六節 一条家と篠宮夫妻
光さんからの高圧的な空気に、ゴクリ、と思わず唾を飲み込んだ瞬間でした。
「え、何この空気?」
本当に貴女は空気を読みませんね!?
でも私としては天の助けです!
ありがとうございます、澪さん!!
「本当に、空気読まないね、澪。あといらっしゃい、篠宮さん」
「おー、邪魔してるわ」
澪さんの後ろに立っていたのは、新緑の髪、琥珀の瞳の男性。
光さんが捕虜として、春の国に投降した時に、一度だけ見たことがあります。
冬の国の第四師団の師団長にして、第二次全面戦争の英雄・篠宮 成継。
彼は私の顔を見ると、少し驚き、そして笑いました。
「こりゃ、久しぶりだな、『春の国の副団長』さん」
ニヤッと笑うその人、篠宮さんは楽しそうな視線で私を見ました。
「お久しぶりです、『篠宮』さん」
そう何とか笑いながら返せば、彼はまた楽しそうに「ははははっ!」と笑い声を漏らした。
「んで、光。コイツがめっちゃ睨まれてんのはお前の所為か?」
「なんで私の所為になるのです?……というか、全員が殺気立っている理由が正直分からないのだけど?」
呆れた顔の光さんに、澪さんが「ん?」と呟きます。
周りもまた困惑した表情を浮かべました。
先程澪さんと転移魔法で消えていた『リク』さんもいつの間にか戻っておりまして、彼だけが苦笑いを浮かべました。
何故でしょう……この『リク』さん、私と同じ苦労人の空気を感じます。
「お嬢……この人、お嬢のネックレスの人でしょう?殺気立つのは仕方ないと思いますけど?」
『リク』さんの言葉に光さんは少しの間を置いたと所で、思い至ったのか、ポンっと手を叩きました。
「ああ、そういうことか!」
どういうことでしょう。
お願いですから説明してください、光さん。
なんて、言える空気でもなく、光さんは「ははっ!」と笑いました。
「みんな、確かにこの魔力に似ているけれどもね」
そう言いながら光さんが首元のチェーンを引っ張り、そして出てきたのは魔石。
兄上が作ったクリスタルのような薔薇型の魔石。
少しグレー掛かったそのチェーンにで繋がれたネックレスは光さんにお似合いでした。
「彼はコレをくれた人の弟だよ」
その瞬間、突き刺さるような針のよう殺気が、嘘のように消えました。
……えっと、つまり、私は兄上と勘違いされていた?
というか、兄上はコレを体感する可能性がある?
「なんじゃ、お嬢の相手にしてはヒョロイ思ったわ」
「確かに、お嬢の好みって剣が強い人なのに、この人弱そうって思ったんだよね~」
『ケイト』さんと『リク』さんが言いたい放題ですが、何とも言えなくて光さんを見れば、苦笑いを浮かべておりました。
というか、『リク』さん?いつの間にお茶を用意していらっしゃったのですか?
ささっと、全員の前に置いているのが、手慣れすぎていて、少々驚きです。
「まあ、彼のお兄さんは非常に剣も魔法もバランスのイイ人だよ」
光さんの言葉に、一瞬の安堵が出たと思いました
「なんじゃ、お嬢がベタ惚れするタイプか……珍しいな、素直に褒める男なんざ」
「お嬢が選んだ相手にとやかくは言いませんが、手合わせ程度はしたいですね。満様が」
『カイト』さんと『リク』さんの会話に、なんでしょう、何となくですが、私はお眼鏡にかなわなかった空気を感じているのですが?
あと『リク』さんがサラッと言った『満様』って光さんの弟君ですよね?
確か、光さんと同じ闇の能力を持たれる17歳の……魔剣士の少年だったような?
兄上、大丈夫でしょうか?
手加減できますかね?
最悪、私が回復させれば問題ないですかね?
「さっきから二人ともボロクソ言っているけど、昌澄は分かりやすく言えば『朝比奈の次男』だよ」
続いた澪さんの言葉で何故か、全員の視線が私に向きました。
「なんじゃと!?コレが戦場の鬼才『朝比奈の次男』か!?」
「うわ……身体の一部が残っていたら回復させるっていう鬼畜集団の『朝比奈の次男』?こんな感じの優男だったんだ」
何でしょうか、不名誉な言葉がチラホラ飛んでくるのですが?
いくら私でも胴体と頭が残っていないと回復は無理ですよ?
なんだか誇張され過ぎておりません?
「ほう……悪魔のような御仁かと思っておりましたが、意外と普通ですな」
そう言ったのは睦さんですが、なんでしょう、悪魔のような御仁って、私のイメージどうなっているのでしょうか?
「ついでに言えば、第二次全面戦争で澪が殿を務めた時に、コイツが魔獣を回復させて追撃に使ったんだよな……あれは痛かった!」
ケラケラと笑う篠宮さんに、「あれは時間稼ぎでして……」と思わず呟きました。
ええ、確かに魔獣を治癒魔法で回復させて冬の国側に放ちましたよ。
ですが、アレは死に掛けた瀕死の騎士たちにトドメを差させない為でした。
時間稼ぎで放ったはずの魔獣が、めちゃくちゃ卑劣な策を考えた男に変わっておりませんか?
「なるほどね……確かに『朝比奈の次男』ならば、今回の件に他の視点があるかもしれませんね」
そう言ったのは『リク』さんで、私としましては、非常に似た空気を感じるのですが?
「ならば、改めて、僕は一条 陸。第四師団の四席を務めております。まあ、お嬢の再従兄でもあるけどね」
そう言った『リク』さん、改め陸さんは、やはり一条の方だな、と納得しました。
「じゃ、次は俺じゃな。一条 慶人。お嬢のすぐ下、第四師団の三席じゃ。俺は言うなれば遠縁ってやつじゃ」
そう言った『ケイト』さん、改め慶人さんは笑いました。
そして慶人さんが視線を向けたのは『爺』と呼ばれた初老の男性だった。
「では次は私が。一条家の家令を務めさせていただいております一条 睦と申します。一条姓を名乗っておりますが、分家の当主で、その慶人の祖父に当たります」
スッと頭を下げる『爺』さんこと睦さん。
なるほど、こうやって面と向かって見ると、陸さんは確かに光さんに似ておりますし、睦さんと慶人さんは少し顔の系統が違います。
「ふふっ、まあ知っていると思うけど『お嬢』こと、一条家当主代理の一条 光よ。改めてよろしく」
光さんが妙に楽しそうに言うので、私もヒクっと口が痙攣しそうな笑い方で笑いました。
「改めまして、朝比奈 昌澄と申します。チラホラ話は出ておりますが、春の国の第二騎士団で副団長を務めさせております、朝比奈家の次男です」
そう言えば、何でしょうね『うん、知っている』みたいな顔で見られました。
「ま、俺の自己紹介は居るか?」
ポンっと、まるで昔からの飲み友達のテンションで肩を叩いてきたのは篠宮さんでした。
ええ、とても楽しそうな笑顔です。
「……澪さんの旦那さんと認識しておりますが」
「じゃあ、私は~」
「澪さんも存じ上げておりますので、結構です」
篠宮夫妻?のテンションに飲まれそうだったので、即座に言いましたら、何故かこちらにキラキラの視線が向けられます。
「ね、篠宮さんと澪をあしらえる人間って、稀でしょう?」
楽しそうに光さんが言った瞬間、一条家の方々はうん、うん、と頷きました。
……篠宮夫妻、もしかして、面倒な人枠なのでしょうか?
なんて思いつつも、苦笑いする光さんを見ました。
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