マジカルコンビニ〜その商品、幻か現か〜
その日、ザルフェスはレジ横で“トリチキン”を眺めながら、自分の魔力で揚げた方が美味なのでは…と真剣に悩んでいた。
そこへ、ひとりの中年男性客が現れた。
「すみません、探してる商品があるのですが……」
「ほう、探し物か……ふはは、任せるがよい!」
ザルフェス=グラン=ミラージュ、偉大なる探求の魔法使いは背筋を伸ばし、マント(エプロン)を翻した。
「この“ナナゾーン”に存在する全商品は、我が記憶の中に刻まれている。そなたが求める品など、もはや明白よ」
「じゃあ……お願いします」
「うむ、してその商品名は?」
「えっと……“ちょい辛マヨ明太パスタ”ってやつで、昨日の夜この辺にあったはずなんですけど」
ザルフェスの表情が、一瞬で険しくなった。
「……ほう」
「?」
「我が知識にない品……まさかこれは“失われしメニュー”、すなわち封印された幻の料理……!」
「いや、昨日食べたんだけど……」
「まさか……そなた、時空を超えて商品を見たというのか?!」
「いやだから昨日――」
「黙れ! これは時空因果の干渉による影響、もしくはこの空間に“パスタを喰らう闇の精霊”が潜んでいたに違いない……!」
ザルフェス、神妙な顔でアイスケースを開ける。
「え? なんでアイス?」
「我が直感が告げている。この冷気の裏に、“ちょい辛マヨ明太”が眠っていると……!」
「絶対ちがう……!」
そこへ、後ろからエプロン姿のいちかが現れる。
「……あんたまたお客さん困らせてるの?」
「いちか! まさか貴様、ちょい辛マヨ明太パスタの封印場所を知っているのか!?」
「知らんけど、昨日の夜だけの“夜限定商品”だよ。朝には下げてる」
「……ッ!なんということだ……。つまり今は……」
「ない。だから素直に“販売終了です”って言いな」
ザルフェス、崩れ落ちながら叫ぶ。
「なんという理不尽ッ……! この世界、恐るべし……!」
「……なんかすいません」
客は言った。
「いや、毎日こんな感じなんで。気にしないでください」
いちかも言った。
こうしてまたひとつ、ザルフェスは現代のルールを学んだ。
・限定品は“魔法”ではなく、“時間”で消える
・冷凍庫を開けてもパスタは出てこない
・困ったらいちかに任せるのが一番早い
以上である。