第四話 優しい竜のお姫様
――それは、まるで夢のような知らせだった。
募金開始からわずか一週間で、「竜保護と共生のための支援基金」は目標額の三倍を超える金額を記録した。
「竜は、我らと共にあるべき生き物だ」
「未来の子どもたちにも、竜の姿を残したい」
「勇者アルベルトが守るというなら、信じよう」
国内外から寄せられる声援と善意が、ドラゴの空を新たな希望で満たしていった。
そして――訓練所の上空に、無数の竜が、誇らしげに舞っていた。
その空を、ミッシェル・ガンエレファントは、そっと見上げていた。
「……こんなにも……早く、こんなにも多くの人が、竜を愛してくれるなんて……」
訓練場の片隅に立ち尽くし、彼女は肩を落とした。
涙ではなかった。ただ――自らの無知と、驕りを噛みしめていた。
「私は……すべてを背負おうとして、誰も信じなかった。誰にも頼らなかった。ただ、強くあらねばと、そればかり……」
そう呟いた声に、柔らかく風が揺れる。
「でも、その“強さ”があったから、俺はここに来られた」
振り返ると、そこには勇者アルベルトがいた。いつもの軽薄な笑みもなく、まっすぐな眼差しで彼女を見つめている。
「姫。お前がいたから、国は滅びなかった。お前が戦ったから、竜は守られた。その強さを、今は……他者と“分け合う”時だと思う」
ミッシェルの心に、温かい灯がともる。
それは、孤独に慣れすぎて忘れていた“誰かに寄りかかる勇気”。
彼女は歩み寄り、静かに言葉を紡いだ。
「勇者アルベルト、あなたのスカウト、正式に受けよう。私の力を、この国のため、そして未来のために使ってくれ」
風が止み、空が澄み渡る。
「この国を、竜の中立国とする。戦争も、復讐も、血の継承も終わりにする。これからは竜と共に生きる国として、後世へ繋ぐ」
その言葉は、まるで新しい時代の鐘の音だった。
さっちゃんが空を飛びながら叫んだ。
「竜の姫がついに本気を出したーッ! 闘いのない中立の国としてドラゴ、変わるわよーッ!」
空の竜たちが一斉に吠えた。咆哮は喜びの歌となって山々に響き渡った。
そして、アルベルトは静かに言った。
「この竜の国ドラゴは、優しい竜のお姫様にふさわしい未来を迎えるだろう」
ミッシェルは、ふと笑った。
それは誰も見たことのない、心からの笑顔だった。