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彩眼の次男は兄夫婦の史実を暴露したい!~リア充爆発しろ、婚姻録~  作者: まるちーるだ
一章 雪の戦場、捕らわれの姫君 ~これってラブコメですか兄上!?~

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九節  彩眼副騎士団長とロリ騎士

昨日は散々だったな、と思い出しながらげんなりした。


兄上が連れ帰った敵国の姫君を見た母上。


絶賛フィーバー。


父上が使用人に指示して、客間を用意していたので事なきを得たが、母上の勘違いが天元突破の勢いで、もう凄かった。


流石の光さんも淑女の笑みが崩れて戸惑った顔で兄上を凝視していましたよ。



まあ、母上の暴走ストッパー兼、有給休暇となった兄上を屋敷に残して私はいつも通りの出勤することになった。


すみません、兄上。母上を止められる人間など、我が家にはいないのです。


そんな母は私が出勤するときに楽しそうに笑いながら……


『昌澄の方の子も今日来るのよね!ママ頑張るわね!』


キラキラの笑顔で言われましたが、母上、何を頑張るのですか?

むしろもう少し抑えてください。



そんなこんなで出勤した瞬間に、何故か第一騎士団の騎士団長様に首根っこ掴まれて、ひょいっと肩に担がれた私。


お米様抱っこ――セカンド体感中です。


「おはようございます?」


「おう、おはよう。ちょっと来てくれ。」


「背負う前に言ってくだされば歩いて行きますが?」


「まあ、楽にしていろ」


なんだか面白そうに言われつつ、周りの「キャー」という黄色い悲鳴と、黄色、オレンジの感情の色。あと若干混ざる腐った葡萄色。本当にあの色ってどんな感情なのですかね?


「楽にしていろ、と言われましてもね。第一騎士団の騎士団長様の肩は非常に居心地が悪いと言いますか……」


「なら代わりに千歳(ちとせ)を担いでくるが?」


綾人さんの言葉にビクッと身体を揺らしてしまった。


しまった!?反応してしまった!


「じゃあ、次は千歳を……」


「ワー、アヤヒトサンノカタサイコー」


「見事な棒読みだな」


くつくつと喉を鳴らして笑われるのをもう諦めてお米様抱っこで運ばれた先は、第一騎士団の騎士団長室だった。


着くと同時にすぐさま降ろされて、そこで目が合ったのは小柄な女騎士。びっくりした顔でポットに茶葉を入れていた。


「団長?何故、昌澄くんを背負ってきたのですか?」


柔らかな声が響いて、クソ!やられた!と叫びたい気持ちを抑えてニコリと笑った。


「おはようございます、千歳さん」


「ああ、おはよう昌澄くん。ついでにおはようございます、団長」


トンと、床に降ろされて何故か複雑な気分になる。考えてほしい。一歳上の男に軽々持ち上げられて、軽々降ろされる私の気持ち……。


そう言いつつも視線を小柄な女騎士へと向けた。


栗毛色の柔らかい髪は後ろで一つにまとめられており、馬のしっぽのように左右に揺れる。深い森を思わせる深草の瞳がこちらを見た。


私よりもはるかに小さい彼女が「はー」と長いため息を吐きながら、もう一つカップを用意した。


ポットに水魔法と炎魔法を組み合わせてお湯を注ぎ、そのまま蒸らし始めた。簡単にやっているが、二つの魔法を同時に発動させて、しかも小さくコントロールするというのは見かけ以上に難しいのだ。


それほどこの人は優秀な人だ。


「それで、紅茶を用意しとけってこのことですか?ついでに、昌澄くんを連れて来るなら先に言ってください。二人分しか用意していなかったんですよ!」


ぷんぷんと怒る姿が非常に可愛らしい……。いや、愛らしい?違う、微笑ましい?


諦めた。


本人に言ったら怒られると思うが、可愛らしいこの人は瞬木(まばたぎ) 千歳さん。第一騎士団の三席の実力を持ち、兄と綾人さんの数少ない同期の一人で、何気に剣術大会でも五位以内には入ってくる実力者だ。


ん、私ですか?前回は八位でしたよ。私は魔法の方が得意なのですよ。


「悪い悪い、昌澄も一緒に居た方が、話も早いと思って、な?」


ニヤッと笑いながらそう言う綾人さんにイラっとしたが、千歳さんを見てニコリと笑う。


「そう言うところが胡散臭いんだよな」


小声で言ったつもりでしょうが……。

聞こえてんぞ、このシスコン野郎!!


