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彩眼の次男は巻き込まれる~感情が色で視える参謀騎士、今日も修羅場です~  作者: まるちーるだ
二章 冬の宮廷、家出の姫君 ~兄上、これって宮廷loveでしょうか?~ 

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二節 冬の国


私の意思は、どうやらあまり反映されない運命らしいのですよね。


なんて愚痴を言いたい気持ちを抑え込んで、私が見たのは雪化粧の始まった山岳地帯の川。

昨日の辞令を貰ったところで、私は用意を済ませて、朝日が昇ると同時にこの場所にたどり着きました。


ああ、誤解なきように言っておきますが、転移魔法です。


さて、見渡す限り山の断崖を添うように流れる川。

私は爆破魔法の痕跡が残る場所に降りてみました。


地面の石が、まる滴る水のような溶け方をしているのを見て、多分ですが、ここで香さんが使ったのは普通の炎魔法ではなく、全てを焼き尽くす『秋里の業火』だったと理解しました。


「さて、魔力感知が出来るかどうか……」


そう言いつつも、香さんの魔力の痕跡を探します。

彩眼で見れば魔力がか細い糸のように繋がることがあります。

その僅かに見えるオレンジ色の糸が、もしかすると……。


私はその糸を辿るように走り出します。

向かった先に見えるのは滝です。


ゴオオオと吸い込まれていそうな轟音を立てる滝は落ちたら普通の人間なら上がってこられないでしょうね。


この滝の下は……冬の国になります。


「やはり……冬の国に流れたと、考えるべきですね」


そう思ったところで、用意していたものを取り出します。

空間魔法が付与されたポシェットから出したのは、平民でも少し上等な外套。

そして魔法で自分の服を軍服から、調査に使う商家の人間クラスの服に変えてしまいます。


念のため……香さんが着られそうな服……というか、母に持たされた母の服も入っていますが、これが役に立ちそうだと溜息を吐きました。


「降りるしかありませんね」


覚悟を決めて、私は滝の上に、いくつも結界魔法で足場を作り、トントンと下っていきます。

時折、頬に当たってくる飛沫水は、かなり冷たいと思いました。


降りきったところで感じるのは凍えるような寒さ。

どうやら滝の上よりも、下の方が明らかに雪は多い。

上から流れ落ちる水の音はザザザッと少し落ち着いて聞こえる気がした。


そして川に沿うような雪の上に見えるのは、か細いオレンジの糸。


繋がっているのは分かりますが、どうにも痕跡がこちらに帰ろうとした形跡がない。


「だとしたら……鉄砲水は思ったよりも威力があったのかもしれませんね」


そう言いつつも、川を下るように走り出した。

オレンジ色の糸はまだ川を沿って繋がっている。

ですが、少しずつですが、その色と太さが強さを増しています。


「この様子ですと無事なようですね」


少しばかりホッとしつつも、糸を辿り続けました。

段々と雪が増え、川の色が凍てつくような青に変わりかけた時、その糸が、初めて川から逸れました。


そして、その先に続くのは足跡。

歩幅が小さいところを見ると、身体が思うように動いてないようです。

ただ、この足跡は少なくとも昨日のものでしょう。

足跡の上から雪が更に積もっております。


「低体温症になっていなければよいのですが……」


私の懸念とは裏腹に、その足跡は山の崖の中にポツンと開いた洞窟に続いておりました。

ただ、魔力感知では中に、人の気配はありません。

念のため、剣を構えつつ、ゆっくりと中に入りますが、火が消えたような臭い。


気になるのが灰の匂いだ。


灰が散っている。

火を急いで消した——そんな散り方だ。


危険が迫り、慌てて消した——そう考えるのが自然でしょう。


「……遅かったですか。しかし流石香さんですね。このような状態でも、体温を保つようになさったのですね」


そう言いつつ生温くなっている洞窟内を見回した。

香さんは炎魔法のスペシャリストだ。

綾人さんと一緒でコントロールは下手ですが、どうやら彼女は服も乾かせるほどの炎で一晩を凌いだようです。

洞窟内は一晩、暖を取り続けたような残熱が残っている。


「さて、どちらに居るのでしょうかね?」


そう言いつつも、ここで魔力の糸が切れたのを見る。

切れたというよりは、切った、が正しいのでしょうか?


それとも切られた?


