた千歳さん。ただ、思い出してみても倉敷の印象が変わらなかったのだろう。


「紳士的なあの感じから想像がつかないんですけど……」


「ええ、そうでしょうね……」


殴られた方は想像つきますよ……なんて言葉は言わずに、用意されているであろう客間に向かって歩き出した。


途中、ちらほらと出会う使用人が私と千歳さんに頭を下げる。


「五家って、使用人が多いんだね」


「ウチは少ない方ですよ」


「え!!?」


「綾人さんの所なんてもっと多いですし、ウチは母の意向もあって、少ないですね。その代わり別邸だとかの使用人は多いらしいですが……」


「て、殿上人」


「私は次男ですので」


「いや、次男でもヤバいって」


そう言いつつだんだんと普通の会話に戻って行った千歳さん。案内した先は西の客間。扉を開けて中に招けば、千歳さんは周りを見回していた。

大きさとしてはさほど大きくはないが、窓から見える庭園の景色が綺麗な部屋だ。


「ご、豪華」


「あ~、まあ、気にしないでください。滞在費は第一騎士団から補助金が出ますし……」


そう言いつつ部屋をチラッと見た瞬間、思わず頭を抱えそうになった。ちらりと後ろを見れば、全く気配がない倉敷と、もう1人。メイド頭である女性。二人揃ってグッドサインをされた。


その爽やかな笑顔でのグッドサイン、やめていただけますか?

爽やかすぎて逆に怖いです。

どうせ母の入れ知恵だろうと思いますが、そんなところで優秀さを見せつけないでください。


思わずため息がでましたが、何も言わずに部屋の守りの魔法を書き換えた。


「ん?何かありました?」


魔法陣の色は生まれつき決まっている――らしい。


どうやら魔力の性質と関係しているが、まだ解明されていないのです。

ちなみに私や兄上のような『水の血統魔法』は青、綾人さんの『炎の血統魔法』は赤。


例えばですが私が炎魔法を使おうとしても青い魔方陣が展開されるので、魔法って本当に奥が深いです。炎なら普通、赤い魔法陣になると思いません?


え?なんでそんなこと気にしているかですか?趣味ですよ、趣味。

騎士やってなかったら研究者になっていたと思います。

……というか、たぶん今でも半分は研究者やっています。


ああ、脱線しました。私はこういうことを考えるのが好きなもので、ついつい語ってしまいます!


「ちょっと守りの魔法が手薄でしたので補強しておきました」


「ほー!流石、魔術に精通する第二騎士団の副団長サマだ!防衛魔法は、私からっきしだからね~」


「そう言われましても、私は千歳さんのように剣術は得意ではありませんのでね」


「その分、こうやって魔法に強いじゃん?戦場で第二騎士団に守ってもらうのって、とっても心強いんだよ?」


やめてください、惚れます。

ついで緑の尊敬の色を出さないでください。嬉しくなります。


そう言いつつも彼女が第一騎士団に居るのは何となくわかる。彼女の魔法は基本的に攻撃特化。特に風魔法が得意な千歳さんは、炎魔法を操る綾人さんと相性がいい。


ええ、水を得意とする私とは相性いいですね~。


え?魔法の話ですよ?ああ、違う意味で綾人さんとも相性いいですよ、炎魔法は水で消せますから、向こうからしたらどうか知りませんが。


ただ、千歳さんは本当に第一騎士団にうってつけの人間だと思う。



ああ、ここで補足しておきましょう。

騎士団にはそれぞれ役割がありまして――

メタ発言でざっくりいうと……


第一騎士団:頭脳(攻撃判断・指揮)

第二騎士団:防衛(回復・防御・支援)

第三騎士団:攻撃(脳筋・突撃)

第四騎士団:準備(罠・武器・後方支援)


と、こんな感じです。


え、もっとしっかり説明しろ、ですか?


仕方ないですね~……え、すみません、聞いてくださいますか!?



第一騎士団の役割は騎士団の頭脳。

いい例が綾人さんですね。彼は自ら戦いながら敵陣に奇襲を仕掛けたり、攻勢、撤退といった判断だったりを前線で行う騎士団の頭脳でね。


第二騎士団の役割は防衛。

これは兄上で例えるのが分かりやすいですね。前線の崩れかかっている所を魔法で援護したり、安全圏として結界魔法を展開したり、一番の仕事は『回復』。その負傷者の回復を守るための部隊でもあります。


――時折、兄に母の血を感じるのですが、突然『面倒です、全部吹っ飛ばしましょう』と魔法をぶっ放すこともあります。


第三騎士団の役割は攻撃。

分かりやすいのは母ですね。元第三騎士団の団長ですが、『目の前のもの全部倒せば我らの勝利』です。ええ、脳筋狂戦士(バーサーカー)です。


そして第四騎士団は下準備。

砦の製造。罠の製造。武器の製造。なんでもござれの要するに下準備の団。うん、本当にこの団は敵にしたくない。なんて先まで読んでそれを準備したの!?って叫びたくなるのがこの団の特色だ。


うん、それでなのですが、うちのメイド頭は元第四騎士団の三席。元第三騎士団の倉敷がこの結界を作れるとは思えない……。


あのですね、グッドサインやめてください。こんな古風な結界術使わないでください。


あと、どうせなら私も弾いてください。


邪なことを考えている人間を防ぐ防護結界が展開している部屋。『そういう防護結界』が貼られているにもかかわらず、私が入れるようになっている。

素直に認めますが、そういうことを考えないわけではありません、若いので!


……ただ、私は閉じ込めたいとか、そういう監禁願望ないのでやめてください。

そもそも、千歳さんが無防備すぎるんですよ。心臓に悪い。


こんな高度な結界、なかなか見ることは出来ませんし、第一これを作り上げた貴女本当に凄いですね……。


――と、倉敷の妻でもあるメイド頭を、遠い目で見つめた。


ええ、アシストが欲しいとは思いましたが、よりによって一番高火力のアシストをこちらに向けないでいただきたい。


できるなら、兄上と光さんの方にアシスト砲、お願いします。私は無事でいたいので。



……ですが、こういう時に限って嫌な予感って当たるんですよね。


まあ、それは次回にお話ししましょう。

安心してください、被害者は私と千歳さんです。


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