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ライジング!  作者: 御堂志生
第一章 山を守る女神
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(1)富士へ

注意!……まずはじめに、本作は“なんちゃってレスキュー物語”です。


★リアルを追求される方、特に富士山・登山・レスキューに詳しい方には突っ込みどころ満載のお話です。


★人物や組織・施設などの固有名詞は、全て架空のものです。実在のものとは一切関係ございません。


以上の点、ご了承の上、よろしくお願い致しますm(__)m


 つややかな若葉の緑に包まれた富士山スカイライン。そこを、一台の黒い軽自動車が走っていた。古い車だがターボ付きのおかげでそこそこのスピードは出ている。

 ハンドルを握るのは本日……六月最後の日に目出度く三十路に乗った水原健みずはらたける巡査部長。彼は富士の新五合目にある山岳警察さんがくけいさつ富士山岳警備隊本部ふじさんがくけいびたいほんぶを目指していた。



 山岳警察――かつて山の安全は山を愛する民間の有志により支えられていた。遭難者の捜索はもとより各種パトロール、登山者の案内や指導、山小屋の安全確認なども全て民間主導であった。

 また救助が必要な遭難事故が起こった時、ある山では消防のレスキューが中心となり出動し、別の山では管轄の警察署が指揮を取る。そんな曖昧な形で行ってきたものを、統括する為に出来たのが山岳警察だ。

 適性試験に合格し、山岳レスキュー訓練を経て、最終採用試験に受かった者が日本全国に配置された山岳警察の各山岳警備隊に配属される。約二十年前に発足し、現在の採用方式をとってまだ十年程度の組織だった。


 水原健は史上最年長で一般の警察官から山岳警察に転向した変わり者だ。最終試験を突破し、この四月に長野県警山岳警察に着任したばかりである。

 ところが、様々なトラブルを起こし……結果、レスキュー隊員としての適性を問われ、所属する山岳警備隊隊長より下山命令が出て配属が宙に浮いたのであった。

 三十歳という年齢を考えても引き取り手はなく、通常であれば所轄勤務に戻されるところであろう。そこを、富士山岳警備隊の隊長が水原の配属先として名乗りを上げたのだった。

 

 それはある意味、水原にとって願ってもないことであったが……。



~*~*~*~*~



 富士山岳警備隊の本部は富士の新五合目、富士宮ふじのみや口近くに位置する。

 標高二四〇〇メートル。車で登れる最高位にある新五合目だ。静岡県側、南富士といわれる範囲が管轄となる。小さなものまで含めると、出動回数は年に一〇〇回を超え、ここ数年の登山ブームから昨年度は一四八回出動した。

 この出動プラス、山梨県側、北富士を受け持つ消防レスキュー隊富士本部の応援にも借り出される。北富士のほうが観光スポットが多く、登山客より観光客のトラブルが多い。

 事故の場合、そのまま消防レスキュー隊が出動する。だが、事件となると山岳警察に回ってくるのだ。一般には山梨県警の管轄である。しかし、富士山を統括する山岳警察として静岡県警に配置されているだけなので、それぞれに協力し合うのが常となっていた。


 富士山岳警備隊本部の真裏に隊員の宿舎がある。

 彼らは全員がここで寝起きし、夜間の緊急呼び出しにも備えていた。

 北側の消防隊員は全員が麓の富士吉田市に住み、山には通いである。それを考えると、直行出来る山岳警察に第一報が回ってくるのも頷ける。無論、その為に作られた組織なので当然とも言えよう。