悩ましい状況ですが、とりあえず魔力感知をこの場から10㎞圏内に広げてみました。

少々魔力は食いますが、痕跡を辿れなくなる前に見つけないと。


すると、違和感のある魔力反応を二つ見つけました。


「見つけた……でも、これは」


頭が考えるよりも早く、私は走り出しました。

見つけた魔力は二つ。


一つは間違いなく香さんのものです。

でももう一つは……。


急く気持ちをどうにか抑え込んで、私が走り出した先は崖の上。

その魔力反応を感じたのは一面真っ白な雪に覆われる崖の上の平地。


そこで、白と黒の影を見つけました。

白い影は黒い影に手首を掴まれているように見えました。


「香さん!」


叫んだ瞬間、紅茶色の髪の彼女は振り返ります。


私は、咄嗟に結界魔法を香さんの目の前に展開し、そして転移魔法で飛びました。

驚くような香さんの表情を見ながらも、間髪入れずに転移魔法でその場から離れます。


100m、無理やり稼いだ距離の先で、香さんの居た場所に剣を振り下ろした黒い影。


「え、なん、で?」


香さんの戸惑う声が聞こえてきます。

それは戸惑うでしょうね。


「香さん、アレは、見た目が似ておりますが、魔力は別人です」


「え?」


目の前の魔力は明らかに違いますが、その姿は香さんの実姉・一条 光、その人の姿ですから。


ただ、私の言葉に、香さんはすぐさま剣を構えました。


防寒対策もまともにしていない香さんは寒さの所為か、少しだけ指先が赤く震えておりますが、すぐに動けそうではあります。

やはり、こういう言葉の理解度と、すぐさま動けるところは本当に実践向きの騎士だと思わざるを得ません。


「あら……避けられてしまいましたね?」


声もまるで同じなその人がニコリと笑う。

私は咄嗟に剣を構えます。


「貴女は……どなたですか?」


光さんに似た姿……いえ、同一人物と言えるほど似たその女性は、魔力の質が確かに光さんに似ていますが、別人だと分かります。


ついでに言えば、その胸に巣食うような、濁った黒い魔力は見覚えがありました。


忘れたくても忘れられない、瞼に焼き付いた光景。

一年前の喜哉での内乱で見た『蝕毒』に侵された騎士に見られた兆候と同じです。


「私ですか?冬の国の第四師団の副師団長……一条 光ですか?」


そう言いつつ、彼女が剣を構えた。


「次は、逃がしませんよ」


私の知っている光さんと同じようにニヤリと笑う女性。


瞬間、目にもとまらぬ速さで突っ込んできた彼女。


ガキンッ、と剣の重なる音。

速さは、完全に光さんと同等。


正面から競り合えば、私はまず敵わないでしょう。

正直に言えば、私は剣術に秀でた騎士ではありません。

——それでも春の国で上位二十に食い込む程度には鍛えているつもりですが。


けれど一条 光は、我が国で見ても一位か二位。


兄上と同格の、化け物です。


私が正面から受ければ、骨ごと砕かれて終わる。


ですが——光さんの剣は知っています。

その癖も、間合いも、踏み込みも、共に戦ったから知っている。


だからこそ、受け止められた。

彼女の剣を受け止めた私に反応した香さんが、その後ろから切り付ける。

しかし、彼女は簡単に避けて私をまた狙おうとしました。


「いいえ、貴女は光さんではありませんよ!」


咄嗟に彼女の足元に魔法陣を展開させましたが、それに気が付いた彼女は咄嗟に後ろに逃げた。


「やはり、貴女は光さんではありませんね」


足元に展開したのは『朝比奈の水』ようするに治癒魔法。

その魔法陣に、少し魔力が少なくなっていた香さんは回復したらしく、顔色の悪さがマシになっています。

何より指に感覚が戻ったらしく、剣の握り方に強さを感じます。


この人物が光さんなら、間違いなくコレを避けないでしょう。


「何を言っている?私は一条……」


「こちらケイト。お嬢、お嬢モドキ見つけましたで?」


急に響いた声。


声が、背中の皮膚を撫でた。

低く、冷たく、雪よりも冷たい声。


思わず私は冷や汗が出てきました。


その声の響いた方向に視線を向ける。


真っ黒な軍服に黒い外套。

肩に背負うのは、あまりにも大きすぎる大剣。


その出で立ちは、紛れもなく冬の国の軍人。


真っ黒な髪に、その緑色の目が、光さんの姿をした女を瞳の中に捕えていた。

彼の周りを飛んでいた黒い鳥がバサリと羽音を立てて飛び立ちました。

その鳥の喉辺りに魔法陣が見えます。


「無線魔法?」


私の疑問など、応える気もない男はニヤリと笑います。


「ほな、捕まえときますんで、とりあえず応援願うわ」


そう言った男は、真っ先に光さんの姿をした女性に向かって突っ込んでいきました。

ガンっと地面を割るような音、舞い上がる雪が風圧で四散する。


あの重そうな大剣が軽々と彼女に襲い掛かります。


その速さに、私はようやく理解しました。

——この任務は、既に私の想定を越えている。


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