プロローグ
二章 始まります!
誰もがこの日のことをこう言う。
『歴史が動いた日』と。
冬の国の宮廷の大広間に、歴史的な瞬間は訪れていた。
長く、暗く、冷たい冬が開けた冬の国の帝都は、お祭り騒ぎだった。
様々な楽器を鳴らし、手に持つ酒のカップを打ち合う。
その歓声を受けながら、我ら白の軍団が花嫁をこの国に送り届けに来た。
第一騎士団と第二騎士団が慈光宮 昆明殿下の指揮の元、この歓喜の道を進み続ける。
その道には、色とりどりの花びらがばらまかれていた。
そうして入った宮廷で、白の軍団が送り届けた紅茶色の髪の花嫁は幸せそうな顔で前を見た。
その視線の先には、黒の軍団に囲まれる黒髪の花嫁が幸せそうに笑っていた。
ただ、二人の花嫁は視線を合わせた瞬間、僅かに目元を潤ませた。
それは間違いなく、歓喜の涙を堪えただけではないのでしょう。
この二人の花嫁が歴史を変えたなど、誰もしらないであろう。
我が春の国の花嫁 秋里 香と、隣国の冬の国の花嫁 一条 光の生き別れた兄弟が起こした奇跡。
ここまでの道のりが、どれほど過酷で、どれほど危険であったか、知るものは少ないだろう。
ただ、ここまでの功績に、二人の花嫁がどれほど活躍したか、本当の意味で知っているのはごくわずか。
私、朝比奈 昌澄も、その本当の意味で知っているごくわずかな人間だ。
二人の花嫁は、自国の伝統衣装に身を包み、そして幸せそうに笑う。
その首元に光る宝石のような魔石に、私は思わず笑ってしまう。
黒髪の花嫁の首元には薔薇型の青い魔石が、紅茶色の髪の花嫁の首元には、夜空を思わせる魔石が飾られている。
魔石はプロポーズを受けた証だと意味を知る春の国の人間は少ないでしょう。
白の軍団より、春の国の第三王子、慈光宮 昆明が花嫁の手を引き、黒の軍団の皇帝に手渡した。
エスコートを受け取った花嫁は、そのまま皇帝の隣に並び、隣の花嫁と笑顔を浮かべ合う。
そして二人の花嫁は抱擁をする。
まだ、白と黒の軍団には、悠久の別れのような姉妹の抱擁を覚えている者が多い。
喜哉と土門の間で、一発即発の中、二人の花嫁はその空気をすべて消し去るように、抱擁し合った。
あの時の二人は、花嫁ではなく、騎士であり、捕虜でありました。
でも、今度の抱擁は違う……はじまりであり、再会の抱擁。
するり、と離れた抱擁から、黒髪の花嫁は自国に最後の別れを告げるように、綺麗なカーテシーを披露する。
体勢を直した黒の軍団の花嫁が、第三王子殿下のエスコートを受けて、こちらの白の軍団に歩んでくる。
春の国の白の軍団に送り届けられた秋里の花嫁は嬉しそうに花婿と視線を交えた。
熱が籠る視線の向け合いに、送り届けた白の軍団の彼女の兄は苦笑いでその様子を見守る。
対照的に、冬の国の黒の軍団に囲まれていた一条の花嫁はゆっくりと花婿の所にたどり着く。
殿下のエスコートから、我が兄のエスコートに切り替わり、二人もまた、視線を交じり合わせる。
その姿を見守る黒の軍団の彼女の兄弟たちは、少しばかり口角を上げて笑っている。
「貴国の『姫君』は確かに預かった。護衛ご苦労。今度は我が国の『姫君』をお預けしよう」
そう言った皇帝がゆっくりと二つの軍団の真ん中に歩んできた。
同じく第三王子殿下も同じ場所で対峙する。
二人の前に置かれた魔法誓約も含まれる調停書。
皇帝のサインと、第三王子のサイン。
それを受けた神殿の神官が魔力を込めて光を放つ。
「これにより、春の国と我が冬の国の国交樹立を宣言する」
皇帝の宣言に、広間から割れんばかりの歓声が轟いた。
そう、これは国によって分かたれた家族、姉妹、友……そして恋人。
全てが巻き込まれた戦いのエンドロールだ。
私、朝比奈 昌澄はホッとしたように息を抜きます。
どれほど、この二人の花嫁が苦心したか知っているが故に何とも不思議な気持ちです。
言うなれば、親戚のおじさんとはこんな感じの感覚なのでしょう。
ええ、正しく言うならば、関わり合いたくないのに、関わらざる得ない距離という事です。
現実には片方は私の義姉になることになりましたが、この義姉は、本当に『恋』で国を変えてしまったのだな、なんて思う。
まだ誰も知らないであろう黒髪の花嫁の一途な想いと、
まだ誰もしらないであろう紅茶色の髪の花嫁の類まれなる行動力。
ここから語るのは私、朝比奈 昌澄から見た二つの国を跨いだ二つの恋物語。
――そして、この結末に至るまでを私は語り出そう。
そう……何故か巻き込まれる原因になったあの事件を。
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