と、とてもじゃないけれども口には出せない暴言を脳内に浮かべながらニコッと笑う。その瞬間、何故か綾人さんが浮かべた色は黒というか、紺で、その色が表すのは恐怖なので、よくわからないが、一気に怒りが落ち着いた。


ふわりと香ってきたのは紅茶の匂い。三つのカップに注がれた紅茶が片側に二個、もう片側に一個がコトッと小さな音を立てながら置かれた。


そして一度カップを見た彼女が指でカップの縁へ魔力を飛ばした。少しばかりカップの縁が冷えたのを見て、改めてこの人は優しいなと感じる。


迷いなく綾人さんが一個側に座り、千歳さんは反対側に座り、私を手招きして隣に座るようにジェスチャーしてきた。


座ったところで綾人さんが優雅に紅茶でのどを潤したようだ。


というか、綾人さんは紅茶飲むのもいちいち貴族っていうか、礼儀作法が染みついているような感じですよね。兄上もそう言った傾向がありますが、私はその辺り少し緩い気がします。まあ、五家以外の友人から言わせれば充分優雅に見えるそうですが……。


そんなことを言いつつ紅茶を飲めば、隣から視線がジ―――っと送られてくる。横を向いてみれば凝視のようにジ―――っと見つめてくる千歳さん。


「えっと、美味しいですよ?」


「違う、隣に並ばれるとこうも作法というか、所作の質が違うというのが本気で分かるというか……。五家って次男でもこのクラスなのよね……。」


「おいおい、千歳。昌澄は結構崩している方だぞ?俺とか清澄見てみろよ」


「殿上人と並ぶことは天地がひっくり返ってもないので、見る必要もないですよ~」


そう言いつつ紅茶を飲む彼女も、やはり貴族。背筋をピンと伸ばしながら飲む姿は可愛ら……美しい。


「まあ、そうだな」


口端を持ち上げながら笑う綾人さんは何故か私を見てくる。

やめてくださいその目。生暖かい視線は勘弁してください。


そう言いつつ綾人さんはカップと皿を置いて私と千歳さんを見た。話が切り替わるのを察して私も千歳さんもカップと皿をテーブルに置いた。


「さて、真面目な話だ。」


綾人さんの言葉に反応したのは千歳さんで、すぐに防音魔法が展開されたのが分かった。


「さて、千歳。お前には護衛任務について貰う。」


「護衛、ですか?」


不思議そうな声で千歳さんが呟いた。


「なんだ、不満か?」


綾人さんの言葉に千歳さんは複雑そうな顔をした。


「いいえ、不満はありませんが、護衛任務に私ですと『もっと屈強な男にしろ!』だとか『こんな子供に護衛が出来るか!』ってしょっちゅう言われる私にその任務が珍しいと思っただけです」


千歳さんがその言葉を放った瞬間に見えたのは雷鳴を運ぶ雲のような紫と、深い深海のような青が混ざり合っていた。どうしようもない諦めと、悲しさ。その色を見てしまえば、私の視線に気が付いたのか、千歳さんがこちらを向いて苦笑いした。


