第二話 天才眼鏡の女性教師を惚れさせろ
バーバド王国の南端、風の街エアリスにそびえる学術都市 バーバド大学 薬学部。
その中でも異彩を放つ天才女性がいた。
名は、マリ・キュウリ。
世界で唯一、ノーベル化学賞を二度受賞した天才科学者。
しかし彼女は決して美しさを誇ることはなかった。常に無表情、化粧っ気ゼロ、分厚い眼鏡に黒いローブ。
ただ、そのローブの下から見え隠れするボン・キュ・ボンなシルエットだけが、学生たちの心をざわつかせる。
「あなた。……どこを見ているの?
授業に集中できないなら、退席してもらっても構わないけれど?」
冷たい視線。容赦ない言葉。
彼女を口説いた男たちは星の数ほど知れず。しかし、誰一人、彼女の氷の心を溶かすことはできなかった。
講義中、彼女の声が響く。
「……そこ。あなた、どこを見てるの?胸元?だったら退席してもらえるかしら。目障りなの」
「す、すみません……!」
「知性がない男に、私の講義を聞く資格はありません」
冷たい、まるで氷刃のような言葉。
しかしその一瞬、彼女の視線が一人の男に向けられた。
そう、俺、勇者アルベルト。
講義終了後。彼女が講義室を去ろうとするその時。
「マリ先生、少し時間をくれ」
彼女は一瞬だけ足を止めたが、振り返らず答える。
「貴方が“勇者”だとしても、私には関係ないわ。英雄にも、魔王にも、興味はありません」
「わかってる。けど、俺は戦いに来たわけじゃない。スカウトに来たんだ。
あんたの力を必要としてる人間がいる。ゼロ部隊に来てほしい」
「……断るわ。私は男の人に使われるのも、近づかれるのも嫌いなの」
俺はここで魔法「キズキ」を発動。彼女の感情の波を感じ取ろうとした。
……が、途端に拒絶の念が跳ね返ってくる。
強烈な“恐れ”それは男性に対する恐怖だった。
(これは……?)
「マリ先生……」
「……変な魔法を使いましたね。最低です、あなたにも一応言っておきますが、 講師への精神干渉は校則第48条違反です。次やったら、溶解液に漬けて脳みそから観察させてもらいます」
怖すぎるぅうう!!
勇者アルベルトの初の接触は氷の女王の分厚い氷の壁に跳ね返されるのだった。
ゼロ部隊の仮設本部にて。
「やっぱり、俺に向いてないんじゃないかな…こういう任務…」
勇者アルベルトは、机に突っ伏していた。
任務第一弾のスカウト対象マリ・キュウリに接近を試みたが、結果は完全敗北。
魔法を使っても、彼女の心には何の波紋も立たない。
「あんた…誰にでも、つくり笑顔で笑いかけてるような男ね。気持ち悪いわ」
「は…はい…すみません…」
彼女に会った瞬間、アルベルトの“いつもの調子”は通用しなかった。
心の奥に触れようとすると、まるでそこには鋭利な氷塊が存在しているかのようだった。
「ま、失敗すると思ってたけどねぇ」
ゼロ部隊裏司令官、ベビーサタンのさっちゃんが、飴を舐めながら嘲笑う。
「彼女、過去に“ある事件”で男にひどい目にあってさ。
それ以来、男全員を“敵”だと判断してんのよ。
口説くどころか、近づくだけでアウトってタイプ」
「……でも、それでも……誰かが近づいて、彼女を救わなきゃいけないんじゃないのか?」
アルベルトの瞳に、ほんのわずかな炎が灯る。
「氷の中に閉じ込められてる心ってさ……本当は、誰かに見つけてもらいたがってる。 だったら、勇者として見捨てるわけにはいかないだろ」
「ふーん。で、どうすんの? 第二ラウンドあるの?」
「作戦名ミラー・シンドロームを発動だ」
勇者アルベルトは決してあきらめない不屈の魂で夢のハーレム生活を実現させるべくミラー・シンドローム作戦を発動させるのだった。