第一話 傷だらけの竜騎士の姫
―沈む竜の王国――
隣国との戦争による戦火のにおいが、今なお王都にこびりついている。
瓦礫の山と、焼け残った塔。
かつて「竜の空中庭園」と呼ばれた壮麗な城は、今や損傷と破壊され瓦礫だらけの石造りの砦へと変わり果てていた。
【ドラゴ王国】
かつて、竜とともに空を翔け、鉄壁の騎士団を誇った栄光の国。
だが今、その名を聞いて敬う者は少ない。
隣国との戦争は泥沼化し、竜の数は減り、兵士の士気は地に堕ちた。
街には、竜の死骸を焼いた灰が舞う。
兵糧は底を尽き、民はパンではなく泥に塩をふりかけて飢えをしのいでいる。
王位継承者だった兄・ランバードの戦死から、すべてが狂った。
玉座に残されたのは、“女”であるがゆえに排斥され続けてきた次女、ミッシェル=ガンエレファント。
彼女は王ではない。
だが、誰よりもこの国のことを思っていた。
誰よりも、竜の涙を見てきた。
そして今、誰よりも、誰にも頼れずにいる。
夜な夜な、彼女は兵士の名簿に赤線を引く。
今日死んだ部下。昨日欠けた竜。
未来に希望を繋げる数字は、もうどこにもなかった。
それでも、立ち続ける。
(誰かが、やらねばならぬのだ。誰かが、鬼の修羅となり、国を守らねば。)
「……誰にも、頼れない。ならば、牙を研ぐしかない」
誰にも見せない部屋の奥。
鏡の前で、彼女はそう呟きながら、自らの肩に残る爪痕を見つめていた。
それは竜ではなく、味方に切られた傷だった。“女が出しゃばるな”と、罵声を浴びせた将軍の剣を受けた痕。
それでも、涙はこぼれない。
涙は、死んだ兄と共に埋めたのだ。
だから彼女は、こう言うのだ。
「国のためなら、私の心など砕けて構わぬ」
だが、ほんのかすかな声が胸の奥でうごめく。
(本当は、誰かに……─誰か、私を……助けて……)
そんな思いがあることすら、彼女は気づいていない。
その“声”に気づく者も、まだ現れていない。
そのときだった。
「ドラゴ王国に、世界を救った勇者アルベルト来訪」との報が、玉座に届いたのは。
勇者アルベルトの来訪により
彼女の運命が大きく変わろうとしていたことに、まだ彼女はきずいていなかった。