 三階建ての宿舎で三階は個室が八部屋、二階は二人部屋で六部屋あり、最高二十人が入居可能だ。しかし、現在は新任の水原を入れても十一人。全員が個室であった。

 一階には食堂と談話室、大浴場があり、十一人中二人が既婚者だ。

 既婚者は麓の富士宮市内にある警察官舎に家族が住んでいる。既婚者に限り、登山客の集中する夏から秋以外は、麓からの通勤が認められていた。



 水原はアルトワークスを宿舎横の駐車場に停めた。スペースは広く取られ、先に六台の車が駐車してあった。建物のすぐ横には二台の中型バイクも置いてある。

 彼は車から降り、最初に寒さを感じた。半袖Tシャツにジーンズのスタイルだ。平地ではごく普通に格好だが、この標高では些か辛い。

 ちなみに、水原は髪をスポーツ刈りにして特に染めてはいなかった。身長百八〇センチ、体重八〇キロの屈強な体格は、山男の呼び名に相応しいものであろう。

 大きな荷物は先に送ってある。彼は手荷物を抱えて、まずは宿舎に入って行く。

 

 設立当初に建てられた宿舎は築二十年の雰囲気が漂っていた。

 玄関に足を踏み入れ右側に管理人室がある。常駐している規則だが……。小窓から覗き込むが無人であった。小用かも知れないと水原はしばらくその場にいたが、誰も戻る気配はない。呼び鈴もないので、彼は仕方なく奥に歩を進めた。

 薄暗い玄関から真っ直ぐに伸びた廊下を通り抜け、突き当りの食堂に出た瞬間、視界が開けた。

 食堂にも人気ひとけはない。だが、大きな窓からは夏間近の光が射し込み、広いフロアを満たしていた。空気は冷たいが陽射しは暖かい。

 食堂には、一つに六人は座れる大きなテーブルが三脚あった。年季を感じさせるクリーム色の天板は、所々剥がれていて素地の板が見え隠れしている。学生食堂を思わせるスチール製の椅子も、あちらこちらに見えるさびが渋い味を出していた。



 そんなことに気を取られ、水原が椅子の背もたれに手を掛けた瞬間――。

 奥のドアがいきなり開く。

 おそらくは厨房へと続く扉であろう。逆光に照らし出され人影が浮かび上がる。


「誰?」


 その声を聞いた時、水原の動きが止まった。

 それは若い女性の声だ。まさか、山岳警備隊の宿舎で若い女性の出迎えがあるなどとは思ってもみなかった。完全に意表を突かれた形だ。しかも逆光に目が眩み、一瞬何も見えなくなった。だが、目を凝らして見つめた時……水原は息を呑む。


 年齢は水原と同世代であろう。肩より少し下のストレートの黒髪が、厨房から吹き込む風に靡いた。意志の強そうな漆黒の瞳は真っ直ぐに水原を見つめている。

 そして水原が目を奪われたのは、白いショートパンツからすらりと伸びた足。続いて、上半身にピッタリフィットした五分袖のTシャツであった。それも……ノーブラだ。U型のネックラインからは見事な谷間が見えている。女の胸は七割方作り物だと思ってきた水原にとって、目に映る本物はインパクト大であった。視線はそこに釘付けとなり……水原は、かなりの時間見とれる羽目になる。


「ここは一応警察だから……泥棒も不審者も間に合ってるんだけど」

 その女性はドアにもたれ掛かると胸の下で腕を組み、苦笑いを浮かべて言った。どうやら、水原の視線に気づいたらしい。不審者相手にしては、随分余裕のある伸びやかな声だ。この状況でヒステリックな声を上げない女性は珍しい。そんな感想が水原の頭に浮かぶ。


「あ、いや、自分は七月一日いっぴ付けでこちらに配属になりました、水原健巡査部長であります」

「ああ、あなたが。えっと……私は」


 その時、厨房の奥から突如悲鳴が上がった。




御堂です。ご覧いただきありがとうございます。

また毛色の変わった作品を……とお思いの皆様、すみませんっ(汗)

山岳警察なんて勝手に作ってしまいました。

でもっ、書いてみたかったんです!!(涙)


1章が15話~20話で、章ごとに完結するタイプ(1話完結のドラマみたいな感じ?)なので、気楽に読んでいただけるんじゃないかと(笑)

ぜひ読んでやって下さい!!(平伏)


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