第四話 信頼の基礎と解けた氷
薄曇りの朝。
大学の研究所の奥、小さな鏡の前で、マリ・キュウリは眉間にしわを寄せていた。
淡い緑のワンピース
目元にはごく薄くシャドウが差し、唇には控えめな紅いグロス。
その様子を、部屋の入口からふと覗いたのは──勇者、アルベルト。
(……あれ、マリ先生……化粧、してる?)
まるで“彼女の無防備な裏側”を見てしまったような一瞬。
アルベルトは息を呑み、魔法【キズキ】が無意識に発動する。
感情の共鳴。
一瞬、マリの心の“色”が流れ込んできた。
(……ばかみたい。こんなことしたって、あの人が気づくわけないのに)
(それでも……今日だけは、ちょっとだけ……綺麗でいたい)
その想いが、あまりにもまっすぐで。
あまりにも痛いほど優しくて。
(……マリ先生 可愛いい)
すぐに気配に気づいたマリが、鏡越しに目を見開く。
「み……見たわね」
「いや、違う、たまたま……その……!」
「……ばか」
でも、その言葉に棘はなかった。彼女の頬がほんのりと染まっていた。
【吊り橋の事件】
午後、二人は王都郊外の古い塔に向かっていた。
アルベルトの魔力に異常値が見られ、その計測のためにマリが選んだ場所だった。
塔を繋ぐのは、細い吊り橋一本。
下は断崖。風が強く、板がギシギシと鳴る。
「……こんな非合理的な構造、なぜ放置されているのかしら」
「マリ先生が怖いなら、俺が先に渡るぞ。ほら、手貸すから」
「べ、別に怖くなんか……っ、きゃっ!」
風が強く吹き、足元がぐらついた瞬間、彼女は反射的にアルベルトの腕をつかんでいた。
彼の腕の温かさ、鼓動。
互いの顔が、思いがけず近い。
「……」
「マリ先生、大丈夫か?」
「……な、なんでもない」
だが、吊り橋の真ん中で再び突風が吹く。
その瞬間、古びた板が──バキッと音を立てた。
マリ「──!」
アルベルト「っ!」
彼はとっさに彼女を抱きかかえるようにして、対岸まで飛び移った。
着地の衝撃で、マリは勇者アルベルトの胸元にしがみついたまま、しばらく動けなかった。
【研究所に戻って】
その夜、研究所の天井を見上げながら、マリは独り言のように呟いた。
「……なぜ、あの瞬間、怖くなかったのかしら」
(誰かに守られるなんて、信じてこなかった)
(けれど、彼に抱きとめられた瞬間、私は──)
アルベルトの目。腕の強さ。鼓動の音。
全てが“信頼”の輪郭を持っていた。
「私は……彼を、信じてしまったのね」
そして──
気づけば、頬が熱い。
「……やっぱり、ばか。どうしてあんなに……真っ直ぐなのよ」
次の日。アルベルトは研究所を訪れる。
「よマリ先生。昨日は大丈夫だったか?」
「ええ。あなたのおかげで、ね」
彼女は、前よりも少しだけ優しい顔をしていた。
瞳の奥に、“拒絶”ではなく“信頼”の光が灯っていた。
「あなたが必要だわ。研究にも、私にも」
「……え?」
「観察対象から、共同研究者へ。昇格よ。文句ある?」
「……ないよ、先生」
氷の教師の彼女がふと笑った。
それは氷の仮面が完全に溶け、“女性”としてのマリ・キュウリが現れた証だった。
翌日
「あなたの、スカウト正式に受けるわ」
ゼロ部隊の科学者としてのスカウトを勇者アルベルトから正式に受けるマリ・キュウリであった。
しかし、夢のハーレム生活まではまだまだ道のりは険しい。
次はどんな美女が俺を待っているんだ!アルベルトの美女スカウトの旅は続く。