表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/47

第三話 姫と竜と、勇者の対話

ドラゴの朝は、竜たちの咆哮から始まる。

竜の訓練場の奥、石の厩舎から吹き出すような熱気。巨大な鱗がこすれる音。鎖が鳴る。そんな煉獄のような場に、一際柔らかな笑い声が響いた。


「ほら、じっとして。そこはくすぐったいのね、ふふっ」


アルベルトは、その声に足を止めた。


目の前にいたのは、あの“修羅の姫”ミッシェル・ガンエレファント。


だが、そこにいたのは王族の威厳に満ちた姫ではなく、ひとりの竜を慈しむ女性だった。


短く切りそろえた黒髪が朝露に濡れ、太陽の光が虹色の水飛沫を跳ね返す。竜の背にまたがり、鱗の隙間を丁寧に磨く彼女の表情は、まるで母のように優しい。


「……あれが、本当に“修羅の姫”か……?」


驚きに声を漏らすアルベルトの肩に、ベビーサタンのさっちゃんがとことん軽やかに降りてきた。


「ね、驚いた? あの子ね、竜が本当に大好きなのよ。玉座のミッシェルと、ここにいるミッシェルは別人よ」


「どうして……その顔を、玉座では見せない?」


「そんな顔を見せたら、国が崩れるからよ。彼女は、“優しさ”を封じ込めて、全部一人で背負ったの」


アルベルトは黙って歩みを進め、竜の足元に立った。


「姫、いい磨きっぷりだな。俺にも手伝わせてくれ」


振り返ったミッシェルの目が、驚きに見開かれる。


「……貴様……なぜここに……私の訓練場だぞ」


「人事部の活動の一環ってことで。俺も竜は好きなんだ。ほら、これでも魔王のペットを救ったこともある」


彼女は、しばらく無言だったが――やがて小さくため息をついた。


「……勝手にしろ。だが、竜が嫌がったら即刻退場だ」


「了解だ、優しい姫さま」


二人で竜の背を磨く。その作業の静けさの中に、奇妙な連帯感が生まれ始めていた。


アルベルトはふと口を開いた。


「竜の治療施設、作れたらいいな。俺の国に、魔法医術の研究者がいる。協力してくれるはずだ」


ミッシェルの手が止まる。


「……貴様の国に、竜を任せるとでも?」


「任せるんじゃない。連携だ。姫の国に研究施設を作る。俺は金と人を集める。姫は現場の指揮を取る。そして――竜を“生き物”として守る」


「……そんな金、どこにある?」


アルベルトはにやりと笑った。


「俺が広告塔になる。勇者アルベルトが“竜保護のための募金”を始めるって言えば、貴族も庶民も企業も、こぞって金を出すさ。子どもたちだって募金箱を持って走り回るだろう」


「……貴様、自分の顔がそんなに売れると思っているのか?」


「売れるさ。残念ながらな。見ろよ、この爽やかスマイル」


「……バカか、貴様は」


そう言いながらも、ミッシェルの声に笑みが混じっていた。


彼女は竜の首に頬を寄せ、しばらく黙っていたがやがて、ぽつりと呟いた。


「そんな未来が……もし、本当にあるなら……」


「あるさ。勇者の俺と、優しい竜の姫様がやるんだろ?」


その瞬間、ミッシェルの瞳の奥に、わずかだが確かに光が差し込んだ。


それは、絶望を越えて差し伸べられた手に、心が触れた証。


竜が二人の間に鼻先を寄せ、柔らかな鳴き声を上げた。


新たな風が、ドラゴの空を吹き抜けた。

それは始まりの風だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