七節 本気のホームシック
いや、私、今物凄く家に帰りたいです。
なんて言いたくなったところで、スッと笑みが消えたのは篠宮さんでした。
「で、光。お前の妹はどうした」
明らかに声色が変わったのが分かります。
篠宮さんの言葉に、光さんが少し苦い顔をしました。
「香は湯殿に行かせましたよ。流石に禊が必要なレベルでしたので」
「ああ、そう言うことか……。着ていた服も燃やした方がいいな」
「ええ、一応、香に確認を取ってからにしますが、私も同意見です」
そう話した光さんに、視線を向けましたら、彼女はフッと笑いました。
「ごめんなさいね、昌澄さん。詳しいことは出来れば香が戻って来てから話したいので、少し待っていてもらえますか?」
「ああ、なるほど。説明はしてくださるのですね?」
「ええ。本当は陸と慶人の紹介も一緒にしたかったのだけれども、二人が清澄さんと間違えるとは思わなくて、ね?」
ふふっ、と小さく笑った光さんは、兄上の作った魔石が嵌め込まれたネックレスをまた服の中に戻しました。
「そりゃ、お嬢。似た魔力を感じれば勘違いもしますよ。第一、お嬢はそのネックレス、自分以外に触らせないじゃないですか……感じる程度ですと分かりませんよ」
ニヤニヤ笑いながらそう言う陸さんに、光さんは少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らしました。
「ほんとに、あの行方不明になったクズとはエライ差じゃ」
ポソッと慶人さんがそう言った瞬間、ひんやりとした空気が背筋を舐めた。
沸き上がる紫は、濁るようにいくつも混ざっている。
間髪入れずに『爺』こと睦さんが慶人さんの腹に肘を打ち込んでおりました。
「ぐふっ」と痛そうな悲鳴が漏れましたが、慶人さんは睦さんを見ながらポソポソ言っておりました。
「お嬢様、香様のご準備が終わりました」
急に、気配のない女性の声が響き、若干驚きながら振り返れば、かなり血色の良くなった香さんが立っておられました。
ええ、凄く疲れた顔で。
しかも、着せられている服……というより、もう衣装ですね。
前合わせの赤色が基調で、金色の刺繍のされた前合わせの衣装。
多分、シルクで作られているのでしょう……どう見ても一点物の高級品です。
「あ、やっぱり似合うわね」
ケロッとした顔で言う光さんに対して、男性陣の三人はあんぐり口を開けて固まっておりました。
ついでに、香さんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしております。
「ひ、光様!?これは久豆則殿下から下賜された王族の衣装では!?」
「そうよ」
「な、なんてものをお着せになられているのですか!?」
「多分、もうすぐ来る来客は喜ぶわよ」
「来客!?」
「正光殿下もお呼びしたからね」
光さんが勝ち誇ったような顔で笑いながら愉快そうなオレンジ色を浮かべたのに対して、睦さんは魂が抜けそうな顔で、紫色を浮かべてよろよろしてきました。
慶人さんが心配するような青紫色を浮かべながら咄嗟に睦さんの肩を支えたのを見て、なんだかんだ祖父と孫の仲は悪くないのだと思いました。
「でもこの衣装見てやっぱり『元・婚約者』殿は私のこと嫌いだったのだろうね。香に似合う時点で、私には似合わない」
フッと笑う光さんに、言われて見て、香さん纏う衣装はまるで、香さんの為にあつらえたかのように似合います。
一瞬だけ、光さんから漏れ出た紫の色は、香さんの姿を捉えると鮮やかな緑色に飲みこまれる。
香さんの冬の国の伝統衣装姿は自然と言いますか……あの、後ろに控える侍女の方々でしょうか?
皆さん、『やり切りました!』『楽しかったです!』『どうですか!』みたいないい笑顔です。
ついでに、浮かべる色が黄色というよりも金色で、楽しかったのが伝わってきます。
「さて、まずは情報整理と行こうか」
そう光さんが言った瞬間に、侍女の方が光さんの肩を叩きました。
「お嬢様」
明らかにその侍女の方……ええ、多分睦さんと同世代の初老の女性です。
光さんがタラっと冷や汗をかいておりました。
「どうしたの、婆や?」
取り繕ったような光さんの笑顔に、その『婆や』さんはニコリと上品な笑顔で笑います。
なんとなくですが、光さんの圧のある笑顔はこの方と似ておりますね。
「そろそろお嬢様もお着替えに行かねばなりません。そちらの軍服にも『穢れ』が移っておりますよ?」
物凄い笑顔で笑う『婆や』さんに、光さんが視線を明後日の方向に動かします。
「お前たち、やっておしまいなさい!」
「「「かしこまりました!」」」
「ちょっ!?」
『婆や』さんの号令に、侍女の方々は光さんをあれよ、あれよと連れて行ってしまいました。
迫力が……。
「さて、坊ちゃま方、それとお客様。我が家に『穢れ』を持ち込んだまま、お着替えなさらないのは私が許しません」
物凄い圧の笑顔に、私はヒクっと口が歪みました。
「澪様、貴女様もですよ?」
こっそり逃げようとしていた澪さんが、ピタッと足を止めます。
そして澪さんの前にニコリと笑う侍女の方。
「ば、婆や。私、いったん篠宮か、鷹司に……。」
「ご安心なさい、澪様。紫苑様のお洋服が残ってございます」
「お、お母様の、服は、ちょっと……。」
「問答無用で連れて行きなさい」
「承知しました」
「ひええええ!?」
物凄い手際で連れ去られていく澪さん。
その様子を見ていた陸さんと慶人さんが立ち上がりました。
「坊ちゃま方、お客様のご案内はお任せしてもよろしいですか?」
「あいよ」
「昌澄さん?くん?面倒だし呼び捨てでいいかな?僕たちも呼び捨てでいいし」
そう言って陸さんから手を差し伸べられました。
敵意が無いのは、彼らが浮かべる緑で分かります。
あと合わせて浮かべている紫で、この『婆やと』呼ばれる女性に逆らってはいけないのも分かりました。
とりあえず手を取ったところで、陸さんの視線が、篠宮さんに向きました。
ニッと笑う篠宮さんは口だけ動かして『安心しろ』と伝えてきました。
浮かべる色が澄んだ水のような青ですし、信じることにしましょう。
残された香さんが不安そうな表情を浮かべましたが、篠宮さんはどうやら香さんの腕に視線を向けたことから、多分ですが『呪い』とやらの何かがあるのでしょう。
なので、香さんを安心させるように『彩眼、敵意ナシ』と口を動かします。
香さんはゆっくりと頷きました。
「じゃあ、裸の付き合いと行くか!」
慶人さんの言葉に、本気で思うのですが……マジで家に帰りたいです。
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