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第一話 豪雪地帯での出会い

雪は、全てを飲み込んでいた。


白銀の世界に、勇者アルベルトの足跡だけが続いている。

だが、その足取りもやがて深い雪に沈み、風と共に消されてゆく。


「なんで……こんなすげぇ寒いところに……人が住んでるの……?」


彼は凍てついた指を口にあてながら、白く曇った息を吐いた。


目の前には、雪に押しつぶされた民家の屋根が見えていた。

柱は折れ、壁は歪み、誰の声も、気配もない。1日いたら人が死ぬ場所である。


ベビーサタンのさっちゃんが、彼の肩に降り立った。


「この国じゃ、毎年何人も雪に埋もれて死ぬのよ。でもね……それでも人は、ここで生きるのよ」


「強すぎる……」アルベルトは、震えながら言った。


「もう、無理かも……俺、あったかい布団でカレー食べたい……」


「スカウトリストには“雪国の女剣士”って書いてあったでしょ?」


さっちゃんは小さく肩をすくめて言った。


「この子はねぇ、“流星剣”っていう連撃技の達人で、並の魔物なら瞬殺。かなり強いらしいよ」


「その女剣士に会う前に、俺が凍え死にそうなんだけど……」


その瞬間、突如として吹き荒れた突風がアルベルトを襲った。吹雪である。


「うわっ、ちょ、やばっ……寒い……」


意識が遠のく中、アルベルトの耳にかすかに誰かの足音が届いた。


――ザクッ、ザクッ、ザクッ。


重たい雪を踏みしめてくる、確かな歩調。


そして、勇者アルベルトの意識が暗闇へ沈んでいった。


挿絵(By みてみん)


目を覚ましたアルベルトの視界に、暖かな囲炉裏の火と、ひとりの女性の姿が映る。


「お主の使い魔が、私を呼んだのだ。……助ける義理などなかったが、放っておけば、お主は雪に喰われていた」


彼女の名はお雪。

“流星剣”の使い手でゼロ部隊が注目する、剣士。


「すげぇ偶然……まるでドラマみたいだ……」


「偶然ではない。運命など信じないが……あの夜、何かが導いたのかもしれない」


お雪は、アルベルトの瞳を正面から見据えた。


「お主の目的は知っている。ゼロ部隊へのスカウトだろう?だが私は応じられぬ」


「どうしてもダメですか?」


「私にはやらねばならぬことがある。親の仇だ。かつてこの地に赴任した悪代官が、私の両親を"誤って"殺した。すべては処理された。雪と共に、証拠も感情も埋もれた」


お雪の声は震えていなかった。ただ、凍てついていた。


「正義も、国も、何も私を救わなかった。ならば、私が剣を振るうしかない。……私は、憎しみのために生きている」


アルベルトは一瞬、何も言えなかった。


(こんなにも孤独な怒りを、一人で抱えてきたんだ……)


さっちゃんが小さくアルベルトの肩で鳴く。


「ねぇ、アルベルト。あなたなら、どうするの?」


アルベルトは立ち上がった。


「じゃあ、俺が手伝うよ。その君の復讐を」


お雪の瞳が、揺れた。


「……おぬし、何を言って――」


「理屈とか正義とかは置いとく。君が心を取り戻せるなら、俺はその剣の隣に立つ。でも約束してくれ。復讐のあとに、ちゃんと未来を見てくれるって」


一瞬、風が囲炉裏の火を揺らした。


お雪は目を伏せ、そして静かに問いかけた。


「おぬし……名は?」


「勇者アルベルト。今はゼロ部隊の人事部部長だけど、今日は、君の仲間になりに来たんだ」


静かに、雪が窓を打つ音が響いた。


外はまだ吹雪。けれど、この家の中には確かに、何かが生まれはじめていた。

冷たさの中の、炎のような剣士の絆が。


今宵の○○剣はよくキレる。



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