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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆破しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~
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十節 姫の護衛にはちょっとロリすぎる


まあ、綾人さんの暴露?を聞いて流石に心配になりました。


何が心配か、ですか……。


それにはまず我が母こと朝比奈 日葵(ひまり)についてご説明しないとなのですが。


元第三騎士団の団長を務めていた女傑でして……。

この母が騎士団長を務めていた第三騎士団は脳筋……失礼、剣の腕が立つ特攻隊気質の団でして、その騎士団長となれば……まあ、想像はつくでしょう。


一つだけ言わせてください。


何故母の方にしたのですか、綾人さん!!

どうせなら元第二騎士団長であった父にしてください!!

父なら魔法のエキスパートですし、彩眼持ちですし、なんなら兄とあんまり顔が変わらないのですから(若干老けていますが)父の方にしてくだされば問題なかったのに!!


と、嘆いても仕方ないので、大きなため息を吐いた。


「えっと、昌澄くん大丈夫?」


心配した千歳さんが項垂れた私の背中をさすってくれた。

あ、母上の余波がこんな形で……さすがの私も喜べません。


まあ一応……一応ですよ?

念のため、第二騎士団の執務室に足を運びました。


そこで見たのは死屍累々の部下たちでした。


「なんだつまらないですわね?……って昌澄ちゃん!遅かったじゃない!」


満面の笑みを浮かべる母上に思わずヒクっと口端が痙攣した。第二騎士団の部下たちが『助けてください副団長!』って捨てられた子犬の如き目で見てきた。


やめてくれ、私は剣がそんなに得意ではない!


「母上……前も申しましたが、第二騎士団は魔法士の方が多いのです。剣術は適度でいいのです。」


「ぬるいわよ、昌澄ちゃん。私のようなか弱い女に倒されるなんて……質が落ちたのではないの?」


貴女のようなゴリラに倒されない人間は父しか知りません。


そう言いつつも太陽が透けるような金髪がサラサラとなびいて、茶目っ気たっぷりの青い瞳でにこやかに笑う。顔だけ見れば弟たちは完全に母似ですね。


まあ、剣術馬鹿なのも母親似ですけどね。子ゴリラ……体格的にはマウンテンゴリラの弟たちを脳裏に思い浮かべて遠い目をした。


「母上、少々やりすぎです」


呆れた顔で来たのは兄で、思わぬ人物に驚いていれば、何故か護衛対象のはずの光さんもそこに居た。


……なにゆえに!?


私の視線に気が付いた兄が頭の痛そうな顔と、遠い目で私を見てきた。


把握しました、母上に無理矢理連れて来られたのですね?


頷く兄。多分、彩眼で私の心内が見えたのでしょう。


「まったく、質が落ちすぎですわ。いくら魔法士と言えども、魔力が切れれば戦わねばなりません!ほら、誰か私にかかってきなさい!」


いや、誰も手を上げないって……。


と思っていたところで、チャリッと音が鳴り思わぬ人が手を上げた。驚きすぎてみんな凝視である。


「えっと、ダメ、ですかね?」


そう呟いたのは光さんだった。


「あら、冬の国の姫君がお相手してくれるの?嬉しいわ!」


ヤバいって、母上乗る気だ!?不味いって、一応捕虜!一応要人!母上は手加減できないのですからやめときなさい!?


「えっと、よ、よろしいですか?」


隣の兄を見上げる形でそう尋ねた光さん。

兄上、ちょ、兄上!?

見たことのない色を浮かべています!?

あ、でも悩んだ。黒っていうか灰色っていうか、うん。


「あ、なら真剣ではなく、木刀ならどうです?」


光さん!?や、やりたいんですね。そう思った瞬間に兄は諦めたように「いいですよ」と答えた。


その瞬間、第二騎士団の団員は皆、顔面蒼白である。


ま、まあ光さんも動きやすい騎士の練習着のような格好だし、ついでにその練習着、絶対に母の奴だし、もう気にしないことにした。恐る恐る光さんに木刀を渡したウチの見習い騎士。