彼女は彩眼をよく知っている。だから、感情が見えてしまったのに気が付いたのだろう。


「それは安心しろ。むしろお前を侮ってくれた方がありがたい。」


「へえ、どちら様の護衛で?」


「『一条 光』」


「へえ、『一条 光』……は?」


何気ない日常会話のようなテンポで言われた言葉が一瞬理解できなかったらしく、千歳さんが固まった。


「そ、それは……あの、噂になられているお方で?同姓同名ではなく?」


「朝比奈邸で軟禁保護されている『一条 光』だ」


「えっと……敵国……っていうか、冬の国の姫君?」


「そう、俺の従妹殿と判明した冬の国の姫君だ」


「……ま?」


「まじだ」


「えっと?」


「つべこべ言わずに護衛してこい。」


「え……ええええええ!!?姫様を護衛!!?ちょ、冗談じゃないですよ!せめて、護衛は五家レベルの人間がすべきでしょう!」


「だから清澄が護衛だろう」


「オーバーキルですよ!!清澄様が居たらそれだけで軍隊ですよ!ついでに言えば私近くに居たら巻き添え食らって死ぬ運命ですよ!!?」


「おいおい、流石の清澄だって未婚の女と風呂入ったり出来ねぇだろ?その辺、お前は同性だ、どうにかなる」


「はああああ!!?姫と風呂入れと!!?」


「ついでにトイレも行け」


「無茶言うな!この横暴上司!!」


「知らん、命令だ。」


「はあああ!!?」


「真面目な話だ」


すっと綾人さんの空気が変わった。すると千歳さんもまたきゅっと口を引き締めた。スッと2人の雰囲気が変わる。


「まず昨日の事件は聞いたか?」


「どちらですか?「冬の国の姫君が、我が第一騎士団の人間に暴行されかけた』件ですか?それとも『蝕毒』の件ですか?」


「両方だ」


「両方とも、ある程度は把握しているつもりです」


「なら話は早い。どう思う?」


「それは……どっちの件で?」


そう言いつつも千歳さんの視線が私に向いてきた。浮かべた色は青のような薄紫。それに巻き付くのは茨のような黒。つまりは迷いと疑い。


「ああ、昌澄はおおよそ考え付いているぞ」


綾人さんの言葉に「えっ!?」と驚いた声を上げた彼女は、確認するようにジッと私を見てきた。


「おおよそ、ですが」


「そっか」


私の返事に納得したように千歳さんは表情を消した。


「私の個人の考えですよ?」


「それで構わん。」


あくまで保険を掛けるように千歳さんが言った言葉に、綾人さんはあっさりとした返事を返した。


「最初に考えたのは『蝕毒』を配管等で外に出して、あとで回収する手でしたが――それに関しては朝比奈の双子くんたちが『彩眼』で魔力を追ってくれましたが不可と判明しました。」


「え?弟たち協力していたのですか?」


思わず口を挟んでしまったが、千歳さんは気にした様子もなく「はい」と答えた。


朝比奈の双子くん――つまり私の弟二人はいつの間にか捜査に協力していたらしい。まあ、二人とも第三騎士団に所属だから私が知らないのは仕方ない。


「相変わらず『兄、婿にどうですか?』ってプレゼンしてくるから丁重にお断りしておきましたけど。」


双子!?何プレゼンして、何断られているの!?押せよ!もっとお兄ちゃんアピールしてよ!


「話を戻しますが、それ以外にもう一つ調べていただいたのですが、研究員に『蝕毒』の魔力の痕跡が付いていないかも見ていただきましたが、いずれも『見えない』。お二人には別々に見ていただきましたが、両方同じ回答です。」


「なるほど」


思わず私はそう答えた。双子が見えなかったとしたら私でも見られないだろう。弟たちは兄弟の中でも『彩眼』の能力を強く継いでいる。魔力の痕跡を見て追えるのは弟たちだけだ。


「あと、ついでに見ていただきました」


その言葉と共に浮き上がったのは薄紫と黒。不安感と、不信感。いや、彼女の中で答えは決まっているのだと分かった。


ただ、信じたくない、と。


「王立研究所を監視無しで通れる権限――『迅速通行』の許可を持つのは五人。その中で王都にいるのは三人。」


「ああ、そうだな」


あえて千歳さんが話した『事実』を綾人さんが肯定する。2人の色は荒天、雷と豪雨でも振り下ろしそうな真っ黒な雲を思わせる色。信じたくないが、状況証拠が揃い過ぎているのか。


「疑わしきは我が第一騎士団……。」


そこで彼女は言葉を完全に止めた。断言したくないのだろう。だけれども、自ずと一人しか容疑者として浮かぶ人間がいないのも明白。


「今は泳がせる。が、『一条 光』は白石の腕輪で魔法が使えない。何としてでも守れ」


低く響いた綾人さんの言葉にスッと立ち上がった千歳さんは右手を左胸に当てて、騎士の礼をした。


「はっ!」


「ついでに昌澄」


「はい」


「今日はこのまま帰って千歳を『従妹殿』に紹介してくれ。風呂もトイレも一緒に行っとけって上司命令された旨も伝えろ」


「風呂とトイレは一緒じゃなくてもいいでしょ!?」


真面目なトーンで言ってきた綾人さんの言葉を、速攻で否定した千歳さん。複雑なことに、この二人は本当に仲が良いなと思ってしまう。


「ひとつ、よろしいでしょうか?」


とりあえず、手を上げつつ綾人さんに尋ねた。


「なんだ?」


「私が朝比奈邸で光さんに千歳さんを紹介するのは構いませんが、我が第二騎士団が団長も副団長もいない状態になるのですが……。」


「ああ、その点は問題ない」


そう言ってニコッと笑った綾人さん。意味深な笑みだな、と思いつつ、とりあえず喉が渇いたので紅茶を含んだ。


「元第三騎士団長殿に手を借りることにした」


「元……第三騎士団長?」


言われた言葉に思い浮かんだのは一人しかない。


いや、まさか、え、でも?とグルグルと思考が回る。


「もしかして、我が母ですか?」


「もしかしなくてもお前の母親だ」


ここで私は天を仰いだ。


『昌澄の方の子も今日来るのよね!ママ頑張るわね!』


朝の言葉の意味を理解した。同時に一つ言わせてほしい。


我が家の報連相どうなっとんねん!情報共有!何にも聞いてないんだけれども!


と、本気で腰が軽すぎる武闘派の第三騎士団長だった母上が楽しそうに第二騎士団へ行っているのだろうと思いつつ。魔法特化型の部下たちに『本気ですまん』と内心で謝るのだった。



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