光さんがそれを受け取ってヒュン、ヒュンっと空を切る音が響いた。


「もしかして冬の国の姫君は五席並みの剣士ですか?」


隣の千歳さんがこそっと聞いて来た。

五席並みと言えば、わが国でトップクラスの剣士のことを指す。

私も詳しいことは知らないが、調べ上げたことによればかなりの腕前だと書かれていた。


「私も詳しくはありませんが、お強いらしいです。ただ、五席並みかはなんとも……」


木刀を受け取った光さんが、練習場の土を踏みしめながら母の目の前に立った。


その剣を持つ姿に、違和感がない。


そのいでたちの自然さは、それほどまでに剣を握っていた証でもある。


「ほう。なかなか良き腕をしているようですね?」


母がニヤリと笑った。楽しそうというか、強敵と相対するときの母の顔だ。


というか、引退した父と魔獣狩りに出かけるときの顔ですね。


「そう評価されると嬉しい限りですね」


そう言いつつも、二人は近距離で木刀を打ち合いだした。カンッ、カンッ!っと連続で鳴り響く音だけで、光さんが脳筋ゴリラの母と同等の力で打ち合っているのが分かった。


心臓、首、大動脈。木刀が通る場所に目を向ければこの打ち合いがどれほど高度なものか理解できる。


互いにその至近距離で急所を狙い合っている。


「っ!?」


思わず、隣から漏れた声に視線を向けた。真っ青になっている千歳さんから見える色は紫、不安。そして彼女は腰に差した真剣を握りしめていた。


いざとなったら止める気なのだろう。


それは要らぬ心配だと思った。


母と光さんが出すのはオレンジ。黄色に近いそれは歓喜の色だ。

意外と、光さんは剣術が好きなようだとその色で分かった。


ぶつかり合った木刀がガツンッと大きな音を立てて鍔迫り合い状態になった。光さんの木刀を弾くように母上が力を籠めれば、2人の間合いが大きく広がった。



静まり返る練習場。誰もがゴクリと唾でのどを濡らした。



母が両手で構えた。すると光さんは木刀を横に傾けて腰から地面側に反りを向けた。その構え方を見て思い出す。冬の国の『刀』による抜刀術。


静まり返るその場で、誰もが息を潜ませた。

母と光さんは互いに淑女の笑みを崩さない。



それは一瞬だった。



思わず見たモノが信じられなかった。



一瞬で間合いを詰めた光さんが真正面の低い姿勢から母の喉あたりに剣先を突き付けていた。


カチャリ、と響いた音で彼女の腕に白石の腕輪が掛かっているのを思い出した。


思わずゾッとした。彼女は身体強化の魔法無しで、あのスピードを出して母の間合いに入り込んだということだ。


「ふ、あははは!懐かしい!冬の国の抜刀術じゃないか!」


「ご存じでしたか?」


「いや、今、その不敵な顔を見て思い出した……『一条 紫苑(しおん)』!」


「……叔母のことをご存じですか?」


「叔母か……。いやはや懐かしい。戦場で相まみえた彼女の姪か!」


母上の言葉遣いが変わった。そしてビシビシと感じる空気の揺れ。それが母上の殺気だと理解した瞬間、誰よりも早く動いたのは千歳さんだった。


母上と光さんの間合いに入り、2人の木刀の先を掴んだ。


「そこまでにしていただけますでしょうか、朝比奈夫人。」


静かに響いた声。千歳さんが二人の間でどちらも木刀を振り上げることの出来ない位置を掴んでいた。


「おや、第二騎士団の人間じゃないね?」


「ええ、お初にお目にかかります。第一騎士団三席・瞬木 千歳と申します」


「ああ、清澄と綾人の……丁寧にありがとう。それで、武人同士の戦いに水を差すのはどうかと思うが?」


母上の言葉遣いが戻らないので、助け舟を出そうかと口を開こうとした。しかし千歳さんが浮かびあげた色を見て、思わず口を噤んだ。


まるで秋空のような群青。崇高なその色に思わず息を呑んだ。


「それに対しては無礼であると重々承知でございます。ですが、私の『任務』はこちらの冬の国の姫君、『一条 光』様の護衛でございます」


「ああ、なるほど。仕方ない、この戦いはお預けだ」


そう言った母は木刀を下ろし、空気に染み出させていた殺気を抑え込んだ。その瞬間に安堵の息が何度も聞こえてくる。


「まあ、もしも平和な時代と言う時代が来たら、本気で手合わせを願いたいものだ」


そう言って笑う母はどこか寂しそうで、浮かび上がる色は深海のような青。悲しみが浮かびあがったところで光さんが笑った。


「叔母も、言っておりましたよ。『第三騎士団の団長と幾度となく戦場で相まみえた』と。」


光さんの言葉に母がびっくりした顔をして、そして穏やかな黄緑を纏った。親愛とでもいうのか、その色が非常に優しい。


「生きて、いたのね?」


母の言葉に光さんは何とも言えない表情で笑った薄紫や灰色、黒に赤まで――複数の色が混ざりあって、複雑な感情だというのが伝わってくる。


「冬の国では……婚姻を結ぶと女は外に出られません。たとえ優秀な軍人であったとしても、『妻』となった時点で二度と剣を握ることは許されません。」


「貴女の国は、何とも生きにくいのね」


「住めば都です。叔母もまたそう言った柵の中でこっそりと私と従姉に『抜刀術』を教えてくださいました。おかげで今日まで生き残っております」


ニコリと笑う光さんに、母も笑った。まるで子を見る親。私たちを見る時と同じ視線を光さんに向けていた。


「素晴らしい叔母様ね。姪も、娘も、生かすために必死に考えた術でしょう。」


ふと母の口調が淑女のものに戻った。ニコリと貼り付けた笑み。


「楽しかったわ。さて、私は立候補も出来ないヘタレたちをしごくとしましょう」


とってもいい笑顔で木刀を肩に背負った母。


第二騎士団の団員たちが私と兄を交互に見て『助けて!』『ヘルプ!』『お前らの母親だろ何とかしろ!』と視線を向けてくるが、すみません見て見ぬふりです。


「まあ、たまには母上にしごかれてください。我々は毎日でしたから」


笑顔ではなった兄上の言葉に絶望色を浮かべる団員達。


うん、その通りだから頑張れ!



そうしている間に、千歳さんと光さんがいるところに歩き出した。


「折角の勝負に水を差すことになって申し訳ございません」


千歳さんが軍人らしく光さんに謝罪した。それに対して光さんも苦笑いを浮かべた。


「こちらこそ、捕虜の身でありながら、勝手な真似をしてすみません。」


「いいえ、こちらとしては見ごたえがありました」


そう言ってニコリと笑う千歳さんはキラキラとラメのような輝き交じりの黄色で光さんに声を掛けた。ただ、光さんは困ったように笑った。


「それなら、良かったのです……が、あの」


困ったように光さんが視線を兄上に向けた。


「どうかなさいましたか?」


ニコリと笑ったまま、兄が尋ねれば光さんは覚悟を決めたように口を開いた。


「さすがにこのような未成年の……幼い方に護衛をしていただくのは心が痛むと言いますか……」


その瞬間、笑顔のまま千歳さんが固まった。


「ぷっ」


噴き出す兄上の声。兄上は慌てて口を押えたが、肩がプルプルと震えている。


「え?」


戸惑った顔の光さん。


「わ、私はこれでも23歳で、清澄様と同じ年です!」


絶叫に近い言葉で響き渡った声に、光さんの金色の瞳孔が驚きで小さくなった。そして『え、本当に?』と確認するように兄上を見上げた。


「ふ、ふふっ!千歳は、私と、あと綾人と同じ歳ですよ」


兄が笑いながら言うと、光さんは驚いた顔で千歳さんを見た。何度も兄と千歳さんを交互に見る。分かりますよ、この二人が同じ歳は信じられないですよね。


「え、年上?」


その瞬間に第二騎士団の団員を含めて全てが動きを止めた。


特に皆さんの視線がどこに行ったかなんとなくわかる。


あの、ちょっと、女性特有の、膨らみ。


千歳さんはささやかでして、光さんはどちらかと言えば大きい方と言いますか……。


「ロリだ、幼女だ、合法だとかよく言われますけれども、これでもれっきとした成人の23歳です!というか、年下って一条さんおいくつなんですか!?」


「えっと、20歳です」


その言葉で第二騎士団の団員たちはまた固まった。


ええ、分かりますよ。見た目にもう少し年上に見えますよね。


それにしても、20歳の若さで武闘派揃いと名高い冬の国の第四師団の副師団長……春の国で言えば副騎士団長と同じ地位にいるわけですから、この方がどれだけハイスペックなのか思い知った気もしました。




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